記憶の中のレンは、常に「質量」を伴って現れる。

大学の資料室。二人で支え持った隕石の標本は、四十五億年の旅を凝縮したような、逃げ出したくなるほどの重さだった。


「重力ってのは、星が孤独じゃない証拠なんだ」

レンはそう言って笑った。地質学者である彼は、情報の断片ではなく、質量のある真実だけを信じていた。


火星の第4探査区。そこでレンが見上げているのは、赤錆色の虚無だ。

ハルのモニターの隅に、英数字の羅列が骨のように白く明滅した。


EMER_OVERRIDE_PRESET: STANDBY

それは彼が数日前に仕込んでいた、待機コマンドのログだった。

事故が起きる前から、彼は選んでいたのだ。


もし、この不自由な距離が自分たちを分かつなら、その瞬間に何を引き換えにするべきかを。彼は二分の一の確率で訪れる破滅に、あらかじめ署名を済ませていた。

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