第一章 ◆◆町一丁目3番地在住Aさん(80 歳)からの証言
本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。本日は◆◆の歴史について A さんの意見聞をお教えいただければと思います。
では、まず初めに簡単な自己紹介をお願いいたします。
「はい、A と申します。今年で80 歳になり◆◆町には、今の夫との結婚を機に引っ越してきましたので住みはじめて大体60年ほどになりますかね。」
引っ越してきてからこの土地のいわれや歴史についてなにか聞いたことはありますでしょうか。
「そうですね。私たち夫婦は当時は珍しい存在でね。学生だった私たちは恋人関係にあったんですけどね、二人ともそれなりの家柄の人間だったから親が決めた相手じゃないと結婚させないと私たちの結婚に猛反発してね。この◆◆に夜逃げ同然で逃げてきたの。」
「だからなんというか、ここでは私たちは腫れもの扱いって感じでね。当時は近所付き合いもほとんどなかったからあまりこの土地のいわれについては詳しくないんですけど。当時の様子とかだったりはお話しできると思いますよ。」
わかりました。ありがとうございます。では改めてお聞きいたしますが当時のこの土地はどんな様子でしたか?
「そうですねえ。あの頃はまだ舗装されてない道も多くて、 夜になると真っ暗で、街灯もぽつんぽつんとしかなかったんですよ。今みたいにコンビニもないし、夜はほんとうに静かで....でも、なんというか、静かすぎるというか。」
静かすぎるですか、、、具体的にどのような?
「うーん....夜になるとね、音がしないんですよ。虫の声も、風の音も、まるで止まったみたいに。最初は気のせいかと思ったけど、何年住んでも、あの感じには慣れなかったですね。」
それはこの三番地だけだったんですか?
「いえ、 それが、◆◆町全体がそんな感じでね」
町全体ですか?それは今でもそうなんですか?
「そうですね。今は昔と違って家も増えて道路も整備されて、近隣に住む方や車の往来も多くなったので以前ほどではないですけど、ふとした時に、例えば夜に散歩してるときとか静かすぎるなって感じるときはありますね。」
なるほど、ほかに昔の◆◆について覚えていることは ありますか?
「そうね....あっそういえば私たちがここに引っ越してきたときにね一人だけ仲良くしてくれたおばあさんがいたの。」
「そのおばあさんは町でも変わり者だといわれてたんですけど、お野菜をいただいたり、何か困ったことがあるとたすけてくれたりってかなり親切な方だったんです。ある日その方にここら辺の夜って静かすざますね。みたいな話をしたのそしたら、"夜中に名前を呼ばれても、絶対に返事をしちゃいけないよ"っていわれてね。」
誰かに名前を呼ばれるんですか。それは、ここに伝わる迷信というか伝承のようなものに関係するのでしょうか?
「さぁ....どうなんでしょうね。私は単に夜道は危ないから女一人で出歩かない方がいいよ。くらいに受け取ってたんですけど。」
なるほど。その後、その"名前を呼ばれる"というような体験を、実際にされたことはありますか?
「ええ、ありますよ。あれは、引っ越してきて三年目くらいだったかしら。ちょうど夏の終わりで、夜でも蒸し暑くてね。寝苦しくて、縁側に出て涼んでたんです。そしたら、裏の方から"Aちゃん" って、声がしたんです。」
Aちゃん、というのは?
「私の名前です。夫はそのとき、出張で家にいなかったから、誰か近所の人かしらと思って。でも、声の感じがね、なんというか妙に平坦で、感情がないというか。人間の声なんだけど、どこか"間違ってる"感じがしたんです。」
返事は?
「しませんでしたよ。あのおばあさんの言葉が頭をよぎって。そしたら、また"Aちゃーん"って、今度はもっと近くで。まるで、家の裏手に立ってるみたいな距離感で。」
怖くなりませんでしたか?
「もちろん怖かったですよ。でも、不思議と体が動かなくてね。声が止んだあともしばらく縁側に座ったまま、じっとしてました。朝になってから裏を見に行ったけど、誰もいませんでした。足跡も何も。」
それ以降同じようなことは?
「一度だけ、似たようなことがありました。でもそのときは、声じゃなくて。夢だったのかもしれないけど、誰かが障子の向こうに立ってる気配がして。Aちゃーん"って、今度は 懾くような声で。夫もその夜はいたんですけど、彼は何も聞こえなかったって。」
それは、何かの前触れのようなことだったのでしょうか?
「さあ、どうかしらね。ただ、その翌日、 あの親切だったおばあさんが亡くなったって聞いて。夜中に倒れて、そのままだったって。 」
..........
「そのとき思ったの。"ああ、あの人が言ってたのは、ただの注意じゃなかったんだ" って。あの声は、きっと。」
きっと?
「呼んでるんですよ。誰かを。誰でもいいわけじゃない。選ばれた人だけ。だから、返事をしちゃいけないの。」
それは、今でも........?
「ええ。今でも、たまに思い出します。夜、ふと目が覚めたとき、耳を澄ませて思うんです。今夜は呼ばれないかって。」
次の更新予定
◆◆に関する調査記録 水嶋鏡 @Mizushima_08
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。◆◆に関する調査記録の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます