第5話 亜人の知恵と未知の資源

アレンが森から連れ帰った亜人の一行は、領主邸に隣接する特別な宿泊施設へと案内された。 彼らは生まれて初めて目にする白亜の建物や、魔法灯に照らされた夜の街並みに、ただただ圧倒されていた。 アレンは執事に命じ、彼らに最高の夜食を提供させた。


「これは、本当に食べていいのか。見たこともないほど白く柔らかなパンに、芳醇な香りのスープ。我々が森で食べていたものとは、天と地ほどの差がある」


亜人の戦士は、震える手でスプーンを持ち、一口運ぶごとに感嘆の溜息を漏らした。 彼らが空腹を満たしている間、アレンは執務室に戻り、森の探査で得たデータの解析を行っていた。 最新の定義に基づき、商業ギルドと連携した資源管理を構築するためだ。


「アレン様、彼らの話によれば、森のさらに奥深くには、既存の鉱山では決して採掘できない特殊な魔導金属の原石が眠っているようです。彼ら独自の採取ルートがあるとのことでした」


執事が報告すると、アレンの目が鋭く光った。 創造魔法があれば素材をゼロから産み出すことも可能だが、この世界の理に基づいた希少資源を確保することは、領地の経済的地位を揺るぎないものにするために必要不可欠だ。


翌朝、アレンは亜人の戦士と共に、再び森の入り口に立っていた。 今回は、新しく組織されたばかりの騎士団の精鋭数名も同行している。 彼らの装備は、武器屋と防具屋にアレンが直接指示を出して修理・強化を施した至高の品々だ。


「ここから先は、我々亜人の領域だ。人間には見えない道がある」


戦士が示したのは、一見するとただの崖にしか見えない場所だった。 しかし、アレンの創造魔法による空間定義の視点で見れば、そこには巧みに偽装された隠し通路が存在していた。 一行がその先へ進むと、そこには地脈のエネルギーが剥き出しになったような、巨大な地下空洞が広がっていた。


「構築、環境安定化。有毒ガスの無害化と光源の確保」


アレンが呟くと、空洞全体が柔らかな光に包まれた。 視界が開けた先にあったのは、壁一面に張り付いた、虹色に輝く結晶体だった。 それは、魔法の伝導率を極限まで高める伝説の金属、オリハルコンの原石であった。


「信じられん。王都の宝物庫にすら数グラムしかないと言われる金属が、これほどまでに」


同行していた騎士が声を震わせる。 アレンは冷静にその原石を鑑定し、商業ギルドが管理すべき価値を即座に計算した。 この資源があれば、武器屋や防具屋の品揃えは世界最高峰となり、さらなる猛者たちがこの街に集まってくるだろう。


「この資源の採掘権は我々が管理する。亜人の諸君には、その案内と警備を正式な労働依頼として発注したい。報酬は、この街での市民権と、至高の生活環境だ。どうかな」


アレンの提案に、亜人の戦士は深く頷いた。 彼らにとって、自分たちの知識が価値として認められ、対等な立場で契約を結べることは、何よりの救いだった。


街へ戻ったアレンは、早速商業ギルドへ向かった。 商業ギルドでは、商品の権利管理や特許管理が厳格に行われており、新たな資源の流通ルート確立に向けた融資や資金援助の相談が絶え間なく行われている。 アレンはギルド長に、オリハルコンの精錬に関する特許と、物流管理の徹底を命じた。


「アレン様、この金属が市場に出れば、近隣諸国のみならず、帝国さえも黙ってはいないでしょう」


「構わない。そのための備えは、すでに騎士団詰所と衛兵詰所に指示してある。……それよりも、この金属を使って、日常をさらに豊かにする新しい魔導具の開発を急がせてくれ」


アレンが見据えているのは、戦争のための武力ではない。 誰にも真似できない圧倒的な文明の力による、絶対的な優位性だ。 雑貨屋には、これまでにない効能を持つ回復ポーションが並び始め、露店には亜人の文化を取り入れた新しい食べ物が並ぶようになった。


その頃、王都の公爵家では、視察団の報告を受けた父親が怒りに震えていた。 アレンが不毛の地で死ぬどころか、王都を凌駕する富を築いているという事実は、彼らの自尊心を粉々に打ち砕いた。 しかし、彼らはまだ気づいていない。 自分たちが捨てたのが、ただの息子ではなく、世界の理を握る唯一の創造主であったということに。


アレンは夕暮れの広場で、子供たちが笑いながら駆け回る姿を眺めていた。 教会に併設された診療所からは、癒やされた人々が出てくる。 酒場からは、今日も至高の料理と酒を愛でる陽気な歌声が響いていた。


日常の平穏と、未知への挑戦。 アレンの創造系による至高辺境開拓は、さらにその深度を増していく。

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