第11話 至高の移住ブームと王都の凋落
聖女エレナが王都へと去ってから数日後、アレンの治める辺境の街にはかつてない活気が押し寄せていた。 聖女が道中で目にした光景や、彼女に同行していた聖騎士たちが漏らした驚愕の噂は、瞬く間に王都の平民や下級貴族たちの間に広がったのである。 不毛の荒野が神域に変わったという話は、困窮する人々にとって唯一の希望の光となった。
アレンは領主邸の執務室で、執事から報告を受けていた。 領主邸には現在、執事のほかに、アレンが選りすぐったメイドや料理人、庭師、そして精鋭の護衛兵たちが、それぞれの職務を完璧にこなしている。 アレンは窓越しに、城門の外に並ぶ荷馬車の列を眺めた。
「アレン様、北門の受付に長蛇の列ができております。移住を希望する行商人や、腕利きの冒険者、さらには王都の重税に耐えかねた農民たちです。彼らは皆、この街の噂を耳にして、最後の銀貨を叩いてここまでやってきたようです」
執事の落ち着いた声を聞きながら、アレンは頷いた。 彼はこの事態をあらかじめ予測し、街の各施設と連携して受け入れ体制を整えていた。 アレンはまず、商業ギルドへ向かった。
商業ギルド内は、活気に満ち溢れながらも、アレンが定めた厳格な規律によって整然としていた。 ここでは、商品の権利管理や価格設定、競争制限といった高度な市場統制が行われている。 アレンはギルド長に対し、新規移住者への営業権の発行を迅速化すると同時に、真面目な商人には融資や資金援助を惜しまないよう命じた。 また、特許管理や物流管理を徹底することで、街の特産品である高純度の魔石や魔法薬が不当な価格で王都に流出するのを防いでいた。
次に足を運んだのは、冒険者ギルドだ。 ここには討伐依頼や採取依頼を求める者だけでなく、ダンジョン探索依頼や捜索依頼を求めて王都から流れてきた冒険者で溢れかえっていた。 ランク管理の窓口は長蛇の列だったが、アレンが創造した新人訓練用の設備や、救出依頼に対応する専門の救急班の存在が、彼らに安心感を与えていた。 解体場からは、運び込まれた魔物の素材を手際よく処理する音が響き、診療所を併設した訓練所では、負傷した者が即座に治療を受けていた。
「領主様! この街の酒場で出るポトフとエールは本当に最高です。王都の安宿で出されるカビの生えた干し肉とは比べものになりませんよ」
新しく移住してきたばかりの冒険者が、アレンに向かって陽気に声をかけた。 アレンは微笑みながら、酒場のテラス席を眺めた。 そこでは、ミードや蒸留酒を片手に、チーズやピクルスを突く者たちが談笑している。 肉持ち込み可能なシステムを利用し、獲ったばかりの獲物を串焼きにして楽しむ者もいた。 宿屋では、朝食と夜食が最高の状態で提供され、長旅で疲れ果てた者たちの心と体を癒やしている。
一方で、賑わう辺境とは対照的に、王都の公爵邸には重苦しい沈黙が流れていた。 視察団に続き、聖女までもがアレンの街を神域と称したことで、公爵の面目は丸潰れとなっていた。 さらに、アレンという絶対的な魔力調整役を失った公爵領の土地は、日増しにその実りを失い、武器屋や防具屋の魔導具は修理不能なほどに劣化が進んでいた。
「おのれ、アレンめ。無能の分際で、これほどまで我が領地を追い詰めるとは。あの地は、私が与えた死の荒野ではなかったのか」
公爵は震える手で、領内からの悲鳴のような報告書を握りつぶした。 かつて彼がアレンに与えた土地は、今や王都の経済を揺るがすほどの巨大な商業圏へと成長している。 日常の平穏を奪われた王都の民たちは、次々とアレンの街へと逃げ出し、公爵家を支える労働力は枯渇の一途を辿っていた。
アレンはそんな王都の混乱をよそに、次なる開拓の段階へと入っていた。 彼は街の防衛をさらに強固にするため、騎士団詰所と衛兵詰所の連携を強化し、不測の事態に備えていた。 武器屋や防具屋では、装備品の販売だけでなく、アレンの創造魔法を応用した高度な修理が行われ、兵士たちの士気は極限まで高まっている。 雑貨屋では、鑑定済みの高品質な回復ポーションが飛ぶように売れていた。
「さて、人が増えれば新たな問題も起きるだろう。だが、それもまた開拓の楽しみだ。私はただ、この至高の日常を守り抜くだけだ」
アレンは街の外れに建つ教会を訪れた。 そこには診療所が併設されており、安堵の表情を浮かべる移住者たちの姿があった。 追放されたあの日、すべてを失った場所から始まった物語は、今や王国そのものを塗り替えるほどの潮流となっていた。
アレンは領主邸に戻り、メイドたちが整えた清潔な自室で、明日以降の労働依頼や指名依頼の配分を考え始めた。 行商人の荷馬車が、明日もまた多くの希望を運んでくるだろう。 わくわくするような爽快な未来が、この真っ白な城壁の向こう側に、どこまでも広がっていた。
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