孤児院のニューフェイス 9

 残されたのは、私とコロと、そして地面に転がった一本のナイフだけ。

 私は、目の前で起きたことが信じられなくて、しばらく呆然と立ち尽くしていた。


 あれは、本当にコロ?

 私の知ってる、あの甘えん坊で食いしん坊のコロ?


 すると、さっきまでの王者のような威圧感が嘘のように消え、コロが、いつもの様子で私の足元に駆け寄ってきた。

 そして、私のローブの裾をくんくんと引っ張る。


「クゥン……」


 その瞳は、もう氷のようではなく、いつもの心配そうな優しい瞳に戻っている。


『コトリ、大丈夫? 怖かった? 怪我してない?』


 私は、その場にへなへなと座り込んでしまう。

 そして、駆け寄ってきたコロを、夢中で、力いっぱい抱きしめた。


「……コロ……!」


 怖かった。

 本当に、怖かった。

 でも、それ以上に。


「……ありがとう……! 助けてくれて、ありがとう……!」


 腕の中で、コロが、ぺろり、と私の涙を舐めてくれた。

 その温かさが、さっきまでの恐怖をゆっくりと溶かしていく。


 私は、この時初めて、はっきりと理解した。

 この子は、ただの可愛いペットじゃない。

 私のことを、命がけで守ってくれる、小さくて、でも、誰よりも頼もしい私の守護者なのだ、と。


 カップ麺は、すっかり冷めて伸びきっていた。

 でも、そんなことは、もうどうでもよかった。


 私は、コロを抱きしめたまま、しばらく動けなかった。

 そして、心の中で、新たな決意を固める。


(……ダメだ。このままじゃ、ダメだ)


 この孤児院は、安全じゃない。

 この街も、安全な場所ばかりじゃない。


 そして、私は、非力な子供だ。

 コロが守ってくれた。


 でも、もし、今日よりもっと強い敵が現れたら?

 もし、コロでも敵わないような、危険な目に遭ったら?


(守られてるだけじゃ、ダメなんだ)


 私も強くならなくちゃいけない。

 コロを、そして、孤児院のみんなを私が守れるくらいに。


 そのためには、力が必要だ。

 知識も、経験も、そしてお金も。


 私の胸に、さっきとは比べ物にならないくらい、強く熱い炎が灯る。

 それはもう、ただの「快適なスローライフを送りたい」という生ぬるい願望じゃない。

 大切なものを、この手で守り抜くための、戦う決意の炎。


(まずは、この孤児院をもっと安全でもっと豊かな場所に変える!)


 私の改革は、今、本当の意味で始まったのだ。

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