胃袋を掴め! 4
さあ、役者は揃った。
舞台は、この薄暗く、お世辞にも清潔とは言えない厨房。
観客は、扉の向こうで固唾を飲んで(るかどうかは知らないけど)待っている、腹ペコの子供たちと、疑心暗鬼のマーサ院長。
そして、主役はもちろん、私! 山根ことり!
その手には、現代日本の食文化の叡智の結晶(インスタント調味料)と、神様からもらったチート魔法!
これで勝てぬはずがない!
「ふっふっふ……。見せてあげるわ、私の本当の力を……!」
誰もいない厨房で、私は悪の女幹部みたいな笑みを浮かべる。
うん、完全に不審者だね!
まずは、主役となるスープから取り掛かる。
厨房の隅に積まれていた薪を数本、かまどにくべる。
前世では、薪で火をおこすなんてキャンプ動画でしか見たことなかったけど、今の私には最強の味方がいる。
「《点火》!」
指をパチンと鳴らすと、指先に小さな火種が生まれ、それが薪へとひょいと飛び移る。
あっという間に、かまどの中でパチパチと心地よい音を立てて、炎が燃え始めた。
うん、便利! 文明と魔法の融合って、最高ね!
次に、巨大な寸胴鍋。
これをかまどに乗せるのが、最初の難関だ。
マーサ院長の言う通り、私の体くらいある。中身が空っぽでも、10歳の子供の力じゃびくともしない。
「でも、私には魔法がある!」
鍋にそっと手を触れる。
「《浮遊》、《移動》!」
ふわっ、と鍋が宙に浮き、ゆっくりとかまどの上へと移動していく。
おお、すごい! これなら鍋を洗うのも楽ちんだ!
次に、水汲み。
台所の隅にある大きな水瓶から、ひしゃくで水を汲んで、鍋に入れていく。
……地味に重労働だ、これ。10往復はしたかな?
鍋に七分目くらいまで水が入ったところで、いよいよ食材の投入だ。
まずは、木箱に入っていた野菜たち。
しなびたカブも、ごぼうみたいに細いニンジンも、謎の硬い葉っぱも、全部まとめて鍋にドーン!
(うん、見た目は完全に『魔女の大釜』だね! これだけ見たら、絶対に美味しいものはできないって思うだろうな!)
ここで、いよいよ私の真骨頂。
四次元バッグから、こっそりと文明の利器を取り出す。
まずは、黄金色に輝く(イメージ)小さなキューブ。
そう、『固形コンソメキューブ』様だ!
これを、鍋の中にぽいぽいぽーい! と5個ほど投入。うん、7人分だから、これくらいでいいでしょ!
次に、南フランスの風 (イメージ)。
『乾燥ハーブミックス』と『ローリエ』を、パラパラ&ひらり。
(よし、これで下準備は完了! あとは魔法にお任せだ!)
私は鍋に両手をかざし、高らかに詠唱する。
「この世の全ての旨味よ、今こそこの鍋に集え! 美味しくなーれ! 《調理》ッ!」
詠唱は、完全に私の趣味。たぶん、念じるだけでも魔法は発動する。
でも、こういうのは雰囲気が大事だからね!
私の詠唱に応えるように、鍋が淡い光に包まれる。
鍋の中の水が、ひとりでにぐるぐると渦を巻き始め、野菜たちが楽しそうにダンスしているみたい。
そして、かまどの火も、まるで意思を持っているかのように、火力を自動で調整し始めた。
最初は強火で一気に沸騰させて、アクが浮いてきたら勝手に掬い取り、その後はコトコトと優しい弱火に。
(……すごい。全自動調理鍋じゃん! 私、何もしなくてもいいの!?)
あまりの便利さに、ちょっと感動。
これなら、私みたいな料理素人でも、絶対に失敗しない!
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