五
宇宙港のターミナルは、歓喜の喧騒に満ちていた。
人々が、互いの実体を確認するように激しく抱き合っている。
ハルは、その光景から離れた場所で、静かに立っていた。
黒い革手袋に覆われた右腕。
医師は「組織が死んでいる。義手へ換装すべきだ」と繰り返した。彼女自身、ふとした瞬間に、この血の通わぬ肉の塊が、自分に寄生する死者の遺骸のように感じられて、背筋が凍ることがあった。
だが、ハルは左手で、その重い右腕をそっと支えた。
重い。意志を拒絶する、圧倒的な物理的質量。
彼女は、自らの身体にその死んだ腕を回した。
(ハル、これでもう――)
脳裏に蘇る、痛烈な抱擁の残響。
この不自由な重みがある限り。他の誰にも、この場所を明け渡さない限り。
レンは、宇宙のどんな距離も時間も超越して、私を引き留め続けている。
人混みの中で独り、動かない腕を抱きしめるハルの姿は、傍目には静かな狂気に見えたかもしれない。
彼女は、一瞬だけ怖くなった。
だが、次の瞬間、その「重さ」が彼女の心臓を強く叩いた。
それは、絶望を分かち合った者だけが知る、ひび割れた幸福の感触だった。
ハルは小さく息を吐き、冬の澄んだ空を見上げた。
二十分の残響は、消えることのない刻印となって、彼女の血潮の中に溶け込んでいた。
(了)
二十分の残響:聖遺物の受肉 銀 護力(しろがね もりよし) @kana07
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます