第12話 至高の選別と忍び寄る毒牙
白亜の街を囲む城壁の外には、今日も朝早くから移住を希望する人々が長い列を作っていた。 アレンは領主邸のバルコニーから、その光景を静かに眺めていた。 手元には、執事が用意した特製の紅茶が置かれている。 庭師が手入れをした庭園には、朝露に濡れた花々が咲き誇り、清浄な魔力が風に乗って運ばれてきた。
「アレン様、移住希望者の中には、王都の商業ギルドで失脚した商人の一派が含まれているようです。彼らはこの街の営業権を安価で独占しようと画策しており、裏で小規模な商会を動かしているとの情報が入っております」
執事が影のように寄り添い、耳元で報告する。 アレンは紅茶を一口啜り、薄く笑みを浮かべた。 最新の前提条件に基づき、彼はこの街の商業ルールを鉄壁のものとして定義している。 商品の権利管理や特許管理は、アレンの創造魔法によって契約書そのものに刻まれており、不正な競争制限や価格設定は物理的に不可能となっていた。
「面白い。私の街に王都の汚いやり方を持ち込もうというのか。商業ギルドには、通常通りの審査を行わせろ。ただし、物流管理の記録と照らし合わせて、不自然な資金の動きがある者は即座に排除する」
アレンは立ち上がり、執務室へと向かった。 そこでは、メイドたちが完璧な手際で掃除を終え、アレンが仕事を始めるのを待っていた。 アレンは机に広げられた地図を指でなぞる。 街は急速に拡大しており、新たに騎士団詰所と衛兵詰所の管轄区域を広げる必要が出てきていた。
午後、アレンは視察を兼ねて街の中心部へと足を運んだ。 活気に満ちた大通りには、行商人の荷馬車が絶え間なく行き交い、露店からは焼きたてのパンや串焼きの香ばしい匂いが漂っている。 アレンはまず、冒険者ギルドを訪れた。
ギルド内は、ダンジョン探索依頼や採取依頼を受ける冒険者たちの熱気で溢れかえっていた。 ランク管理の窓口では、新しく移住してきた冒険者たちが、アレンの整えた至高の福利厚生に驚きの声を上げている。 ここでは、負傷すれば併設された診療所で即座に治療が受けられ、解体場で得た素材は武器屋や防具屋が適正価格で買い取ってくれるのだ。
「領主様! 以前いた王都のギルドでは、解体手数料だけで報酬の半分が消えていましたが、ここは天国です。おかげで新しい防具を新調できました」
一人の冒険者が、誇らしげに胸当てを叩いた。 それはアレンが監修した防具屋で作られた、軽量かつ頑丈な一級品だった。 アレンは彼に頷き、ギルドの奥にある訓練所へと向かった。 そこでは、新人訓練のためにアレンが創造した魔法標的が、冒険者たちの攻撃を受け流していた。
しかし、その平和な光景の裏側で、不穏な動きを察知していた。 アレンの探査魔法が、雑貨屋の裏路地で密談を交わす数人の男たちを捉えたのである。 彼らは王都の公爵家が放った密偵であり、雑貨屋で扱っている高品質な回復ポーションの製法を盗み出そうとしていた。
「鑑定。やはり、王都の紋章を隠し持っているな」
アレンは独り言のように呟き、定義変更を開始した。 雑貨屋に並ぶ商品には、特定の登録者以外が解析を試みると、その瞬間に効力を失い、強い閃光を放つよう定義が加えられている。 密偵たちがポーションの瓶を手に取り、隠し持っていた魔導具で成分を調べようとした瞬間、路地裏に爆発的な光が溢れた。
「ぎゃあ! 目が、目がああ!」
悲鳴を聞きつけた衛兵たちが、即座に現場へ急行した。 彼らは衛兵詰所でアレンから授かった特殊な拘束具を使い、抵抗する間もなく密偵たちを取り押さえた。 これこそが、日常を守るためのわくわくするような爽快な防衛策である。
アレンはその後、報告を受けるために騎士団詰所を訪れた。 騎士たちは皆、オリハルコンを配合した至高の装備に身を包み、士気は極限まで高まっている。 彼らにとって、アレンはただの領主ではなく、守るべき世界の理そのものだった。
「アレン様、密偵の背後にいるのは、やはり公爵家の息がかかった商会でした。彼らは王都で魔導具が次々と破損していることに焦り、こちらの特許管理情報を狙っていたようです」
騎士団長の報告に、アレンは満足げに頷いた。 王都では、アレンという柱を失ったことで、あらゆるインフラが崩壊し始めている。 一方で、アレンの街では酒場にポトフやミードを楽しむ笑い声が絶えず、宿屋では夜食を終えた旅人たちが安らかな眠りについている。
「公爵も必死だな。だが、彼らがどれほど策略を巡らせようと、私の創造したこの街の理を越えることはできない。次は、王都の経済そのものを私の掌の上で踊らせてやろう」
アレンは夕暮れに染まる街を眺めながら、さらなる大規模な労働依頼の構築を練り始めた。 教会の診療所からは、癒やされた子供たちが家路につく姿が見える。 この至高の日常を壊そうとする者には、さらなる絶望という名のざまぁ展開が待っている。
アレンは領主邸に戻り、料理人が腕を振るった晩餐を楽しみながら、明日の開拓計画を思い描き、静かに微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます