第27話 王都の「ゴミ」と至高の職人
王都がアレンの提示した過酷な契約書に震えながら署名している頃、都の正門にはかつてないほど奇妙な集団が列をなしていた。それは豪華な身なりの貴族ではなく、煤に汚れ、指に無数のタコを作った「職人」たちであった。アレンは領主邸のバルコニーで、執事が淹れた「深層エメラルド茶」を味わいながらその光景を眺めていた。この茶は、地底湖の底に眠る鉱石から抽出した魔力をアレンが再定義した熱媒体で熱したもので、飲むたびに全身の神経が研ぎ澄まされ、街全体の魔力流が手に取るように把握できる。
「アレン様、王都の魔導具師ギルドや鍛冶ギルドで『無能』や『使い捨て』と蔑まれていた若手職人たちが、全財産を叩いて我が都へ亡命してきました。彼らは王都の腐敗したギルド制度では評価されず、公爵家への献上品を作るための部品として扱われていた者たちです。彼らは門外で、アレン様の『至高の技術』を一目拝見したいと、涙ながらに訴えております」
執事の報告に、アレンは薄く笑みを浮かべた。かつての自分と同じように、嫉妬と策略の渦中で才能を潰されかけていた者たち。彼らを救うことは、王都の技術的な根幹を完全に引き抜くことを意味する。
「面白い。彼らを我が都の『技術特区』へ案内しろ。ただし、まずは胃袋を整えさせることだ。飢えた頭では、至高の理は理解できまい」
アレンは視察のため、職人たちが案内された中央広場の「技術者専用食堂」へと向かった。そこでは、都の露店商たちがアレンの命を受け、王都では特権階級しか口にできないような食材を、惜しみなく調理していた。
「おい、これを見てくれ。神聖な森でしか獲れない『大角鹿のモモ肉』のから揚げだ。火トカゲのスパイスでマリネして、太陽麦の粉で揚げてある。それから、こっちのシチューは『水晶茸』と雲クジラのベーコンを贅沢に使った、魔力回復特製のクリーム煮だ」
露店商が山盛りの皿を職人たちの前に置く。王都で「ゴミ」扱いされていた若き魔導具師、カイルは、震える手でから揚げを口に運んだ。 「な、なんだこれは……。肉の繊維一本一本に魔力が宿っている。王都のギルド長が食べていた贅沢品よりも、この屋台の料理の方がはるかに『至高』だ……」 カイルたちは涙を流しながら、黄金りんごのパイや、地底湖で冷やした至高の果実水にかぶりついた。空腹が満たされるにつれ、彼らの瞳には職人としての情熱が再び宿り始めていた。
午後、アレンは彼らを都の「武器屋」と「防具屋」が併設された巨大工房へと招いた。そこでは、アレンが創造魔法で再定義した「自動魔力調整炉」が、唸りを上げてオリハルコンを加工していた。
「王都の技術は、過去の遺産を食いつぶしているに過ぎない。ここでは、特許管理に基づいた正確な物流と、素材への深い理解が全てだ。君たちが王都で『ゴミ』だと捨てられた技術……例えば、魔力伝導率の低い廃材の利用法も、私の理にかかれば、至高の補助装甲へと生まれ変わる」
アレンが錆びついた鉄くずを指先でなぞると、瞬時に不純物が排除され、美しく輝く新合金へと変貌した。その圧倒的な光景に、職人たちはその場に膝を突いた。
「アレン様、どうか……どうか私たちを、この都の末端に置いてください。王都で公爵やギルド長に媚びを売る日々に、私たちは絶望していました。ここにあるのは、純粋な『創造』の光だ」
「いいだろう。君たちには今日から、王都から流れ込む『ガラクタ』を、我が都の品質基準まで引き上げる労働依頼を任せる。報酬は、この都での居住権と、至高の三食だ。情報の重要性を知る行商人たちを通じて、君たちがここで『奇跡』を産み出していることを王都へ広めさせよう。自分たちが何を捨てたのか、彼らに思い知らせるために」
夕暮れ時、領主邸に戻ったアレンを、料理人が腕を振るった特別な晩餐が迎えた。 テーブルには、地竜のテールを煮込んだ特製シチュー、銀鱗魚のカルパッチョ、そしてデザートには、メイドが用意した冷たい「天国鳥の卵プリン」と「真珠苺のタルト」が並んでいる。 アレンは窓から見える、技術特区で夜通し明かりを灯し、喜びに満ちて槌を振るう職人たちの影を眺めた。
一方で、職人を失った王都の工房は、火が消えたように静まり返っているという。嫉妬によって才能を追い出した報いは、技術の全損という形で王都を襲っていた。 「策略で人を支配しようとしたツケだ。存分に味わうがいい」
アレンは静かに紅茶を飲み干すと、もはや王国を完全に経済的・技術的に飲み込んだ都の輝きを眺め、穏やかな眠りについた。 至高の辺境開拓は、今や虐げられた天才たちの聖域となり、旧時代の理を完全に崩壊させようとしていた。
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