第3話 はじめての魔物討伐

 翌日。僕は元気よく宿を出ると、冒険者ギルドへと向かう。


 今日の目的はいつもの雑用依頼ではない。なんとこの世界に転生して初めてとなる、魔物討伐の依頼である。


 ……きっと僕1人ではずっとこの町から出られずにただ雑用をこなす毎日だった。僕に鎌とローブの能力検証の機会を、町の外に出る機会をくれたプラネさんには感謝しなきゃだな。


 そう心の中で思いながら走ること数分。

 僕は冒険者ギルドへと到着した。


 今日プラネさんとはギルド内で待ち合わせをすることになっている。


 ……約束の時間より少し早く着いちゃったな。プラネさん、もう来ているかな?


 思いながら、僕はギルドの扉を開く。するといつものように強面のおっちゃん達の視線がギロリとこちらへ向き──すぐさま破顔する。


「皆さんおはようございます!」


「おうおう、シキじゃねぇか!」


「おはようさん!」


「わけぇのに毎日ご苦労なこった」


「なんだ? 今日も草刈りか?」


「いえ……その、今日は魔物討伐をしようと考えてます」


 瞬間、ギルドにいた全員が硬直する。


「ハァ!?」


「シキが魔物討伐を!?」


「おいおい、大丈夫なのか!?」


「──問題ない。私が一緒だから」


 言葉と共に、ギルドの扉が開き、相変わらず眠たげな目をしたプラネさんが姿を現した。


 ただしいつもと違う点として、彼女は頭に大きなとんがり帽子を、身体を覆うようにブカブカのローブを、そしてその手にはこれまた大きな杖を手にしている。


 そんな彼女の登場に、ギルド内が騒然とする。


「おいおい『静寂しじま』じゃねぇか」


「久々に顔見たぜ」


「『静寂』……?」


 聞き慣れない単語に思わず首を傾げると、僕の隣にやってきたプラネさんが、こちらに視線をやりながら口を開く。


「私の二つ名。世間では『静寂のプラネ』と呼ばれている」


「なるほど」


「……にしてもどういう風の吹き回しだ? 滅多に家から出ねぇあんたが、シキのお守りなんてよ」


「大した理由ではない。いつも家の掃除をしてくれるシキへのお礼。それだけ」


「そうか。……ま、何にせよあの『静寂』が付き添ってくれるってんなら安心だな!」


「おうおう、安心だぜ!」


「シキ! 頑張ってこいよ!」


「皆さんご心配いただきありがとうございます! 初めての魔物討伐頑張ってきますね!」


 僕の言葉に方々から激励の言葉が飛んでくる。……ほんと、いい人ばかりだ。


 内心嬉しく思っていると、プラネさんが一点を指差した。


「シキ。どうせなら依頼受けよう」


「あ、わかりました」


 言葉の後、僕たちは依頼書が貼られたボードへと近づく。


「どれにしましょうか」


「シキ、ランクは?」


「Fです」


 冒険者にはその能力や貢献度に応じてランクが定められている。特例はあるが、基本はGからはじまり、F、E、D、C、B、A、Sと上がっていく。

 同様のランクが魔物にも定められており、基本的に冒険者は自身と同ランクかそれ以下のランクの依頼しか受けられない決まりとなっている。


 僕のランクは現在F。つまりGランクかFランクの討伐依頼しか受けられない。

 ただし僕が魔物と対峙するのは今回が初めて。ならばGランクの討伐依頼を受けるのが最善だと思うが。


 そんな考えを抱く僕の前で、プラネさんはキョロキョロとボードを端から端まで見つめ、1つの依頼書を手に取った。


「ん。なら、これ」


 僕はプラネさんに近づくと、彼女が手にした依頼書を覗き込む。

 そして上から順に読んでいき、僕は目を見開いた。


「ゴブリン10体の討伐……って、これFランクの依頼じゃないですか! それも比較的難しい方の!」


「そう」


「て、てっきり最初はGランクの討伐依頼だとばかり」


「大丈夫、私がいる。それに……」


「それに?」


「……続きは後で話す。とにかくシキならこのレベルでも問題ない」


 プラネさんがジッとこちらを見つめながらそう言う。その美しい瞳には、僕に対する揺るぎない信頼が窺えた。


「わかりました。プラネさんがそう言うのなら、この依頼を受けてみようと思います」


 言葉の後、僕は彼女から依頼書を受け取ると、それを受付へと持っていく。そこで受付嬢さんが内容を確認し、特に問題ないということで依頼が受理された。


「ん。じゃ、行こうか」


「はい。プラネさん、本日はよろしくお願いします!」


「よろしく」


 そう言ってプラネさんが頷き、こうして僕は彼女と共に町の外へと歩みを進めた。


 ◇


 僕が暮らしている町は、名をリヴィメサと言う。ここレグルス王国において、王都に次いで2番目に大きな都市だ。


 特徴は様々だが、やはり大都市だけあり、町は魔法処理が施された防壁に囲われている。


 そんな町には東西南北に4ヶ所門があり、

 今回僕たちが向かうのは、この内の北門である。


「それでプラネさん」


「ん、なに」


「僕が今回の依頼でも問題ない理由ってなんですか」


「ん。それはシキのローブにある」


「ローブ……確か魔装ってことでしたよね」


 魔装……魔力を持った武具で、何らかの能力を有しているんだっけ。


「そう。だからそのローブにも特殊な力がある。そしてその内の1つを私は知っている」


「えっ!?」


 な、なぜプラネさんが僕のローブの能力を!?


 驚愕する僕を他所に、彼女は言葉を続ける。


「シキは今まで経験はない?」


「認識……ですか?」


「そう。特にフードを被った時に」


「フードを……あっ」


 そういえば今思い返せば、この世界で初めて大通りに出た際、誰も僕の方に目を向けなかった気がする。それに食事を求めて店を訪ねた際も、フードを被っていた時は僕に声を掛ける人はいなかった。


 あの時は僕のような明らかに問題を抱えている子どもには関わらないようにと周囲が避けているものだと考えていたが、改めて考えると、誰一人としてこちらに視線をやらないのもいささか不自然である。


 それだけじゃない。草刈りの依頼をこなす中で、依頼主から「気がついたら終わっていて驚いた」と伝えられたことが何度かあった。てっきり僕の手際の良さを褒める言葉だと思っていたのだが、もしもこれが違う意味なのだとしたら──


……?」


「正解。シキのローブには認識阻害の力が宿っている」


「発動条件はフードを被る事でしょうか?」


「ん、多分そう」


「知りませんでした……」


 これまで汚れないという理由だけでローブを身に纏っていたが、まさかそんな力があったなんて。


「草刈りをするシキをずっと見守っていた私だから気づけたこと。シキが気がつかなくとも何ら不思議ではない」


「プラネさんのおかげですね」


「……そうでもない。きっと遠くない内にシキもその可能性に辿り着いていた」


「でもこれだけ早くわかったのはプラネさんがいつも見守ってくれたからですよ。だから、ありがとうございます」


 そう言って笑顔を浮かべると、プラネさんは眠たげな瞳でこちらをジッと見つめた後、「ん」と言いプイッと視線を逸らした。


 ◇


 それから少しして僕たちは北門へと到着した。そこで門番さんに冒険者証──冒険者である証明かつ身分証となるカードであり、登録の際にもらえる──を見せた後、門を潜り町の外へと出た。


 目の前に広がる青々とした草原。その一面を覆い尽くす緑に、僕はキラキラと目を輝かせる。


 ……これといって何かある訳でもないただの草原だけど、この世界に来て初めての町の外だと考えるとなんだか特別なモノに思えるな。


「シキ、ワクワクしてる」


「わかりますか?」


「ん、瞳がキラキラしてる。かわいい」


 言葉の後、プラネさんは僕の頭を撫でる。

 その柔らかい手つきがなんとも心地良いが、同時に少し気恥ずかしかった。


「そ、そろそろ行きましょうか」


「ん、行こう」


 プラネさんは僕の頭からゆっくりと手を離すと、今度はその手を差し出してくる。


 ……つ、繋げってこと?


「はぐれると危ない」


「こんな視界良好な草原で逸れるなんて──」


「危ない」


「……わかりました」


 町の外ではプラネさんの言う事を聞いた方が良いだろう。そんな考えもあり、僕は差し出された彼女の手を取った。


 ……まるでピクニックに行く子どもみたいだ。


 内心そんなことを思いながら、僕は彼女に手を引かれて草原から真っ直ぐに伸びる道を歩く。


 そんな中、僕は辺りを見回しながらプラネさんへと声を掛けた。


「魔物……いませんね」


「ん。この辺りは空気中の魔素量が少ない。だから魔物はほとんどいない」


 ……知らない単語が出てきたぞ。


「魔素量ですか」


「シキは魔物がどのようにして生まれるか知っている?」


「いえ……」


「なら、教える」


 言葉の後、彼女は順を追って説明してくれた。


 どうやら魔素というのは魔法やスキルを使用する際に必要となるものらしい。

 この魔素は僕たちの体内にも存在しており、それを無意識の内に魔力に変化することで、魔法やスキルを発動しているようだ。 


 そんな魔素は空気中にも存在しており、魔物はその魔素が溜まった場所──通称魔素溜まりから生まれる。そしてその魔素溜まりの魔素量が多い程、強力な魔物が誕生するらしい。


 この一帯は昔から空気中の魔素量が少ない。故に魔素溜まりがほとんど発生せず、発生してもその濃度は低い。つまり基本的に弱い魔物しか存在しないようだ。


「だから大昔の人はここに町を作ったんですかね」


「きっとそう」


「なるほど。勉強になりました」


「ん。目的地まではまだ距離がある。気になることがあれば何でも聞いて」


「あ、では──」


 こうして僕はこれまで気になっていたことを色々と質問しながら、今回の目的地へと向かった。

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