第2話 創造魔法が産み出す驚愕のオアシス
アレンが創造魔法によって荒野に白亜の領主邸を築いてから、数日が経過した。 王都では無能だと蔑まれていた創造魔法だが、その真価は対象を産み出すだけではなく、産み出したものを自由に定義できる点にある 。 アレンは領主邸の執務室にある、自ら創造した豪奢なソファに腰を下ろし、窓の外に広がる赤茶けた大地を見つめていた 。
この地を世界で最も豊かな領地へ変えるための計画は、すでにアレンの頭の中で完成している。 彼が求めているのは、単なる王都の模倣ではない。 既存の魔法文明を凌駕する、至高の機能美を備えた都市だ。
「まずは、この死の土地に生命を呼び戻さなくてはな」
アレンは領主邸を出ると、広大な城壁の内側にある、未だ荒れ果てたままの広場へと向かった 。 地面はひび割れ、魔力を含んだ毒素が土壌に沈着している。 普通の植物魔法使いであれば、この土を浄化するだけで数年はかかるだろう。
しかし、アレンの創造魔法は次元が違った。 彼は右手を地面にかざし、魔力を深く、静かに流し込んでいく。 脳内で構成するのは、土壌そのものを組み替える分子レベルの創造だ。
「構築、大規模土壌置換。汚染物質の結晶化、および肥料成分の自動生成」
アレンの声が響くと同時に、周囲の地面が波打つように動き始めた。 赤黒かった土は、瞬く間に生命力に溢れた黒褐色の豊かな土へと変貌していく。 さらに、土壌から抽出された毒素は、美しい紫色の結晶体へと姿を変え、地表に整然と並べられた。
この結晶体こそ、魔法薬の材料や魔導具の核として高値で取引される魔石の原石だ。 土地を浄化しながら、同時に領地の貴重な輸出品となる資源を産み出したのである。 アレンは満足げに頷くと、次に植物の種を取り出した。 それは王都の雑貨屋で二死金にもならないと言われていた、乾燥した雑草の種だった 。
「ただの雑草も、創造魔法による再定義を行えば、伝説の霊薬に等しい価値を持つ」
アレンは種を土に植え、そこに新たな定義を書き加えた。 驚異的な成長速度、周辺の魔力を吸収して清浄な空気を吐き出す性質、そして、傷を癒やす成分を葉に蓄える機能。 アレンが魔力を与えると、芽吹いたばかりの植物は数秒で青々と茂り、広場を一瞬にして緑の絨毯で覆い尽くした。
「さて、次は経済の基盤を作るとしよう」
領地を発展させるには、人が集まる場所が必要だ。 アレンは広場の中央に、冒険者ギルドや商業ギルドを模した壮麗な建物を構築した 。 内部には、討伐依頼、採取依頼、ランク管理、新人訓練、さらには診療所としての機能まで完備されている 。 武器屋や防具屋といった商店も、アレンの創造魔法によって装備品の販売、買取、修理が可能な状態で産み出された 。
特にアレンがこだわったのは、酒場と宿屋だ 。 冒険者にとって酒場は情報の集積地であり、休息の要だ。 エールやミード、ポトフや串焼きを最高の状態で提供できるよう、厨房機器には常に一定の温度を保つ魔法定義を施した 。 宿屋もまた、朝食と夜食が最高の鮮度で提供されるよう、特殊な魔法空間を食糧庫に構築してある 。
準備を整えたアレンが城壁の巨大な門を開くと、そこには驚くべき光景が広がっていた。 アレンを追放した後に様子を伺いに来た近隣の行商人や、噂を聞きつけた冒険者たちが、門の前で呆然と立ち尽くしていたのである 。
「な、なんだこれは。数日前までは、ここはただの荒野だったはずだぞ」
荷馬車を引いていた行商人の一人が、震える声で呟いた 。 彼の目の前にあるのは、王都の建築様式を遥かに超える、洗練された白亜の城塞都市だ。 門から漂ってくるのは、豊かな土と緑の匂い、そして食欲をそそる酒場の料理の香りだった 。
「ようこそ、私の領地へ。ここはまだ始まったばかりだが、必要なものはすべて揃っている。武器の修理でも、素材の買取でも、好きなように利用してくれ」
アレンが穏やかに微笑みながら招き入れると、商人たちは我先にと門をくぐり抜けた。 彼らは瞬く間に、この地の驚異を目にする。 雑貨屋には、王都では見たこともないような高純度の素材が並び、酒場では至高の料理が安価で提供されている 。
一方で、アレンを追放した公爵領では、異変が起きていた。 アレンという優秀な創造魔法使いを失ったことで、領内の魔導具の品質が急激に低下し始めていたのである。 さらに、アレンが密かに行っていた土地の魔力調整が止まったため、公爵家の肥沃な大地は少しずつ、その輝きを失い始めていた。
「アレン兄がいなくなった程度で、我が領地が傾くはずがない。あのゴミ捨て場のような辺境で、今頃は飢えて死んでいるに決まっている」
弟のその言葉が、どれほど現実からかけ離れたものであるか。 それを思い知らされる日は、アレンが放った行商人たちの噂によって、すぐそこまで迫っていた。
アレンは領主邸の自室で、商業ギルドに提出するための物流管理計画書を作成していた 。 彼の手にあるのは、魔法で産み出した最高級の羊皮紙と、インクの切れない万能筆だ。 日常をより快適に、より豊かに。 アレンの至高の辺境開拓は、今まさに加速し始めた。
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