【第一章】 〜私、すくすくと成長してますっ!〜
【1】
転生してからというもの、優しくて温かい両親に、それはもうこれでもかというくらい愛情いっぱい大切に育てられ、私は日々その幸せを噛み締めながら、着々と育っている。
今日も私は今まで着た事がなかった可愛らしいフリルの付いた洋服に身を包み、母親の手を握って街を歩いていた。
「おや、おはよう、ミラ。今日も早いねぇ 。サラもおはよう」
ミラと呼ばれたのは母親で、サラは私だ。
母は優しくて人当たりも良く、明るい上に物凄く美人だ。
美人で優しい母に、私は憧れている。
私もこんな風になりたい、と。
買い物を終え、家に着いた母と私を迎えたのは、父だった。
「お帰り、ミラ、サラ」
父は私を抱き上げ、母にキスをする。
幸せな家族。前世の私には、なかったものだ。
「奥様、おはようございますっ! サラちゃんもおはようっ!」
挨拶をしたのは、庭師をしている父について見習いをしている少年だ、キールだ。
彼は私にも凄く優しくて、遊び相手になって、色んな面白い事を教えてくれるし、その日あった事などを話してくれる。
今日も父とキールは、色んな屋敷に仕事をしに行く。
私は母と家でお留守番である。
母は器用な人で、裁縫、編み物はもちろん、料理もお菓子作りまで上手だ。
優しくて綺麗で何でも出来る母が、私は大好きだった。
今日は美味しいカボチャが手に入ったと嬉しそうに話す母と、パンプキンパイを作る事になった。
母はいつも私と二人だけの時に、見せてくれるものがあった。
母が手の平を上に向ける仕草を見ながら、ワクワクする胸。
すぐに母の手の平が光り始める。
そう、母は魔法が使えるのだ。
簡単なものだけだと母は言うけど、母にはもっと凄い力があるんじゃないかと私は思っている。
その後も、指先から火を付けたり、氷で動物を作ってくれたりと、色々なものを見せてくれながら、二人で時間を過ごす。
そんな平和な日常を送っていたある日、私は休みだったキールに連れられ、近くの森にやって来ていた。
深い森は行く事を禁止されているし、私も危ない場所にわざわざ行かない。
いい天気で、ピクニックを楽しむキールとの二人の時間。
キールは父と母とは違う、面白い事を知っているから興味深い。
今日は木登りを教わった。
「あまり高く登っちゃダメだよ? 怪我なんかさせたら僕がお父さんに怒られちゃう」
笑って言ったキールに頷くと、少しずつ木に手と足をかけていく。
「上手だよ。そう、その調子。サラは運動も出来るんだね、凄いや。そのくらいで、そろそろ降りておいで」
人生初の木登りに、私は完全に浮かれていた。
軽い体で予想より上手く登れ、調子に乗ったのだ。
「それ以上は危ないよっ! サラ、さぁ、僕が受け止めるから、ゆっくり降りて」
少し強めに言われ、我に返る私は、ゆっくり戻る為に片足を離して次の足場に足を掛けた。
はずだった。
「危ないっ!」
スローモーション。
あの時と同じ感覚。
まさか、現実に戻ったりなんか、しないよね。
あんな日々に戻るなんて、絶対に嫌だ。
私はここに、父や母、キールのところにいたい。
神様、お願いします。何でも言う事聞くから。もう危ない事もしないし、お手伝いだってする。いい子でいるから。
なかなかの高さから落ちたはずの私の体に痛みはなく、少しの衝撃と温かい体温。
「いててて……サラ、大丈夫?」
私を受け止め、苦笑しながら聞くキールに頷いてみせると、安堵したようにキールは笑う。
「全くお転婆なお姫様だなぁ……うっ……」
少し呻いたキールの様子に、私はキールがどこか怪我をしたのだと知った。
私のせいだ。私が言う事を聞かなかったから。私を受け止めたせいで、キールが怪我をしてしまった。
「キール……大丈夫? ごめんなさいっ……私のせいで……」
「サラ、大丈夫だよ。ほら、可愛いお姫様。そんな悲しそうな顔をしないで、笑って」
そう言われたけど、私は笑えなかった。
キールの額から、ゆっくりと血が流れる。
「キール……血、が……」
「ん? あー、どこか切れたのかな。このくらい平気だよ」
「で、でも血がっ……私のせいでっ……キールが……」
大丈夫だと、平気だと言われても、気が動転してしまった私には、その言葉は気休めにすらならなかった。
どうしよう。キールが私のせいで死んでしまったら。私はどうすればいいのだろう。
「キールっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ……」
「サラ、僕は大丈夫だから落ち着いてっ……」
泣きじゃくる私は、ふと思いつく。
母にできる事なら、母の血を継ぐ私にも出来るのではないか、と。
やり方なんて分からないし、私にはそれしかなかった。
私は、必死だった。
「サラ?」
泣いていた私が突然泣きやみ、キールの傷口に手を当てる。
キールはただ、不思議そうにそんな私を見て固まっていた。
母の言葉を思い出す。
『どうやってるか? うーん、そうねぇー。どうしたいか、何を作りたいかを頭に思い浮かべるの』
深呼吸して目を閉じる。
キールの傷を治す事だけに意識を集中する。 上手くいく保証はない。これは、私が勝手にした予想で、一か八かの掛けだから。
そして、私のその予想は、当たっていたようで、キールの額に当てた私の手の平から、眩い光りが輝き始める。
最初は小さな光りが、少しずつ大きなものに変化する。
「温かい……痛みが……消えてくよ……凄い……」
少し疲れた気がするけど、傷を完全に治す為だ。もう少し、もう少しだ。
「サラっ!」
力が抜け、私はよろける。それをキールが優しく受け止める。
「キール……キズ、痛くない?」
「ああ、もう何ともない。こんな力があるなんて、サラは本当に凄いよ。ありがとう」
キールがいつもの優しい笑顔が向けられ、頭にキスが落ちた。
「よか……っ、た……」
「サラっ、しっかりしてっ、サラっ!」
私の体を包むキールの温かい体温が、まるで体に流れ込むみたいな感覚が、凄く心地よくて、力が戻るみたいだ。
「少し顔色がよくなったね……安心したよ。辛くない?」
「うん、不思議だけど、体が凄く楽になった。ありがとう」
「お礼を言うのは僕の方だ。本当にありがとう」
二人でお礼を言い合って、それが何だかおかしくて、二人して笑った。
少し休憩してから、手を繋いで帰り道を歩く。
キールといると、まるで兄が出来たみたいで、話が尽きる事なく楽しくて、ずっと話をする私を、優しい笑顔で見守ってくれる。
一度「キールは私といて退屈じゃない?」と聞いた事があった。
その時も、キールは「サラといると、退屈なんて思う隙もないくらい楽しいよ」と優しく頭を撫でてくれる。
私はキールが大好きだ。
【2】
家に近づいて、少し違和感を覚える。
知らない馬車のようなものが止まっている。
高級そうだ。
「何だろう……行ってみようか」
キールに言われ、私はキールの手を強く握った。
家に向かって一歩踏み出した時だった。
────バンッ!!
物凄い音と共に、家の扉が吹き飛び、それと同時に人間が吹き飛んで来た。
一瞬何が起こったのかさっぱり理解が出来ず、ただ目を見開き、固まった。
「お、と……さっ……」
私を守るように前に立ったキールの背後から少しだけ顔を覗かせた。
吹き飛び、打ち付けた体を震わせながら呻く父。
「あなたっ!」
家の中から知らない紳士が現れ、その後から二人の男に拘束されている母が泣きながら連れて来られた。
「まったく。よくも二人して私の手を煩わせてくれたな」
「放してっ!」
「私から逃げれば、こんな何の力もない輩と一緒になれるとでも思ったか? 愚かな……」
母が男を睨む。
この人は一体誰なのか、私には何が起こっているのか状況が分からなくて、ただキールにしがみつくしか出来なかった。
男が父に歩み寄り、右足を父のお腹に押し付ける。
「ぐぁっ……」
「貴様のような男がっ、彼女を幸せになど出来るわけがないだろうっ!」
「かはっ……」
お腹を蹴られ、父が苦痛の声を上げた。しゃがんだ後、男が父の髪を鷲掴みにして呟く。
「彼女は凡人が相手に出来るような存在じゃない。自惚れるな。彼女は、私のモノだ」
「パパを放してっ!!」
喉から絞り出した声が、やたら大きく聞こえた。
男がこちらを向いた。
見下す目が冷たくて、背筋が冷えた。
「サラっ! ダメっ!」
「サラ……っ、に、逃げ、なさいっ……」
苦しそうに言う父の顔色が物凄く悪くて、男達に押さえられている母は泣いている。
母の首には光の輪っかがあって、まるで奴隷のようだった。
「まさか……お前達、子供がいたのかっ……」
男の手が私に伸びる。
「サラに触るなっ!」
「な、何だっ、このっ……ガキは引っ込んでろっ!」
私を助ける為に駆け寄って男の手にしがみついたキールが、男の異常な力に吹き飛んだ。
「キールっ!」
叫ぶ私の首に男の手が届き、そのまま締め付けられる。
酸素が届かなくて、苦しくて、滲んでいた涙が零れた。
「やめてっ! 娘にっ、手を……出さないでっ……お願いっ……」
泣く母の声が遠くなる。
しっかりしないと。
父や母、キールを助けられるのは、今や私しかいないのだから。
体はか弱い子供だけど、私には、前世の記憶もある。特別な力だって。
そう、私はもう泣くしか出来ないわけじゃないんだから。
苦しいけれど、必死に力を呼び覚ますように、意識を集中させる。
今の私なら、ちゃんとやれる。
────パアァァァッ!
ゆっくり男にかざした手から光が現れる。
その眩い光が黒く変化する。
「サラ……あなたまさか……」
黒い光が男の体を跳ね飛ばした。
「ぐあぁぁぁぁっ!」
私を包む光のお陰で、吹き飛んだ男の手から逃れた私の体がゆっくり降りてゆく。
地に足がつき、母に近づいて、母の首にある光の輪を破壊する。拘束していた男達は、後退りしただけで、何もしては来なかった。
そして私は男の方に向き直る。ゆっくり、近づいていく。
次は私が男を見下ろす番だ。
「ひぃっ! く、来るなっ!」
怯えたみたいに、尻もちをついたまま後ろに下がりながら大声を上げて私に手のひらをかざすけど、私はそれを力で跳ね除ける。
「もう私達に構わないで。また私の大切な人達に近づいたら、許さないから。次は、絶対に……逃がさない……」
男は何度も頷き、二人の男達を連れて去っていく。
父に駆け寄る母、そこまで大きな怪我もなく、体を起こすキールを見届けて、私は安堵のため息を吐いた。
安心したせいか、私は意識を手放した。
私の名を呼ぶみんなの声が耳に届いた気がした。
【3】
母の体も回復し、父の怪我も母の力のお陰ですっかり治り、キールも私も元気になった頃、私はまた一つ大きくなった。
誕生日に、母が美味しいケーキや料理を作ってくれて、力を込めたお守りのペンダントをプレゼントとして首に掛けてくれた。
キールも一緒に祝ってくれて、私は幸せだった。
ただ、私は自分の中にある力が日に日に大きくなっている気がして、不安でいっぱいだった。
私の意思とは関係なく、いつか暴走してしまったら。
大切な人達を傷つけてしまったら。
私は自分を許せないだろう。
そんな私の不安に、一番に気づいたのは、やっぱり母だった。
「いい方法があるわ。ママもやった事だから、サラにもきっと出来るはず。だって、サラはママに似て強い子だもの」
そう言って笑った母の笑顔は、やっぱり綺麗だった。
その日から、私の力を制御、コントロールする日々が始まった。
簡単に言えば、修行である。
昔母も同じように悩み、同じように解決したらしい。
さすがと言ったところか、母は私に自信をつけさせるのが上手く、私は母が想像していた以上に習得期間が早かったらしい。
当の私も、力をコントロール出来始めた事が楽しくて仕方ない。
こんなに素敵な力を手に入れる事が出来るなんて、あの頃は考えもしなかったから。
転生様々、カミサマ様々である。
「しょうかん?」
聞いた事くらいはあった。母が言うには、召喚獣は友達としても有能らしい。
「召喚獣達とお友達になれれば、きっといつか、彼等はあなたの助けになる」
召喚獣にもレベルがあって、優しい子から気難しい子まで様々で、まるでペットのようだと笑う。
母に召喚方法を教わり、私は自分でも色んな本を読み漁り、毎日修行をするようになった。
そのうち、母がいなくても一人で修行を続け、少しづつ成果が出ているのが嬉しくて、自分の成長にワクワクしている。
私は出来る事が増えた嬉しさと、不思議な力を使える楽しさで、みるみる成長していった。
《数ヶ月後》
私は召喚魔法の為の魔法陣を描き、深呼吸をした。
何度か描いては挑戦してはいたが、まだまだ未熟で、少し前まで母の手助けが必要だった。
しかし、今は違う。
中級の召喚獣までなら呼び出せるようにまでなっていて、母は「ここまでのスピードで成長するなんて」と驚き、凄い事だと自分の事のように喜んでくれた。
ただ、父や母には言っていない事があった。
私は、上級よりもっと上の召喚獣を呼び出すつもりでいる。
もう、大切な人に傷ついて欲しくなくて、私の力でみんなを守れるようになりたいから。
その為には、私自身が強くならなきゃいけない。
だから、どれだけ疲れていても、辛くても、やるしかないのだ。
みんなが寝静まったのを確認して、私はいつもの様にこっそり家を出て、森へ向かう。
近くの湖に向かい、深呼吸する。
精神統一して望まないと、上級よりも上の者を呼び出すには、物凄い力がいるから。
今のこの小さな体では、まだまだそう簡単に耐え切れるものではない。
今、私が無茶をすれば、命すら危うい状況になるかもしれない。
慎重に進めなければならないのだ。
体の中心より下、おへそ辺りに力が溜まって行くイメージを浮かべる。
「大丈夫、出来る……」
柔らかな風がふわりと髪を揺らす。
────カサッ。
背後で草の踏む音がした。
私は母に「無闇に人前で力を使わないようにしてね」と言われていたから、すぐに中断して振り返る。
絶句。
目の前の状況が読み取れず、理解出来ず、固まってしまう。
この世のものとは思えない毛並み、滑らかな鋭い角と、背中から生えた二つの翼も美しく、体全体を虹色の光が包み込んでいた。
全てが美しく、その姿に目が奪われ、離せない。
ユニコーンのようだけど、ペガサスのようでもある。
昔何かで読んだ事があったのを思い出す。この生き物は『アリコーン』だ。
生まれて初めて見た魅力的な姿で、こちらをジッと見つめ、少ししてゆっくりこちらに一歩進む。
私はただ、ジッとしている。
動けない。例え動けても、動かないように足に力を入れる。
ゆっくり、でも確実にこちらに近付いてくる。
顔が近くにある。鼻が、すんすんと動いて、私は匂いを嗅がれている。
散々身体中の匂いを嗅がれた後、アリコーンは私の額に鼻先をチョンと付けた。
まるで、キスをされたみたいだった。
そして、頭を下げた。
私は自然と手を伸ばしていた。
触れた毛並みは滑らかで、今まで触った事がない程に柔らかく、何とも言葉にし難いものだった。
アリコーンは、私が触れても特に嫌がる事はなく、素直に撫でさせてくれる。
心地よくて不思議な時間。私はこの後も、何度も何度もここに来ては、アリコーンと過ごした。
私が召喚術を試している間も、傍にはアリコーンがいた。
ずっと見守ってくれている。
「ずっとあなたじゃダメだね。名前、つけていい?」
私がした質問に答えるように、アリコーンがゆっくり一度瞬きをした。
私はアリコーンに“オレン”と名前を付けた。 オレンと名前を呼んで撫でると、気持ちよさそうに目を閉じて擦り寄って来る。
私達はこうやって、密かに穏やかな時間を過ごし続けた。
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