第18話 至高の包囲網と公爵の誤算

アレンは領主邸の広大なテラスで、朝の光を浴びながら執事が淹れた紅茶を口にしていた。 庭師が丹念に整えた庭園の向こう側には、今日も活気ある白亜の街が広がっている。 昨夜、騎士団詰所と衛兵詰所が連携して捕縛した略奪部隊の尋問はすでに終了し、公爵家が関与した動かぬ証拠が机の上に並んでいた。 アレンは、メイドたちがテラスに運んできた朝食に目を向けた。 焼きたてのパンに、新鮮な果実、そして絶妙な焼き加減のステーキ。 これら日常の贅沢こそが、アレンがこの地で守るべき「理」そのものであった。


「アレン様、商業ギルドを通じて王都周辺の主要な行商人たちに情報を流しました。公爵家が略奪部隊を雇い、無実の商人たちをも標的にしようとしていた事実は、今頃王都の全域で大きな騒ぎとなっているはずです。経済封鎖の影響で疲弊していた商人たちは、これを機に一斉に公爵家への反発を強めております」


執事が静かに告げると、アレンは不敵な笑みを浮かべた。 公爵家は経済封鎖でこの街を孤立させるつもりだったが、実際には自らの不名誉を世界中に拡散させる結果を招いたのである。 行商人たちは単なる商品の運び手ではなく、情報の伝播者として、アレンの意図を正確に各地へ運んでいく。 情報の価値を誰よりも理解しているアレンにとって、行商人との信頼関係は、いかなる軍隊よりも強力な武器となっていた。


午前中、アレンは街の視察へと向かった。 冒険者ギルドの前では、捜索依頼や護衛依頼を完了した冒険者たちが、解体場で得た素材を手に活発に取引を行っていた。 アレンはギルドの診療所と訓練所を訪れ、負傷した者がいないか、また新人訓練が滞りなく行われているかを確認した。 訓練所では、王都から逃れてきた元騎士たちが、アレンの創造した魔法標的に対して懸命に剣を振るっていた。 彼らは、アレンが提供する至高の環境と、適正なランク管理制度に心からの敬意を払っていた。


「領主様、あちらの武器屋と防具屋では、公爵領から流れてきた粗悪な装備の買取が急増しています。修理不能と判断されたものは全て素材として再利用し、我が街の至高の装備へと造り替えていますよ。特許管理に基づいた技術制限は、王都の鍛冶師たちを絶望の淵に叩き落としているようです」


ランク管理の担当者が誇らしげに報告する。 アレンは満足げに頷き、次に露店が並ぶ大通りへと歩を進めた。 屋台からは、から揚げや骨付き肉の香ばしい匂いと、具だくさんのシチューの湯気が立ち上っている。 アレンは露店で売られていた新鮮なりんごを一つ手に取り、店主に銀貨を渡した。 露店には、行商人が命がけで運んできた珍しい食べ物や素材が並び、街は力強く呼吸を続けている。


昼食時、アレンは馴染みの酒場に立ち寄った。 そこでは、ミードや蒸留酒を片手に、ステーキやパイを楽しむ行商人や冒険者たちが溢れかえっていた。 肉持ち込み可能なシステムを利用し、昨夜の戦いで得た魔物の肉を串焼きにして祝杯を挙げる者も多い。 アレンはカウンターに座り、主人が出したチーズとピクルスを摘みながら、行商人たちが語る王都の惨状に耳を傾けた。


「領主様、王都の公爵領では、ついに武器屋の釜の火が消えたそうです。アレン様の特許管理による技術制限で、まともな修理さえできなくなった騎士たちが、次々とこの街へ寝返ろうとしています。公爵は、自分たちが何を捨てたのか、ようやく理解し始めたようですよ。ざまぁ見ろってんだ」


行商人が荷馬車から降りて、最新の流行と不満が混ざり合った王都の情報を生々しく報告してくれた。 アレンは彼らに、宿屋での夜食に最高級の骨付き肉を振る舞うよう指示し、さらなる情報収集依頼を継続させた。 情報の物流が王都を包囲し、孤立しているのはもはやアレンの街ではなく、公爵家の方であった。


午後、アレンは雑貨屋の店主に会い、新しく鑑定を終えた回復ポーションの配布先を決定した。 彼は意図的に、公爵家と敵対している侯爵や伯爵の領地へ優先的に物流を流すよう物流管理の定義を書き換えた。 これにより、王都の内部からも公爵家への反発が強まり、権力争いはアレンが望む形へと加速していく。 雑貨屋の買取と鑑定の精度に驚く他領の商人たちは、もはやアレンの街なしでは自領の経済を維持できないと悟り始めていた。


「さて、わくわくするような爽快な幕引きを準備するとしよう。嫉妬と策略で私を捨てた場所が、今度は私に縋り付いてくるまで、あとわずかだ。彼らが求めていた権力や地位が、いかに脆い土台の上に立っていたかを教えてやらねばならない」


アレンは教会の診療所で、移住者たちが穏やかな日常を取り戻している姿を見て確信した。 そこには、王都の腐敗した教会にはなかった、真の慈悲と救いがある。 診療所に併設された訓練施設では、回復した者たちが再び自立するために汗を流していた。 日常の平穏を土足で汚した者には、相応の絶望という名の報いを受けてもらうのが、創造主としての礼儀であった。


夕暮れ時、領主邸に戻ったアレンを、メイドたちが温かい出迎えと共に晩餐の席へと案内した。 料理人が腕を振るった蒸し料理とステーキ、そしてサクサクのパイを楽しみながら、アレンは次の労働依頼のリストを精査した。 わくわくするような未来の設計図は、すでにアレンの頭の中で完璧に完成していた。 嫉妬に狂った公爵が、自らの無力さを知り、膝を突く瞬間は、もうすぐそこまで来ていた。


アレンは静かに紅茶を飲み干すと、明日の指名依頼のリストに最後の手を加え、穏やかな眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る