胃袋を掴め! 3
でも、ここで引き下がるわけにはいかない!
「私の一族に伝わる、秘伝の調理法なんです! 人に見られるわけにはいかないんです!」
苦し紛れに出た言葉は、自分でもびっくりするくらい胡散臭かった。
なんだよ、秘伝の調理法って! そんな設定、今初めて作ったよ!
マーサ院長は、呆れたように私をじろりと睨む。
「……あんた、記憶喪失じゃなかったのかい?」
しまったああああ! 設定の矛盾!
やばい、墓穴を掘った!
「そ、それは……! 記憶はなくても、体が覚えているんです! 料理のことだけは…!」
もうめちゃくちゃだ。
でも、人間、窮地に立たされると、自分でも信じられないような言い訳がスラスラ出てくるものなのだ。
マーサ院長は、私のしどろもどろの言い訳を聞いて、なぜかふっと口元を緩めた。
「……そうかい。体が覚えている、ね。まあいいだろう。あんたのその『秘伝の調理法』とやらを、信じてやろうじゃないか」
そう言うと、マーサ院長は本当に厨房から出て行ってくれた。
ただし、去り際に「もし、火事でも起こしたら、あんたを火種にして燃やすからね」という、まったく笑えない冗談を残して。
(……助かった。でも、ハードルがめちゃくちゃ上がった気がする!)
一人になった厨房で、私はまず、この孤児院の戦力(食材)を分析することにした。
厨房の隅にある、麻袋と木箱。これが、この孤児院の食料庫の全てらしい。
麻袋の中には、カチカチに乾燥した豆と、麦の粒。
木箱の中には……。
「うーん、これはカブかな? ちょっとしなびてるけど。こっちはニンジン……細っ! ごぼうかと思ったよ。あと、これは…なんだろう、この葉っぱ。ほうれん草……じゃないな。硬そう」
食材の種類も量も、絶望的に少ない。
これで、子供5人と大人2人、合計7人分のお腹を満たせと? しかも美味しく?
無理ゲーにもほどがある! 前世の一流シェフだって、泣いて逃げ出すレベルだぞ、これは!
(よし、こうなったら、文明の利器に頼るしかない!)
私は、四次元バッグに意識を集中させ、【異世界インターネット接続】のウィンドウを開く。
頼れる相棒、『異世界通販』サイトへようこそ!
「でも、いきなりお肉とかお魚とか、高級食材を使うと絶対に怪しまれる。あくまで、今ここにある食材を『ちょっと美味しくする』ための、隠し味程度に留めないと…」
私は慎重に、検索ウィンドウにキーワードを打ち込んでいく。
今回のコンセプトは、「貧乏飯をリストランテの味に変える魔法の粉(物理)」。
まず、全ての味の基本となる、これ。
『固形コンソメキューブ 50個入り 500P』
これを一粒入れるだけで、ただの野菜の煮込みが、一気にレストランのスープに早変わりする魔法のキューブ。これを発明した人は、ノーベル平和賞をもらうべきだと思う。
次に、香り付け。
『乾燥ハーブミックス(オレガノ・バジル・ローズマリー等) 300P』
『ローリエ(月桂樹の葉) 100P』
この二つがあれば、どんな貧相なスープも「南フランスの家庭の味」みたいな雰囲気になるはずだ。イメージだけど。
そして、あの硬い黒パンをどうにかするための、甘い魔法。
『お徳用グラニュー糖 1kg 400P』
『シナモンパウダー 200P』
『食塩不使用バター 200g 300P』
バターはちょっと贅沢品だけど、これは必要経費! 美味しいものを作るためには、多少の投資は惜しまない!
よし、これで完璧だ。
「合計、1,800ポイントか……。日本円にして1,800円。これで7人分の食事が劇的に改善されるんだから、費用対効果は抜群よね! これぞ賢い投資!」
私は満足げに頷き、購入ボタンをポチッ。
次の瞬間、私の意識の中にある四次元バッグの収納リストに、今注文した商品が追加された。
「よしよし、直接配送、本当に便利すぎる! これなら誰にもバレずに、チートし放題だ!」
さあ、下準備は整った。
これから、私の本当の料理(という名の魔法ショー)が、始まる!
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