創造系による至高辺境開拓
地べたぺんぎん
第1話 無能と蔑まれた創造魔法使いの追放
王都の中心にそびえ立つ公爵邸の大広間には、冷徹な空気が満ちていた。 高い天井から吊るされた巨大な魔石のシャンデリアが、床に跪く青年の姿を白く照らし出している。 青年の名は、アレン。 この公爵家の嫡男として生まれながら、今まさに人生のどん底に突き落とされようとしていた。
アレンの目の前には、豪華な椅子に深く腰掛けた実の父親である公爵が、忌々しげに息子を見下ろしている。 その隣には、アレンを嘲笑うような笑みを浮かべた義母と、勝ち誇った顔をした異母弟の姿があった。
「アレン、貴様を我が公爵家から追放し、嫡男の地位を剥奪する。貴様に与えられた魔法は、戦いにも、ましてや華やかな社交の場にも全く役に立たない。我が家の恥さらしめ」
公爵の声が広間に冷たく響き渡る。 アレンに発現した魔法は、創造魔法という名の極めて希少なものだった。 しかし、この世界における魔法の価値は、どれだけ派手に敵をなぎ倒せるか、あるいはどれだけ煌びやかに場を彩れるかという一点に集約されている。 何もない空間から小さな日用品や素材を産み出すだけのアレンの魔法は、魔力消費が激しい割に実用性がない無能な力だと断じられていた。
「父上、私の創造魔法を正当に評価してください。この魔法があれば、領地の物流も、人々の生活も劇的に改善できるはずです」
アレンは必死に声を絞り出したが、公爵は鼻で笑った。
「黙れ。そのような泥臭い仕事は平民にやらせておけばいい。貴族に必要なのは圧倒的な武力と、それを支える魔力だ。貴様のような魔力回路が貧弱で、ゴミしか産み出せぬ男は我が家には不要だ」
公爵が合図を送ると、控えていた衛兵たちがアレンの腕を乱暴に掴み、無理やり立ち上がらせた。 アレンの背中に、弟の嘲弄が投げかけられる。
「兄上、せいぜい辺境の地で飢え死にしないように気をつけることだね。ああ、そうだ。兄上にはぴったりの領地を用意しておいたよ。魔物が徘徊し、作物が一切育たない死の荒野だ」
アレンは言葉を返すことすら許されず、公爵邸から放り出された。 手元に残されたのは、身の回りの僅かな品と、領主としての任命書という名の追放状だけだった。
王都の門を出て、アレンは行商人の荷馬車に揺られながら遠く離れた辺境を目指した。 街には冒険者ギルドや商業ギルドが建ち並び、行き交う商人や冒険者たちが活気に溢れている。 しかし、馬車が東へと進むにつれ、緑は失われ、土は赤黒く変色し、不毛な大地が広がっていった。
数日の旅の末に辿り着いたのは、かつて村があったと思われる廃墟だけが残る荒野だった。 案内役の衛兵は、アレンを地面に突き飛ばすと、唾を吐き捨てて馬車を反転させた。
「ここがお前の新しい領地だ。せいぜい魔物の餌にならないようにな」
走り去る馬車の土煙を見送りながら、アレンは静かに立ち上がった。 周囲を見渡せば、地平線まで続く乾燥した大地と、ひび割れた岩山しかない。 食料もなく、水場も見当たらない。 普通の人間にしてみれば、ここはまさに死刑宣告に等しい場所だった。
「……ようやく、自由になれたか」
アレンの口から漏れたのは、絶望ではなく、解放感に満ちた言葉だった。 彼はゆっくりと右手を空中に掲げた。 王都では無能だと蔑まれていた創造魔法。 しかし、公爵家の人々が知らなかった真実が一つだけあった。 アレンの魔力は決して貧弱ではなく、その出力があまりに高すぎたために、既存の魔導具では測定不能だったということに。
アレンは意識を集中させ、脳内に明確な図面を描き出した。 必要なのは、清潔な水と、休息のための拠点。 彼が心の中で構成を開始した瞬間、荒野に激しい魔力の光が溢れ出した。
「構築、第一段階。水脈の探知と深層井戸の生成」
アレンの声が響くと同時に、ひび割れた地面が大きく盛り上がり、巨大な石造りの塔が姿を現した。 地下深くから汲み上げられた水が、塔の頂から清らかな音を立てて流れ落ちる。 さらに、アレンは間髪入れずに次の構築に移った。
「第二段階。外敵を遮断する城壁と、仮設領主館の生成」
魔力の奔流が渦を巻き、何もなかった荒野に、真っ白な大理石で作られた堅牢な壁が築かれていく。 中心部には、領主、執事、メイド、料理人、庭師、護衛兵が活動するに相応しい、機能美を追求した瀟洒な領主邸が建ち上がった。
わずか数分の出来事だった。 死の荒野に、突如として白亜の城塞都市の雛形が出現した。 これが、アレンがひた隠しにしてきた万能創造魔法の真の姿だった。
「さて、まずはここを拠点にして、この不毛な大地を世界で最も豊かな領地へと作り変えるとしようか」
アレンは自ら創造した領主邸の扉を開けた。 日常を捨て、至高の辺境開拓がここから始まる。 彼を追放した公爵家の人々が、自分たちが何を捨てたのかを思い知る日は、そう遠くないはずだった。
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