第8話 別視点:行商人と冒険者の驚愕

王都へと続く街道の入り口付近で、一人の行商人が荷馬車を止めて呆然と城壁を見上げていた。彼の名はマルコ。長年、この不毛の地を迂回して商いを行ってきた彼にとって、目の前の景色は天地がひっくり返ったような衝撃だった。


「おいおい、冗談だろ。ここは半年前まで、魔物に怯えながら通り過ぎるだけの、死の荒野だったはずだ」


マルコは思わず馬車から降り、整備された石畳を自分の足で踏みしめた。アレンが創造魔法で定義したこの道は、ただの石の羅列ではない。長旅の疲れを軽減する魔法的な弾力を備え、雨の日でも決して泥濘むことのない、至高の舗装路だった。彼の馬車の後ろには、噂を聞きつけた他の商人や、腕に覚えのある冒険者たちが長い列をなしていた。


「なあ、おっさん。この先にあるのが、あの噂の至高の街か」


声をかけてきたのは、王都の冒険者ギルドでも名の知れた銀ランクの戦士だった。彼の手にある剣は、王都の武器屋で大枚をはたいて買った名品のはずだが、門を守る衛兵たちの装備を見た瞬間にその顔が引き攣った。


「見てくれよ、あの衛兵の鎧。あれ、まさか伝説のオリハルコンを混ぜてやがるのか。一地方の門番が、王国の騎士団長クラスの装備をしてるなんてありえねえ」


冒険者たちは門をくぐると、その洗練された都市計画にさらに息を呑んだ。街の至る所にはアレンの創造魔法による自動清掃の定義が施され、ゴミ一つ落ちていない。露店からは、見たこともないほど瑞々しい果実や、焼き立ての香ばしいパンの匂いが漂ってくる。マルコは商人の本能に従い、すぐに街の中核である商業ギルドへと足を運んだ。


商業ギルドの内部は、王都のそれよりも遥かに機能的で、美しさと威厳を兼ね備えていた。アレンが定めたルールにより、商品の権利管理や特許管理が厳格に行われており、不当な独占や模倣品は一切許されない。アレンの創造魔法で産み出された特別な羊皮紙は、契約を結んだ瞬間に魔法的な誓約を付与し、偽造不可能な契約書として機能している。


「ここなら、王都の腐った貴族たちに搾取されることなく、正当な価格設定で商売ができるぞ。……夢のようだ」


マルコが感動に震えている頃、冒険者たちは吸い込まれるように酒場へと流れ込んでいた。そこでは、最高級のエールやミードが、信じられないほど安価で提供されている。厨房から運ばれてくるポトフや串焼きのクオリティは、王宮の晩餐会に出されてもおかしくないレベルだった。さらに驚くべきは、冒険者が自ら狩った魔物の肉を持ち込み、最適な調理を依頼できるシステムだった。


「なんて街だ。武器屋や防具屋の修理技術は神がかっているし、雑貨屋の回復ポーションは王都の十倍の効き目がある。おまけに、診療所が併設された教会まであるなんてな。これじゃあ、王都に戻る理由が一つもねえよ」


冒険者の一人が、昨日受けたばかりの深い傷が跡形もなく治っているのを見て、喜びの声を上げた。彼は今日、ギルドでダンジョン探索依頼を受けるつもりだった。アレンが管理するこの領地には、創造魔法によって資源と魔物が最適に配置された、効率的なダンジョンすら存在しているのだ。


一方、武器屋と防具屋では、アレンが直接監修した最新の加工機が唸りを上げていた。装備品の販売や買取はもちろん、預けた装備が新品以上の性能になって戻ってくる修理サービスは、一度経験すれば他の店には行けなくなるほどだった。雑貨屋の鑑定サービスも正確無比で、持ち込まれた素材の価値を瞬時に見抜く。


「無能として追放されたアレン様が、一人でこれを築き上げただなんて、王都の連中が聞いたら泡を吹いて倒れるぜ」


「全くだ。あんな至高の領主様を追い出すなんて、公爵家も焼きが回ったな。俺たちは、あの方についていくさ」


人々は酒を酌み交わしながら、アレンへの感謝と、愚かな王都への嘲笑を口にする。日常の中に潜む圧倒的な豊かさと、外の世界を置き去りにするほどの文明の進化。マルコは、自分の荷馬車に積んでいた安物の商品を売るのが恥ずかしくなり、代わりにこの街の特産品を仕入れて、世界中に広めるという新たな夢を抱いた。


街の活気は、日が暮れても衰えることを知らなかった。魔法灯が街を昼間のように明るく照らし、衛兵詰所と騎士団詰所の連携による完璧な治安維持が、住民に安眠を約束している。アレンが窓から見下ろすその光景は、彼に期待を寄せ、日常を愛する人々が産み出す至高の熱気に満ち溢れていた。


この街に来た者は皆、一つの真実を理解する。アレンこそが、この不毛な世界に真の豊かさをもたらす唯一の存在であることを。

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