第16話 別視点:王都を捨てた騎士と至高の糧

王都の騎士団に所属していた若き騎士、レオンは、泥にまみれた街道を一人歩いていた。 かつては公爵家に忠誠を誓い、太陽の光を反射する華やかな鎧を身にまとっていた彼だったが、今やその装備はボロボロに朽ち果て、見る影もない。 アレンが追放されて以来、王都の武器屋や防具屋の技術は目に見えて落ち込み、魔導具の心臓部である魔力調整が狂い始めていた。 レオンの自慢だった剣も、一度の魔物との交戦で呆気なく刃こぼれし、二度と元の鋭さを取り戻すことはなかった。 王都では、アレンという絶対的な創造主がいなくなったことで、あらゆる日常の歯車が狂い始めていたのである。


「これが、神域とまで謳われる街の入り口か」


レオンは、目の前にそびえ立つ白亜の城壁を見上げた。 そこには、王都の騎士団詰所さえも霞むほどの威厳を放つ、オリハルコンを配合した最新鋭の防壁が築かれていた。 門を守る衛兵たちの装備を一目見ただけで、レオンは自分の持っているものがゴミ同然であることを理解し、膝を突きそうになった。 衛兵が手にしている槍の穂先からは、清浄な魔力が絶え間なく溢れ出し、周囲の空気を浄化しているかのようだった。


門をくぐると、そこには王都では完全に失われてしまった、活気に満ちた日常の輝きが溢れていた。 通りには屋台や露店が所狭しと並び、じっくりと煮込まれたシチューの芳醇な香りと、焼きたてのパンの香ばしさが漂ってくる。 空腹に耐えかねたレオンは、ふらふらと近くの屋台に吸い寄せられた。 王都では今や、まともな小麦さえ手に入らず、騎士団の食事でさえ石のように硬いパンと薄いスープのみだった。


「兄ちゃん、ひどい格好だな。まずはこれを食いな。アレン様が創造された至高のから揚げと、骨付き肉の蒸し料理だ。元気がなきゃ何も始まらねえぞ」


露店商から差し出された皿には、黄金色に輝くから揚げと、肉汁が滴るほど柔らかそうな蒸し料理が山盛りにされていた。 レオンが震える手で一口それを口に運ぶと、口内から脳へと至高の衝撃が突き抜けた。 衣はサクサクとして、中からは溢れんばかりの肉汁が噴き出す。 王都の王族や公爵が食している晩餐でさえ、この露店の味には到底及ばない。 肉の旨味が凝縮された骨付き肉を噛みしめるたび、衰弱していたレオンの身体に、アレンの魔力が宿った至高の栄養が満ちていくのを感じた。


「なんてことだ。この街では、道端の露店でさえ、神の奇跡のような食事を出しているのか」


レオンは涙を流しながら、夢中でから揚げを頬張り、熱々のシチューで流し込んだ。 食後、彼は行商人の荷馬車が行き交う大通りを歩き、商業ギルドの建物へとたどり着いた。 そこでは、王都の商業ギルドのような賄賂や権力争いの醜い気配は一切なく、アレンが定義した権利管理と価格設定のもと、公正な取引が行われていた。 行商人たちは、アレンが提供する物流管理網と営業権を誇りに思い、最新の流行や他領の情報、美味しそうなステーキやパイの噂を楽しげに交換している。


レオンは次に、自分のボロボロになった装備を抱えて武器屋の暖簾を潜った。 店主は彼の剣をちらりと見ただけで、鼻で笑った。


「王都の公爵家御用達の剣か。魔力調整がめちゃくちゃだな。定義が壊れているせいで、使うたびに持ち主の魔力を食い潰してやがる。こんなものを持っていたら命がいくつあっても足りんぞ。隣の防具屋と協力して、特許管理された最新の合金で打ち直してやる」


武器屋の主人が預かった剣を魔法炉にくべると、一瞬にしてオリハルコンの輝きを宿した至高の一振りに生まれ変わった。 レオンはその剣を手に取り、その軽さと、指先に伝わる圧倒的な鋭さに戦慄した。 これほどの技術が、この辺境の街では当たり前のように、日々の仕事として提供されている。 王都で彼が信じていた価値観は、音を立てて崩れ去った。


夜になり、レオンは宿屋に落ち着いた。 提供された夜食は、肉厚のステーキとサクサクのパイ、そして新鮮なりんごを贅沢に使ったデザートだった。 宿屋の主人によれば、アレン様は住民や旅人の日常を何よりも大切にしており、食事の質については一切の妥協を許さないという。 ふかふかの清潔なベッドに横たわりながら、彼は王都で耳にしたアレンの悪評が、いかに愚かな嫉妬と策略によるものであったかを痛感した。


「公爵家は、自分たちが何を捨てたのか分かっていない。あのような至高の御方を無能と呼び、追放するなど、正気の沙汰ではない。私はもう、あの腐った場所に、偽りの栄光に戻るつもりはない」


レオンは暗闇の中で、静かに、しかし強く決意した。 明日、冒険者ギルドへ行き、新人訓練からやり直して、この街の騎士団詰所か衛兵詰所に入れてもらえるよう願い出よう。 そこには、診療所を併設した完璧な訓練環境と、アレンという至高の導き手がいる。 たとえ雑用依頼からのスタートだとしても、この街の一員として生きることこそが、騎士としての真の誇りだと思えた。


窓の外では、アレンが創造した魔法灯が、白亜の街を昼間のように明るく照らしていた。 酒場からはミードを酌み交わし、山盛りのから揚げやポトフを囲む人々の、心からの笑い声が聞こえてくる。 それは、王都の騎士団が見捨て、踏みにじってきた、真の豊かさが息づく日常の音だった。 レオンは、アレンが築いた理に守られながら、久しぶりに安らかな眠りへと落ちていった。

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