胃袋を掴め! 6
扉の向こうから、子供たちの「ぐぅぅぅ」という、可愛いお腹の音が聞こえてきた。
うんうん、正直でよろしい!
そして、ついにその時が来た。
スープの鍋と、ラスクの鉄板を包んでいた魔法の光が、すっと消える。
完成の合図だ。
私は、木のボウルを並べ、おたまでスープを注いでいく。
黄金色に輝くスープの中には、とろとろに煮込まれて、宝石みたいに輝く野菜たち。
そして、山盛りの『黄金シナモンラスク』。
これらを、お盆に乗せて、食堂へと運ぶ。
「お待たせしましたー! コトリ特製、『具沢山!野菜のうま味たっぷりスープ』と、『カリカリ!幸せのシナモンラスク』の完成でーす!」
私が料理をテーブルに並べた瞬間、食堂にいた全員が、息を呑んだ。
目の前に広がるのは、昨日までとはまるで別次元の食卓。
子供たちは、キラキラした目で、スープとラスクを交互に見ている。
レオとルークなんて、よだれが出そうになるのを、必死でごくりと飲み込んでいる。
「「「いただきます!」」」
マーサ院長の号令と共に、全員がスプーンを手に取った。
そして、一斉にスープを口に運ぶ。
その瞬間、食堂は静寂に包まれた。
いや、違う。
静寂じゃない。
あちこちから、「はふっ」「んんっ!」「……!」みたいな、言葉にならない感嘆の声が漏れているのだ。
最初に沈黙を破ったのは、レオだった。
「……おいしい!」
その一言を皮切りに、食堂は爆発した。
「おいしい! 昨日までのと全然違う!」
「野菜が甘い! とろとろだ!」
「なんだこの匂い! すごくいい匂いがする!」
子供たちは、夢中になってスープを啜り、ラスクをかじっている。
サクサク、ポリポリという、軽快な咀嚼音が、幸せのBGMみたいに食堂に響き渡る。
私は、その光景を、満足げに腕を組んで眺めていた。
ふと、エミリーに目をやると、彼女は、いつもは数口しか飲まないスープを、小さな口で、しかしすごい勢いで飲んでいた。
そして、おそるおそるラスクを一枚手に取り、サクリ、と小さな音を立ててかじる。
その瞬間、彼女のビー玉みたいだった目に、驚きと、喜びの光が、はっきりと灯った。
そして、また一口、また一口と、夢中でラスクを頬張っている。
(……よし!)
心の中で、本日何度目かのガッツポーズ。
アンナは、そんなエミリーの姿を、信じられないという顔で、そして少しだけ泣きそうな顔で見つめていた。
そして、私の方を見て、小さく、しかしはっきりと「ありがとう」と口を動かした。
リックはというと、相変わらず無言で食事を進めている。
でも、その食べるスピードは、明らかにいつもより速い。
そして、あっという間にスープを飲み干すと、誰よりも早く、ボウルを持って厨房へ向かった。
おかわりだ! 素直じゃないんだから!
そして、マーサ院長。
彼女は、スプーンで一口スープを飲むと、その動きをぴたりと止めた。
そして、目を見開いて、じっとスープの表面を見つめている。
もう一口飲む。そして、また固まる。
「……あんた」
ようやく絞り出したような声で、私を呼んだ。
「一体、これに何を入れたんだい……?」
その声は、震えていた。
私は、にっこりと、最高の営業スマイルを浮かべた。
「愛情、ですよ!」
もちろん、コンソメとハーブだけどな!
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