胃袋を掴め! 8

「完璧な火加減で、ぷるぷるのなめらかプリンになーれ! 《調理》ッ!」


 再びの、適当詠唱!

 鍋が、またしても淡い光に包まれる。

 鍋の中の水が、ひとりでに沸騰し、完璧な温度のスチームが、プリンカップを優しく包み込んでいく。


 かまどの火も、弱火をキープ。

 すごい、すごいぞ生活魔法! これ、完全にスチームコンベクションオーブンの機能じゃん!


 待つこと、約15分。

 魔法の光が消え、蓋を開けると、そこには、ぷるんぷるんに固まった、完璧なプリンが!

 甘くて、優しいバニラの香りが、厨房いっぱいに広がる。


(……完璧だ!)


 私は、出来上がったプリンを、魔法で冷やしていく。


「《冷却》!」


 ほんのり温かかったカップが、ひんやりと冷たくなる。

 冷蔵庫がなくても、冷たいデザートが食べられる。魔法、最高!


 カラメルソースも、もちろんお手製だ。

 鍋に砂糖と水を入れて、火にかけて、色づいてきたらお湯を少し加えて……。

 うん、これもレシピ通り。


 冷えたプリンに、とろりとしたカラメルソースをかければ……。

『コトリ特製・とろける幸せカスタードプリン』の完成だ!


 私は、出来上がったプリンの一つを手に取り、厨房の隅で、こっそりと味見することにした。

 スプーンですくうと、ぷるん、とした心地よい抵抗感。

 一口、ぱくり。


「……おいしい……!」


 思わず、声が漏れた。

 なめらかなカスタードが、舌の上でとろけていく。

 卵と牛乳の優しい甘さと、バニラの豊かな香り。

 そして、ほろ苦いカラメルソースが、全体の味を引き締めている。


 うう、美味しい……! 自分で作っておいてなんだけど、めちゃくちゃ美味しい!

 前世で、仕事帰りにコンビニで買っていた300円のプレミアムプリンに、勝るとも劣らない味だ!


 私は、あっという間に一つぺろりと平らげてしまった。

 そして、残りのプリンをどうしようか、と考える。


(本当は、全部一人で食べちゃいたいけど……。いやいや、ダメだ。人助けをすれば、ポイントがもらえるかもしれないんだから)


 そう、これは、私の快適な通販ライフのための、未来への投資なのだ!

 私は、プリンを人数分お盆に乗せると、子供たちが寝ている寝室へと、そっと忍び足で向かった。


 寝室の扉をそーっと開ける。

 中は真っ暗。

 子供たちの、すーすーという穏やかな寝息だけが聞こえる。

 うん、みんな綺麗になったベッドで、気持ちよさそうに眠っている。


 私は、ロウソクの代わりに、《照明》魔法で小さな光の玉を浮かべた。

 その明かりを頼りに、一人ひとりのベッドのそばにある、小さな棚の上に、プリンを置いていく。


 レオとルークのベッド。

 アンナのベッド。

 エミリーのベッド。

 そして、リックのベッド。


(ふふふ、明日の朝、起きたらびっくりするだろうな)


 みんなの驚く顔を想像して、私は一人、にやにやが止まらない。

 まるで、クリスマスプレゼントを配るサンタクロースみたいな気分だ。

 いや、私が配ってるのは、カロリーの爆弾だけどな!


 そして、最後の一つ。

 マーサ院長の分は、彼女の部屋の扉の前に、そっと置いておくことにした。

 たぶん、食べてくれるだろう。


 全ての配達を終え、私は満足感に包まれながら、自分のベッドへと戻った。

 ふかふかのベッドに潜り込むと、すぐに眠気がやってくる。

 明日の朝が、ちょっとだけ楽しみだ。

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