第3話「スキル無し判定(配信)」


適性検査会場になった体育館は、熱気と視線で埋め尽くされていた。


中央に置かれているのは、巨大なクリスタル状の測定装置。

国が支給した最新鋭のマナ・アナライザー――らしい。


「次、Bクラス、神宮寺レン」


名前が呼ばれると、黄色い歓声が上がった。

レンが悠々と進み出る。その横には、スマホを構えた星奈ユアの姿。


「ユア、配信回ってるか?」

「回ってるってば。……はいはい、撮ればいいんでしょ」


ユアが面倒そうにレンズを向ける。

レンが装置に手を触れた。


ボンッ――!


装置が赤く輝き、炎のホログラムが天井まで吹き上がる。


《属性:火炎》

《推定等級:B+》

《特記事項:高出力》


「うおぉぉ! いきなりBプラかよ!」

「やっぱ神宮寺すげえ!」


会場が沸く。

ユアの画面には、流れ星みたいにコメントが走っていた。


≪B+きたあああ≫

≪学生の火力じゃない≫

≪才能の塊≫


レンは満足げに鼻を鳴らし――そして、僕を見た。


「おい。次はガリ勉くんの番だぜ」


わざと場所を空け、カメラの射線を通す。

嫌なほど分かりやすい。


「ユア、こいつも撮ってやれよ。昨日の“測定不能(エラー)”が、本番でどうなるか見ものだ」

「えー……映えなさそう」


そう言いながら、ユアはレンズを僕に向けた。


体育館中の視線が集まる。

嘲笑、憐憫、興味本位。あと、少しの期待。


僕は淡々と歩き、装置の前に立った。


(原理は……魔力波の反射計測)

(定義された“スキルの形”に合う反応だけ拾うタイプだな)


昨日の簡易端末とは精度が違う。

これなら――昨夜の一パーセントも、拾うはずだ。


僕は手を触れた。

『魔力回路の基礎』の手順通りに、体内の回路を開く。


……シン。


光らない。

音もしない。


ただ、装置の冷却ファンの唸りだけが、妙に大きく聞こえた。


《測定結果:――》

《判定不能》

《反応なし(下限未満)》


数秒の沈黙のあと、教官がため息まじりに告げる。


「……判定不能。魔力量が計測下限以下だ」

「事実上の“スキル無し”と見ていい」


ドッ、と笑いが爆発した。


「やっぱ一般人じゃん!」

「エラーっていうか、空っぽ?」

「勉強しすぎて燃料切れかよ」


レンが大げさに肩をすくめる。

ユアの画面には、残酷な文字が踊っていた。


≪放送事故w≫

≪ノンスキル確定≫

≪期待したのに…≫

≪かわいそ…いや草≫


デジタルな嘲笑が、可視化される。


けれど僕は、装置の表示から目を離さなかった。


(“反応なし”じゃない)

(微弱だけど、波形は出てる)


ただ、通常のノイズ処理で潰されるくらい小さい。

あるいは――僕の回路の組み方が、この装置が想定する「一般的な魔法」と違いすぎている。


(互換性の問題に近いな)


面白い。

この世界のものさしだと、僕は測れない。


「おいおい、黙り込んじゃったよ」


レンが僕の肩に腕を回し、カメラに向かって親指を立てた。


「なあ先生。こいつ魔力ないなら、実技やらせる意味なくないっすか? 危ないし」

「む……確かに、実技は危険かもしれんが……」


「じゃあさ。俺がテストしてやるよ。午後の模擬戦」


体育館がさらに沸いた。

公開処刑の匂いがする。みんな分かってて喜んでいる。


レンは続ける。


「俺の炎で、こいつが“戦えるか”試す。無理なら即ギブさせればいい。安全だろ?」

「……一ノ瀬、どうする。辞退もできるが」


教官が僕を見た。

目は「やめておけ」と言っている。


レンはニヤニヤ笑っている。

ユアのカメラが、僕の表情をアップにする。


僕は短く答えた。


「やります」


「は?」


「データが欲しい。お願いします」


ざわめきが一瞬、引いた。

そのあとに来るのは、「コイツ何言ってんだ」という空気。


レンだけが、嗜虐の色を瞳に浮かべて笑った。


「いいね。たっぷり教育してやるよ」



休憩時間。


僕は教官を呼び止めた。


「先生。あの装置、設定の詳細って分かりますか」

「は? ……メーカーのマニュアルは非公開だ。現場用の仕様しかない」


「測る前提が固定されすぎてます。低出力や特殊な回路は“無いもの”として処理される」

「……悔しいのか?」

「いえ。精度の話です」


教官が言葉を失った顔をする。

僕はそれ以上言わず、控室へ向かった。


悔しさなんてない。

あるのは仮説と、検証への渇望だけだ。


廊下ですれ違ったレンが、低い声で囁く。


「逃げんなよ。配信も回すからな」

「テメェが這いつくばるとこ、ネット中に晒してやる」


僕は足を止めず、歩き続ける。


(条件は揃った)


相手はB+の火炎。

こちらは“スキル無し扱い”。


観客多数。配信あり。

ノイズは多い。でも――実験環境としては十分だ。


(昨夜の参考書で、必要な式は揃ってる)

(あとは、現場で合わせるだけ)


最短経路。

重心移動。

運動方程式への干渉。


勝つためじゃない。

再現するために、当てにいく。



夜。


帰宅して部屋のドアを閉めた瞬間、張りつめていた空気がほどけた。


本棚は、いつもの場所にある。

相変わらず静かで、重い。


一段目。


昨日の『魔力回路の基礎I』と、昨夜追加された『模擬戦の必勝法』の隣に――

見覚えのない背表紙が、もう一冊増えていた。


金文字のタイトルを、僕は指でなぞる。


『実戦演習:初撃で終わらせる』




## 作者あとがき


第3話までお読みいただき、ありがとうございます。


「判定不能」=「スキル無し」と決めつけられる空気の中で、学だけが淡々と“データ”を拾っていく回でした。

本人は落ち込むどころか、測れないこと自体を面白がっています。


次回はいよいよ模擬戦。

配信つきの公開処刑――のはずが、学にとっては「実戦演習」です。


続きが気になった方は、**フォロー**してもらえると更新を追いやすいです。

また、面白いと思っていただけたら**評価(★)**や**コメント**もいただけると、すごく励みになります。

(「ここが好き/ここが分かりにくい」みたいな一言でも大歓迎です)


それでは次話でお会いしましょう。

第一部完結(60話予定)毎日2話更新です。




## 作者あとがき


第4話までお読みいただき、ありがとうございます。


公開処刑――のはずが、「教科書通り」に終わりました。

学がやったのは派手な必殺技ではなく、**条件を揃えて、手順通りに再現**しただけです。


そして代償(反動)も、きっちり発生しています。

“楽に強い”のではなく、“正しく扱えば強い”タイプの力として描いていきます。


次回は配信の反響がさらに広がり、ついに「添削してほしい」側が動き出します。

(※学にとっては、最高に美味しい依頼です)


続きが気になった方は、**フォロー**してもらえると更新通知が届きます。

また、面白いと思っていただけたら**評価(★)**や**コメント**もいただけると励みになります。

一言でも大歓迎です。


それでは次話へ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月18日 07:33
2026年1月18日 20:33
2026年1月19日 07:33

ダンジョン出現で学歴社会が崩壊。スキル無しで底辺扱いされても僕の探求心は止まらない〜毎日届く未知の参考書を解いてたら世界最強で美少女達からも先生と慕われる〜 他力本願寺 @AI_Stroy_mania

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画