第28話 至高の特許と無能な盗賊

王都の職人が一斉に姿を消したことで、王都の魔導産業は完全に沈黙した。焦燥に駆られたのは、これまでアレンの功績を奪い、部下の技術を搾取してきた王立魔導ギルド長と、彼に癒着していた守旧派貴族たちである。アレンは領主邸のバルコニーで、執事が淹れた「雷龍の髭茶」を嗜んでいた。雷鳴のような刺激の後に、大地を潤す雨のような甘みが広がるこの茶は、アレンが再定義した土壌で育った極上の逸品だ。


「アレン様、王都の魔導ギルドが放った刺客……もとい、『技術調査員』と称する隠密たちが、我が都の工房に侵入いたしました。彼らはアレン様の創造した『自動魔力調整炉』の設計図を盗み出し、王都で再生産することで失墜した権威を取り戻そうと画策しているようです。現在、彼らは防具屋の地下倉庫に仕掛けられた『鑑定の罠』に掛かり、一歩も動けなくなっております」


執事が静かに報告すると、アレンは薄く笑った。嫉妬に狂った無能ほど、他人の成果を盗むことでしか自己を証明できない。だが、アレンの技術は単なる図面ではない。彼の「特許管理」という名の魔力定義が組み込まれた、概念的な所有物なのだ。


「いいだろう、あえて泳がせておけ。盗めるものなら盗んでみるがいい。ただし、その代償がどれほど高いか、彼らの主君であるギルド長に直接教える必要があるな」


アレンは視察を兼ねて、市場へと向かった。 今日の中央広場は、新しく提携した行商人たちが持ち込んだ「極彩色(ごくさいしき)の果実」の祝祭で沸き立っていた。屋台からは、火焔鳥の脂を贅沢に使った「飛竜のヒレ肉カツレツ」や、魔力を帯びた「氷晶エビ」の濃厚なガーリックシュリンプの香りが立ち上っている。


「領主様! 本日の至高の一皿を。氷晶エビを雷鳥の殻粉で包み、高温で一気に揚げた『雷鳴エビフライ』です。ソースには、真珠苺の酸味と、太陽麦の黒ビールを煮詰めた特製コク味ソースを添えております。デザートには、地底湖の冷気で固めた『天国鳥の卵プリン』のキャラメル・ブリュレもご用意しました」


露店商が恭しく差し出す一皿。エビを噛みしめれば、弾けるような食感と共に、雷鳴のような魔力が舌を刺激し、鼻から抜ける芳醇な香りが精神を陶酔させる。 周囲では、武器屋で最新の「定義済み装備」を新調した冒険者たちが、診療所で受けた定期診断の報告書を片手に、屋台で買った「大角鹿の心臓串焼き」や「黄金りんごのパイ」を囲んで、王都の愚かさを笑い飛ばしていた。


「聞いたか? 王都のギルド長、うちの街から技術を盗めば、またアレン様を無能扱いできると豪語してるらしいぜ。自分の工房の炉さえ満足に動かせないくせにな。ざまぁ見ろってんだ」


そんな中、アレンは「盗み出された」設計図を手に王都へ戻った刺客たちの末路を、情報の重要性を熟知した行商人を通じて把握していた。


王都の魔導ギルド。ギルド長は「ついにアレンの無能を証明できる」と歓喜し、盗み出した設計図を元に、無理やり巨大な炉を組み立てさせた。しかし、そこにアレンの「特許管理(認証魔力)」がないまま火を入れた瞬間、装置は暴走を始めた。アレンの技術は、彼の意志という「OS」がなければ、ただの鉄屑か、あるいは自爆装置へと変わるように再定義されていたのだ。


「な、なぜだ! 図面通りのはずだ! なぜ爆発する!」


ギルド長の叫びと共に、王都の工房は大爆発を起こし、数少ない残存施設までが灰塵に帰した。そこへ、アレンが派遣した「商業ギルドの執行官」が、高価な地竜の毛皮を纏って現れた。


「ギルド長、我が主アレン様の『知的財産』を不当に利用し、損害を出した罪は重い。今この瞬間をもって、貴方の全資産と、王都における魔導具販売の独占権を没収する。これは『特許違約金』の代償だ」


嫉妬によって他人の功績を盗もうとした報いは、自らの家を、そしてギルドという居場所そのものを焼き払うという形で返ってきた。


夕暮れ時、領主邸に戻ったアレンを、料理人が腕を振るった特別な晩餐が迎えた。 テーブルには、双頭牛のヒレ肉を使った厚切りペッパーステーキ、銀鱗魚のポワレ、そしてデザートには、メイドが用意した冷たい「真珠苺のパフェ」が並んでいる。 アレンは窓から見える、自分を信じてついてきた職人たちが、新しい技術の開発に勤しむ工房の輝きを眺めた。


「策略に溺れ、他人の畑を荒らす者には、不毛の地こそが相応しい」


アレンは静かに紅茶を飲み干すと、もはや敵など存在しない、至高の都の平穏な夜を享受しながら、穏やかな眠りについた。 至高の辺境開拓は、今や物理的な富だけでなく、世界の「理(ルール)」そのものを支配する絶対的な権威へと成長していた。

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