第24話 至高の都の完成と、王都の落日
アレンは領主邸のバルコニーから、広大な領地を一望していた。かつては魔物が徘徊するだけの荒野だったこの地は、今や白亜の石造りの建物が並び、整然と区画された「至高の都」へと変貌を遂げている。執事が淹れたての紅茶を運んできた。それは自領の温室で魔力調整された「銀嶺草(ぎんれいそう)」の若芽を使い、アレンが再定義した抽出法で淹れたもので、一口啜るだけで疲労が霧散し、魔力回路が浄化されるような感覚がある。
「アレン様、王都からの第二次移住希望者が五千名を超えました。特筆すべきは、王立騎士団の退役騎士や、宮廷に仕えていた熟練の料理人までもが、身分を捨てて我が都の『労働依頼』に並んでいることです。彼らは公爵家が強行した増税と、アレン様の特許管理による技術停滞で崩壊した王都の生活を捨て、この都の『至高の日常』を求めてやってきました」
執事の淡々とした報告を聞きながら、アレンは不敵な笑みを浮かべた。嫉妬と策略で自分を追放した公爵家は、今や自領のインフラを維持できず、自滅の道を歩んでいる。アレンは都の視察を兼ねて、新しく拡張された「中央商業区」へと向かった。
都の中央市場には、行商人たちが持ち込んだ各地の珍味と、アレンが創造魔法で解禁したファンタジー食材が溢れかえっていた。屋台からは、火トカゲのスパイスを揉み込んだ「飛竜のモモ肉」の香ばしい匂いや、地底湖で採取された「水晶茸」のシチューの芳醇な香りが漂っている。
「領主様! 本日の目玉をぜひ。極寒の地でしか獲れない『銀鱗魚(ぎんりんぎょ)』を、世界樹の葉で包み焼きにしたものです。から揚げも今日は特別に、魔力が高い『岩鳥(いわどり)』の軟骨を使っており、外はカリッと、中は驚くほどジューシーですよ」
露店商が誇らしげに差し出す皿を、アレンは優雅に受け取り、その至高の味わいを確認した。岩鳥のから揚げを噛みしめると、これまでにないほど濃厚な肉汁が溢れ出し、アレンの創造した定義の正しさを証明していた。周囲では、新人訓練を終えたばかりの冒険者たちが、併設された診療所で癒やされた身体を休ませながら、屋台で買った熱々のパイやりんごを頬張っている。
酒場を覗けば、肉持ち込みで調理を依頼した大物猟師たちが、地底湖の冷気で熟成させた至高の蒸留酒を片手に盛り上がっていた。 「王都の公爵邸では、今や硬いパンと薄いスープしか出ないらしいぜ。あそこの騎士団長が、うちの武器屋の量産品の剣を欲しがって、夜逃げ同然で移住を申請したって話だ。ざまぁ見ろってんだ」 そんな笑い声が、街の至る所から聞こえてくる。
午後、アレンは領主邸の応接室で、ボロボロになった公爵家の特使と対峙した。 かつてアレンを「無能」と切り捨てた男は、今や空腹で青ざめた顔を引きつらせ、震える手で降伏文書を差し出していた。
「アレン様、どうか、どうかご慈悲を……。公爵領の全鉱山の権利と、特許管理権を全て差し上げます。その代わり、我が領の民に回復ポーションと、この都で余っている食料を分けていただけないでしょうか。王都の診療所にはもう、まともな薬一つ残っていないのです」
「非を認めるのが遅すぎたな。私が荒野に捨てられた時、君たちは『自力で生き抜いてみせろ』と言ったはずだ。私はそれを実行したに過ぎない。もし救済を望むなら、公爵自身がこの街へ来て、広場の清掃という『労働依頼』に従事することだ。そこで自分が捨てたものの価値を、骨の髄まで思い知るがいい」
アレンの冷徹な通告に、特使は絶望に顔を歪めた。 しかし、拒否すれば公爵家は飢えと暴動で消滅するしかない。情報の重要性を熟知した行商人たちが、王都の惨状を克明に伝えて回っているため、もはや公爵家に隠し立てはできなかった。
夕暮れ時、領主邸に戻ったアレンは、料理人が腕を振るった晩餐を楽しんだ。 テーブルには、虹色豚のヒレ肉を使ったペッパーステーキや、雲クジラのベーコンを添えた温野菜、そしてデザートには、メイドが用意した冷たい天国鳥の卵プリンが並んでいる。 一口ごとに、アレンの創造魔法はさらなる深みへと到達し、都の繁栄を不動のものへと変えていく。
「嫉妬と策略の果てに何が残るか。彼らにはこれから、この至高の都の『底辺』から学んでもらおう」
アレンは静かに紅茶を飲み干すと、窓から見える、魔法灯が宝石のように輝く都の夜景を眺めながら、穏やかな眠りについた。 辺境から始まった逆転劇は、今や王都さえも膝を屈させる、至高の支配へと昇華しようとしていた。
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