第十五章 内なる敵
火の手は瞬く間に広がった。
王都の各所で同時多発的に炎が上がり、市民たちは悲鳴を上げてパニックに陥った。
「火事だ!」
「逃げろ!」
「助けて!」
誠一は南門から街の中心部を見つめた。赤い炎が夜空を染め、黒い煙が立ち昇っている。
「誠一さん、どうしますか」
エルナが不安そうに尋ねた。
「まずは状況を確認する」
誠一は『鷹の眼』を発動させた。
視界が鮮明になった。炎の向こうに、黒い影が動いている。人影だ。複数の人影が、街の中を組織的に移動している。
「工作員だ。やはり計画通りに動いている」
「どうしますか」
「エルナ、他の門に連絡を取れ。東門、西門、北門——すべてに警戒態勢を伝えろ」
「わかりました!」
エルナは駆け出した。
誠一は一人、南門に残った。
やがて、足音が近づいてきた。
城門に向かって、一群の人影が走ってくる。黒いローブを纏い、武器を手にしている。
「止まれ!」
誠一が叫んだ。
人影たちが足を止めた。
「何者だ」
「城門警備隊の桐生誠一だ。お前たちこそ、何者だ」
「邪魔をするな、人間」
先頭の人物が言った。フードの下から、鋭い目が覗いている。人間ではない。魔族だ。
「この門を開けさせてもらう」
「させるか」
「お前一人で我々を止めるつもりか? 戦えもしない警備員風情が」
魔族が嘲笑した。
誠一は動じなかった。
「お前の言う通りだ。俺には戦う力がない。しかし——」
誠一は背後を指さした。
城門の上に、何人もの人影が現れていた。城壁の見張り台から、弓を構えた兵士たちがこちらを狙っている。
「俺一人では止められない。しかし、一人ではない」
魔族たちが動揺した。
「予備兵力か?」
「予備ではない。俺が頼んで、配置してもらった」
正確には、ハインリッヒに無視された後、誠一が独自に手配したのだ。城壁の見張りを担当していた兵士たちに事情を説明し、協力を取り付けた。警備員の言葉など聞かないと思っていたが、案外すんなりと協力してくれた。
「お前たちが動けば、矢が飛ぶ。弓兵は十人以上いる。お前たちは何人だ?」
魔族たちが互いに顔を見合わせた。
「くそ……」
「諦めろ。ここは通さない」
誠一は一歩前に出た。
「それから——」
遠くから、複数の笛の音が聞こえてきた。他の城門からの合図だ。
「他の門でも同じ状況だ。お前たちの計画は、すでに筒抜けになっている」
魔族のリーダーが顔を歪めた。
「……撤退だ」
「何だと?」
「計画は失敗した。ここで無駄死にする必要はない」
魔族たちは踵を返し、街の中へ消えていった。
誠一は息を吐いた。
南門は守れた。しかし——
「他の門はどうなっている」
誠一は城壁の上に駆け上がった。
王都の全景が見えた。火の手は複数の場所から上がっており、街は混乱している。
「まずいな」
東門の方角から、激しい剣戟の音が聞こえた。あちらでは戦闘が始まっているらしい。
「誠一さん!」
エルナが戻ってきた。
「東門が突破されました! 魔族の先遣隊が侵入しています!」
「なんだと!」
誠一は顔をしかめた。
「ゴルドは?」
「東門の担当です! まだ連絡が取れていません!」
「くそっ」
誠一は城壁を降り、走り出した。
「エルナ、お前はここに残れ。南門の警備を続けろ」
「でも——」
「俺は東門に向かう。他の隊員と連携して、市民の避難誘導を始めてくれ」
「わかりました!」
エルナは頷いた。
誠一は街中を走った。
火の手を避け、パニックに陥った市民たちを避け、東門へ向かう。
途中、何人もの市民とすれ違った。
「逃げろ! 魔族が来るぞ!」
「王城へ向かえ! 王城は安全だ!」
誠一は叫びながら走った。
やがて、東門が見えてきた。
門は——開いていた。
城門が内側から開け放たれ、そこから黒い影が流れ込んでいる。魔族の先遣隊だ。数十人の魔族が、王都の中に侵入していた。
「ゴルド!」
誠一は叫んだ。
門の近くで、戦いが繰り広げられていた。ゴルドが斧を振るい、魔族たちと渡り合っている。彼の周りには、倒れた魔族の死体が転がっていた。
しかし、多勢に無勢だ。ゴルドは傷だらけで、息も荒い。
「誠一か! 助かった!」
「何があった!」
「門番が裏切りやがった! 内側から門を開けられた!」
門番が裏切った。工作員は、すでに城門の内部に潜り込んでいたのだ。
「くそ……」
誠一は周囲を見回した。
魔族たちは門を突破した後、街の中に散らばりつつある。このままでは、市民が殺される。
「ゴルド、ここを任せられるか」
「なんとかな! だが、長くは持たん!」
「わかった。応援を呼んでくる!」
誠一は走り出した。
騎士団本部へ向かう。ハインリッヒを動かすしかない。
しかし——
『予兆感知』が、さらに強い警告を発した。
「まだ何かある——」
誠一は足を止め、周囲を見回した。
すると、王城の方角から煙が上がっているのが見えた。
「王城まで——」
魔族の狙いは、城門だけではなかった。王城そのものを攻撃しているのだ。
「王女殿下!」
誠一は進路を変え、王城へ向かって走り出した。
* * *
王城の周囲は、すでに混乱に陥っていた。
城壁の内側で戦闘が行われており、騎士たちと魔族が激しく交戦している。火の手が上がり、悲鳴と剣戟の音が入り混じっている。
「予備部隊は何をしている!」
誠一は叫んだ。
しかし、予備部隊の姿は見えなかった。おそらく、街のあちこちで分散して対応しているのだろう。王城の守りは手薄になっていた。
誠一は城門をくぐり、王城の中庭に入った。
そこで見たものは——
魔族の集団が、王城の正門に向かって突進していた。そして、その前に立ちはだかっているのは——
「ハインリッヒ!」
ハインリッヒ副団長が、一人で魔族たちと戦っていた。
彼の剣は稲妻のように閃き、魔族たちを次々と斬り伏せていく。さすがに王国騎士団の副団長だ。その剣技は凄まじかった。
しかし、数が多すぎる。十人、二十人——次から次へと魔族が現れ、ハインリッヒを取り囲んでいく。
「加勢する!」
誠一は叫んだ。
「来るな、警備員! お前など足手まといだ!」
ハインリッヒが怒鳴った。
しかし誠一は止まらなかった。
戦うことはできない。しかし——
「そっちに三人! 右から回り込んでいる!」
誠一は『鷹の眼』で敵の動きを観察し、声を張り上げた。
「左後方に弓兵! 伏せろ!」
ハインリッヒは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに誠一の指示に従った。
矢が頭上を通過した。
「くそっ、役に立つな、お前!」
「褒め言葉として受け取っておきます!」
誠一は叫びながら、周囲を観察し続けた。
敵の動き、味方の位置、地形——すべてを把握し、最適な行動を指示する。
「正門を守れ! 増援が来るまで持ちこたえろ!」
ハインリッヒが叫んだ。
城内から数人の騎士が駆けつけてきた。彼らが加わり、魔族たちを押し返し始めた。
しかし——
「まだだ」
誠一は呟いた。
『予兆感知』が、最大の警告を発している。
何かが来る。大きな何かが。
「ハインリッヒ副団長! 退避してください!」
「何を言っている!」
「何かが来ます! 今すぐ——」
そのとき、空が暗くなった。
誠一が見上げると——巨大な影が空を覆っていた。
翼を持つ魔物だ。黒い鱗に覆われた巨体。長い首と鋭い爪。
「ドラゴン——いや、違う」
それはドラゴンではなかった。ドラゴンに似た姿をした、上位の魔族だった。
「飛竜騎兵か!」
ハインリッヒが叫んだ。
飛竜の背には、黒いローブを纏った人物が乗っていた。魔王軍の幹部クラスだろう。
「人間ども、抵抗は無駄だ」
飛竜騎兵が叫んだ。
「王都は我らのものとなる。大人しく降伏せよ」
「黙れ、魔族め!」
ハインリッヒが剣を構えた。
しかし、飛竜には届かない。空中から攻撃されれば、地上の騎士たちには対処の手段がなかった。
「どうする……」
誠一は必死に考えた。
飛竜を落とす手段はない。しかし、このままでは王城が落ちる。王女殿下も——
「誠一!」
叫び声が聞こえた。
振り返ると、リーゼロッテが駆けてきた。
「リーゼロッテ! なぜここに——」
「東部から撤退した! 団長の命令で、私だけ先に戻ってきた!」
「撤退?」
「東部の侵攻は陽動だった! 本隊は王都を狙っていた!」
やはり、誠一の読みは正しかった。しかし、今はそれどころではない。
「あの飛竜を何とかできるか!」
「一人では無理だ! しかし——」
リーゼロッテは空を見上げた。
「合図を出せ! 弓兵を集めろ!」
「弓兵?」
「集中射撃なら、飛竜にもダメージを与えられる! 私が囮になる!」
リーゼロッテは走り出した。
「待て、リーゼロッテ!」
「誠一、お前は市民を守れ! それがお前の仕事だ!」
リーゼロッテは振り返らずに叫んだ。
誠一は歯を食いしばった。
彼女の言う通りだ。自分の仕事は、戦うことではない。守ることだ。
「わかった!」
誠一は反対方向に走り出した。
王城の中へ。王女殿下を守るために。
* * *
王城の廊下を走りながら、誠一は叫び続けた。
「避難しろ! 魔族が侵入している! 王城の奥へ逃げろ!」
侍従や召使いたちが、慌てて走り回っている。混乱の中、誠一は王女の居室がある方角へ向かった。
途中、何度か魔族と遭遇した。しかし、『予兆感知』と『鷹の眼』を駆使して、戦闘を避けながら進んだ。
やがて、王女の居室に辿り着いた。
扉を叩く。
「殿下! 桐生誠一です! ご無事ですか!」
「誠一? 中に入って!」
王女の声が聞こえた。
誠一は扉を開けた。
王女アリシアは、数人の侍女と共に部屋の奥にいた。彼女の顔は青ざめていたが、取り乱してはいなかった。
「状況は?」
「最悪です。魔族が王城内に侵入しています。今すぐ避難を」
「どこへ?」
「地下の避難路があるはずです。そこから脱出しましょう」
王女は頷いた。
「ついてきて」
王女は侍女たちを連れ、部屋を出た。誠一が先導し、廊下を進む。
しかし——
角を曲がった瞬間、魔族の集団と鉢合わせた。
「見つけた。王女だ」
魔族のリーダーが笑った。
「お前を殺せば、この国は終わりだ」
誠一は王女の前に立ちはだかった。
「殿下、お下がりください」
「誠一、あなた——」
「大丈夫です。必ず守ります」
誠一は『予兆感知』を最大限に発動させた。
敵は五人。全員が武装している。戦えば、確実に負ける。
しかし——
逃げ道はある。後ろの廊下の先に、小部屋がある。そこに逃げ込めば、時間を稼げる。
「殿下、走ってください。後ろの小部屋へ」
「しかし——」
「今すぐ!」
王女は侍女たちと共に走り出した。
魔族たちが追おうとした。
誠一がその前に立ちはだかった。
「通さない」
「お前一人で何ができる」
「やってみろ」
魔族のリーダーが剣を振り上げた。
誠一は『予兆感知』で軌道を読み、身を捻った。
剣が空を切った。
「なっ——」
魔族が驚いた隙に、誠一は廊下の壁に備え付けてあった燭台を掴み、投げつけた。
燭台が魔族の顔に当たり、炎が燃え移った。
「ぐあっ!」
魔族が顔を押さえて後退した。
その隙に、誠一も走り出した。
「追え! 逃がすな!」
魔族たちが追ってくる。
しかし誠一は、この城の構造を把握していた。視察の際に、すべての廊下と部屋を確認していたからだ。
角を曲がり、階段を降り、狭い通路を抜ける。魔族たちは道に迷い、追いつけなかった。
やがて、誠一は王女たちが逃げ込んだ小部屋に辿り着いた。
「殿下!」
「誠一! 無事だったの!」
「今のところは。しかし、すぐに来ます。早く避難路へ」
王女は頷き、部屋の奥にある隠し扉を開けた。
「こっちよ」
一行は地下への階段を降り始めた。
背後から、魔族たちの声が聞こえた。しかし、彼らが小部屋を見つける前に、誠一たちは地下へ姿を消した。
地下の避難路は、長く暗いトンネルだった。
誠一が先頭を歩き、松明で道を照らしながら進んだ。
「このトンネルは、どこに出るのですか」
「城壁の外よ。緊急時の脱出用に作られたの」
「わかりました。そこまで行けば安全です」
しばらく歩くと、トンネルの出口が見えてきた。
外に出ると、そこは王都の外れ——城壁の外側だった。
「ここまで来れば——」
誠一がそう言いかけたとき——
『予兆感知』が叫んだ。
「伏せてください!」
誠一は王女を押し倒した。
同時に、何かが頭上を通過した。
黒い影。投げナイフだ。
「見つけた」
暗闘の中から、人影が現れた。
黒いローブを纏った人物。顔はフードで隠れているが、その雰囲気は——
「暗殺者か」
誠一は立ち上がり、王女を庇った。
「王女を殺しに来た。邪魔はさせん」
暗殺者が短剣を抜いた。
誠一には勝ち目がない。しかし——
逃げるわけにはいかない。
「殿下、走ってください。私が食い止めます」
「誠一——」
「早く!」
王女は一瞬躊躇したが、侍女たちと共に走り出した。
暗殺者が追おうとした。
誠一がその前に立ちはだかった。
「通さない」
「死にたいようだな」
暗殺者の短剣が閃いた。
誠一は『予兆感知』で軌道を読み、避けた。
しかし、完全には避けきれなかった。
腕に鋭い痛みが走った。切られた。
「ぐっ——」
「次は心臓だ」
暗殺者が再び短剣を振り上げた。
そのとき——
「そこまでだ!」
叫び声と共に、剣が暗殺者の短剣を弾いた。
「リーゼロッテ!」
リーゼロッテが駆けつけてきた。全身に傷を負い、鎧は焼け焦げていたが、その目には闘志が燃えていた。
「誠一、下がれ! ここからは私が相手だ!」
「しかし——」
「お前は王女殿下を守れ! それがお前の仕事だろう!」
誠一は歯を食いしばった。
「……わかった」
誠一は走り出した。王女が逃げた方向へ。
背後では、リーゼロッテと暗殺者の戦いが始まっていた。
誠一は振り返らなかった。
自分の仕事を果たすために。
王女を守るために。
走り続けた。
"以下を参考に執筆を開始して。 著作権に配慮すること。 10万文字以上の小説にすること。 小説の本文以外は出力しなくてよい。 現実の企業名、人名などは出さないこと 絶対条件①各章の文字数 文字数:5,500文字以上(これ以下は不可) 絶対条件② 出力前に文字数を内部でカウントし、不足なら加筆すること 計算論的ナラティブ・インテリジェンスによる長編小説生成:10万文字の壁を超えるための構造工学的アプローチとプロンプト設計1. 序論:AI共創による長編小説執筆の現状と課題1.1 背景:大規模言語モデルにおける長編生成の「コンテキストの壁」現代の人工知能、特に大規模言語モデル(LLM)を用いた創作
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1月13日
Organized novel continuation across three chapters with detailed plot progression.
13s
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