胃袋を掴め! 7
魔法のスープと黄金のラスクが生み出した幸福の余韻は、食事が終わった後も、孤児院の中にふんわりと漂っていた。
いつもなら、食事が終わればさっさと自分の殻に閉じこもるように散っていく子供たちが、今日はまだ食堂のテーブルに残って、なにやら楽しそうに喋っている。
「なあなあ、コトリ! 明日は何作ってくれるんだ?」
「あのカリカリのパン、また食べたい!」
私の周りには、すっかり私を「すごい料理人(魔法使い)」だと認識したレオとルークが、目をキラキラさせながらまとわりついてきている。うんうん、現金でよろしい!
「明日はねー、まだ秘密!」
「えー! 教えてくれよー!」
「ヒントだけでも!」
可愛い弟分ができたみたいで、なんだかちょっと嬉しい。
少し離れた場所では、アンナがエミリーの口元についたラスクの砂糖を、優しく指で拭ってあげていた。
「……ありがとう。エミリーが、あんなに食べたの、久しぶりに見たわ」
後片付けを手伝ってくれているアンナが、少し照れくさそうに、でもはっきりとした声で、私にお礼を言ってきた。
その表情は、昨日までの警戒心が嘘のように和らいでいる。
「どういたしまして。エミリー、美味しかったって?」
「うん。『また食べたい』って。あの子が自分からそんなこと言うなんて、本当に、何ヶ月ぶりかしら…」
そう言って微笑むアンナの目元が、少しだけ潤んでいるように見えた。
(よし! アンナお姉様も、これで完全に攻略完了だな!)
そんな和やかな雰囲気の中、一人だけ、壁の花ならぬ「壁の少年」になっている人物がいた。
そう、我らがリーダー、リックだ。
彼は、食堂の隅で腕を組み、窓の外を眺めている。その背中からは、「俺はあいつらとは違う。馴れ合うつもりはない」という、思春期特有のツンツンしたオーラが放出されている。
でも、知ってるんだからね!
君が誰よりも早くスープをおかわりしたことも、こっそりラスクを一枚多くポケットに隠していたことも、全部お見通しなんだから!
まったく、素直じゃないんだから!
(まあ、いいか。ああいうタイプは、時間をかけてゆっくり外堀から埋めていくのが定石よね。焦りは禁物、と)
私は、そんなリックの背中を微笑ましく眺めながら、残りの食器を片付けた。
その夜。
私は、夕食後も厨房にこもっていた。
なぜなら、私自身のQOL向上のため、そしてあわよくば更なるポイントゲットのため、ある計画を実行するためだ。
その計画とは……『魅惑の深夜スイーツテロ計画』!
ターゲットは、もちろん私自身。
いや、違う。建前上は、子供たちとマーサ院長のため、だ。
うん、決して私がプリンを食べたくなったから、とかそういう邪な理由じゃない。断じて違う。
私は四次元バッグから、今日の昼間、こっそり通販で追加購入しておいた秘密兵器を取り出す。
『新鮮たまご10個パック 300P』
『濃厚牛乳1L 250P』
『バニラビーンズ 500P』
(うーん、バニラビーンズ、ちょっと高かったけど、香り付けには妥協できない!)
これらを使って、私が作るのは……そう、王道スイーツの帝王、『とろけるカスタードプリン』だ!
レシピは、もちろん【異世界インターネット接続】の検索機能で、人気No.1のものを参照済み。
ボウルに卵を割り入れ、砂糖を加えて、泡立て器でシャカシャカ。
牛乳を温めて、バニラビーンズの鞘から種をしごき出して、甘い香りを移す。
卵液と牛乳を混ぜ合わせて、漉し器でこして、なめらかに。
ここまでは、前世でも何度かやったことのある工程だ。
問題は、ここから。
プリンを固めるには、蒸し器が必要。でも、この孤児院の厨房に、そんなハイカラな調理器具があるはずもない。
(でも、私には魔法がある!)
私は、プリン液を入れた小さな陶器のカップを、大きな鍋の中に並べた。
そして、鍋に少しだけ水を張り、蓋をする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます