第4話 規格外の力
「……シキ、あそこ」
あれから30分程歩き、僕たちは森へと到着。その中を慎重に進んでいると、少ししてプラネさんが一点を指差した。
そちらに視線を向ける。するとおよそ50m程先に醜悪な容貌を持つ二足歩行の生物の姿があった。
全身緑色の筋肉質な身体に、鋭く伸びた牙に爪。身長100cm程度の低身長。その全ての特徴から、目の前の生物がランクFの魔物ゴブリンであることがわかった。
「あれがゴブリン……」
「ついでだからゴブリンについて説明する」
言葉の後、プラネさんはその知識を披露してくれる。
まずゴブリンは進化の幅が広く、分類の多い種族として知られているようだ。
一回り身体が大きければランクDのホブゴブリン、魔法を使ってくればランクEのゴブリンウィザード、ウルフ等を使役し、彼らに乗っていれば同じくランクEのゴブリンライダーとなる。
またそれとは別にただのゴブリンの中にも個体差が存在していおり、それを見分けるポイントが武器とのこと。
たとえば剣を持っている個体もいれば、棍棒を持っている個体もいる。弓を持っている個体もいれば、中にはボロボロの盾だけを持っている個体もおり、とにかく様々のよう。
それらを総称してゴブリンと呼ぶのだが、そんなゴブリンの中で最弱なのがなんの装備もしていない素手のゴブリンとのこと。
ちなみに視線の先にいるゴブリンの手には武器のようなものは見当たらない。つまりゴブリンの中では最弱の存在という訳だ。
とはいえ、その醜悪な容貌が、鋭い爪と牙が、理性の感じさせない濁った瞳が、僕に少なくない恐怖を植え付けてくる。
バクバクと心臓が早鐘を打つ。思わず胸に手を当てる僕を目にして、プラネさんは口を開く。
「怖い?」
「はい。とても怖いです。でも──」
ゴブリンへと向けていた視線を、プラネさんへと移す。相変わらずの感情の読めない瞳。ただその一切の緊張を感じさせない姿が、じわじわと僕の恐怖を和らげていく。
「──プラネさんが側にいる。それだけで何でもできそうな気がします」
「ん、危険だと判断したらすぐに助ける。シキが怪我を負うことは万に一つもありえない。だから安心して挑んでおいで」
「はい。……いってきますッ!」
言葉の後、僕はフードを被る。そして右手に鎌を召喚すると、ゴブリンに気づかれなように背後をとりながらゆっくりと近づいていく。
40m、30m、20mとその距離が徐々に縮まる。しかし未だこちらの存在には気がついていないようだ。
……よし。このまま行くぞ。
心の中で頷いた後、じわじわと歩みを進める。そしてついにその距離が1mになった。
この木の向こうに……いた。
ゴブリンは辺りをキョロキョロと見回しているが、僕の存在を感知している様子はない。
ローブの認識阻害が働いている? なんにせよ、これなら背後から一気に──
考えながらジッと目の前のゴブリンを見つめる。そしてついにゴブリンが背を向けた所で──僕は勢いよく飛び出した。
「……ッ!」
鎌をギュッと握る。次いで大きく振りかぶると、ゴブリンの首を刎ねるべく勢いのまま振り抜いた。
瞬間──刃がゴブリンの首に接触し……結果ゴブリンがこちらに気がつくこともなく、その命を散らした。
「……や、やった?」
ゴブリンの亡き骸を前に、僕は荒い息を吐く。しかし緊張からか心臓は早鐘を打てど、身体的な疲れはほとんどない。
……勢いよく飛び出したのに、まるでこちらに気がついた素振りを見せなかった。これが認識阻害の力?
いや、それだけじゃない。首を落とす際、僕の手には一切の抵抗が無かった。まるで豆腐を切るかのようにスムーズで……切れ味が良いのはわかっていたけど、まさかこれほどとは。
一人思考する僕の元へ、プラネさんが近づいてくる。
「ん、お疲れ様」
「ありがとうございます。その……なんというかあまりにもあっさりで、ゴブリンを倒した実感が──」
「それも仕方がない。そのローブの認識阻害はかなり強力。多分目の前から堂々と近づいても、ゴブリン程度の魔物ではシキの姿を捉えることは不可能」
「そんなに……」
「それとその鎌の切れ味も凄まじい。普通素人がこんな簡単に首を落とせない。……おそらく切れ味だけならCランク冒険者の武器と同等かそれ以上」
プラネさんはさらに言葉を続ける。
「ただそれ以外に能力があるかはわからなかった。何度か戦闘を繰り返し、検証する必要がある」
「わかりました」
「とりあえずゴブリンの魔石を……っと、シキ。初めての魔物討伐だけど気分は悪くない?」
プラネさんの言葉を受け、ふと思う。
……そういえば初めて生き物を殺したというのに、こうして死骸を前にしているというのに、不思議と忌避感がないな。
前世の記憶を思い返しても、当然だが死骸に慣れるような経験はない。普通なら気分が悪くなったり、少なからず嫌悪感は抱くはずだが、僕の心は多少緊張している程度でほとんど平時と変わらない。
……転生する際に神様が耐性をつけてくれたとか?
幾つか可能性を思い浮かべるが、当然その理由を断定することはできない。
……まぁ何にせよ都合が良いな。
僕はそう考えると「意外と平気です」と返答する。
「ん。耐性があるのは良いこと。それじゃ魔石を取り出そうか」
「はい!」
僕は頷くと、膝をつき目の前のゴブリンの体内にある魔石を取り出そうとし──瞬間、僕の草刈り鎌から黒いモヤが飛び出した。
「……ッ!?」
プラネさんは瞬時に僕の手から鎌を落とすと、僕の身を守るようにギュッと抱きしめる。そして防御系の魔法だろうか、何らかの魔法を発動したまま、目の前の鎌を注視する。
突然抱きしめられたことに驚きつつも、同じく鎌の様子を眺める。
そんな僕たちの目の前で、鎌から飛び出した黒いモヤはまるで大口を開けて飲み込むかのようにゴブリンを覆い隠す。
それからすぐにモヤは霧散すると──ゴブリンは姿を消し、魔石だけが転がっていた。
「今のは何……?」
「わかりま──ッ!?」
プラネさんの言葉に返答しようとしたその瞬間、僕の身体を熱い何かが流れる感覚が襲う。
「シキ!?」
珍しく動揺した声を上げるプラネさんの腕の中で、僕は荒い息を吐きながら口を開く。
「すみません、もう大丈夫です。その、なんだか一瞬身体が熱くなって──」
「身体が? っ……シキの身体能力が向上している?」
「プラネさん……?」
困惑する僕の側で、プラネさんは呟くように声を漏らす。
「まさかゴブリンを吸収して、自らの糧とした?」
「えっと、吸収……ですか?」
「……わからない。ただもしこれが本当なら凄まじい力。シキ、まだ戦える?」
こちらを気遣いながらも、プラネさんは僕に問う。
僕は彼女の腕の中からゆっくりと抜け出すと、身体を動かしてみる。
……うん。特に違和感はないな。いや、むしろなんだが力がみなぎってくるような感じだ。
自身の体調を確認した後、僕は草刈り鎌へと近づき再び手に取る。
……鎌も……うん。謎のモヤは消えたし、いつも通りだ。……これなら戦える。
僕はそう判断すると、こちらを見つめるプラネさんに向けうんと頷いてみせた。
◇
その後、僕は何匹ものゴブリンを討伐しながら、能力の検証を行った。
結果、ローブと鎌の能力を幾つか知ることができた。
まずローブには認識阻害の他にダメージ軽減の能力があることがわかった。
プラネさんいわく、物理耐性と魔法耐性どちらもかなり高いレベルらしい。結果今回はその底を知ることはできなかったが、少なくともゴブリン程度の攻撃では僕の身体に傷一つつかなかった。
次に草刈り鎌には、討伐した魔物を吸収し、自身の糧とする能力があることが判明した。
こちらも程度はわからないが、ゴブリンを討伐する度にあの黒いモヤが現れ、ゴブリンを飲み込んだこと、その度に僕の全身に力が漲る感覚があったことからまず間違いないだろう。
またプラネさんいわく、どうやら魔物を吸収する度に鎌の力も増しているらしい。
──魔物を吸収し、成長する鎌ということだろうか。
こちらも今後検証は必要だが、なんにせよ成長する武器というのはあのプラネさんをもってしても初めて目にするとのことであった。
ちなみに草刈り鎌の他の能力は今回判明しなかった。もしかしたらこれ以外にない可能性もあるが……その辺りは今後も検証を続けることで徐々にわかっていくことであろう。
何はともあれ、能力の検証とゴブリン10匹の討伐を終えた僕は、プラネさんと共に町へ向かって歩いていた。
その中で、これまで何かを考える様子を見せていたプラネさんが口を開く。
「シキ。魔装の……特に鎌の能力は絶対に秘匿すべき」
「……はい」
何となく予想がついていた僕は間髪入れずにうんと頷く。
「ただ冒険者として力を求めるならこれ以上ない規格外の力。シキは……どうしたい?」
「僕は──」
彼女の問いに、僕は俯き思考する。
思い返せば、前世の社畜だった僕の唯一の楽しみは、たまの休みに読む異世界ファンタジー小説であった。
これといった特技もなく、ただ社会の歯車として働くだけの毎日を送るだけの僕にとって、異世界モノに登場する主人公たちはキラキラした存在として映っていた。
──自分も彼らのように輝きたい。
いつしかそんな思いを抱きながら、しかし現実で努力をする訳でもなく、ただ異世界で無双する彼らに自己投影しながら物語を楽しんでいたことを覚えている。
……もしそんな彼らのような存在になれるのならば。そうなれるだけの力が、僕の側にあるというのならば──
「──強くなりたい。みんなに光を与えるようなそんな存在になりたい」
「ん」
「だから……今までの繋がりも大切にしつつ、これからは魔物討伐にも力を入れようと思います」
「私も手伝う」
「プラネさんが?」
「ん。もちろんずっと一緒にはいられない。でも可能な限り力を貸す。私も……シキの行く末を見届けたいとそう思ったから」
「プラネさん……ありがとうございます」
「ん。頑張ろうね」
「はい!」
プラネさんの言葉に僕は力強く頷き、こうして僕は今後の生き方を決定した。
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