第4話:『お風呂』にまで入ってくるな。

「……はぁ。もう、好きにしなさい。好きにすればいいわ」


私は半ば魂が抜けた状態で、玄関に脱ぎ捨てられた三足のブーツを眺めていた。


最強の女たちが私の家に居座るようになってから、私の「中古住宅」という名の聖域は、急速にその純潔を失いつつある。


せめて、せめて風呂だけは。この一日の汚れと精神的な疲労を洗い流す、三十代独身女性の最後の砦プライベート・ゾーンだけは死守せねばならない。


「いい、あんたたち。リビングから一歩も出ないこと。わかったわね?」


私は三人に釘を刺し、脱衣所へと逃げ込んだ。


鏡に映るのは、連日の激務と心労で少しだけ窶れた、だが瑞々しさを失っていない32歳の私の身体だ。


自分で言うのもなんだが、私の胸は重力に負けず、それでいて吸い付くような弾力を持っている。前世から続く「処女」という名のブランドは、今世でも健在だ。


この美しい肌に、誰の指も触れさせない。それが私の誇りだった。


「ふぅ……」


魔導式給湯器が唸りを上げ、広めの浴槽にたっぷりと湯が溜まる。


私はバスタオルを外し、ゆっくりと湯船に沈んだ。


「あぁ……溶ける。これよ、これ……」


熱いお湯が、強張った肩の筋肉をほぐしていく。ラベンダーの香りが鼻腔をくすぐり、ようやく私は「自分自身」を取り戻した気がした。


だが、その平穏は、あまりにも脆かった。


ガラッ!!


「失礼いたします、ユキ様! 主君の身の回りを世話するのは、騎士として当然の義務です!」


「ぶっっっ!!?? リズ!?」


入ってきたのは、一糸纏わぬ姿のリズだった。


湯気に煙る浴室の中で、彼女の肢体は暴力的なまでの存在感を放っていた。


騎士団長として日々鍛錬を重ねているだけあって、その肉体はまさに「彫刻」のようだった。引き締まった下腹部から、スラリと伸びた長い脚。そして何より、私の視線を釘付けにしたのは、その胸だ。


大きく、そして重厚。乳輪の周りが淡いピンク色に上気し、私の顔よりも大きいのではないかと思えるほどの双丘が、彼女が動くたびにプルンプルンと、暴力的な質量で揺れている。


「ちょっと! 出て行きなさいよ!」


「いえ、まずはユキ様の背中を。さあ、こちらへ」


リズは私の制止を無視し、私の背後に跪いた。


大きな手が、私の肩に触れる。


「っ……!」


騎士の掌は、剣を握るためのタコがありながら、驚くほど温かくて柔らかかった。


たっぷりと泡立てられた石鹸が、私の白い肌に塗りたくられていく。


「ユキ様、お疲れのようですね……。あぁ、この白磁のようなお背中。私が守るべき平和の象徴が、今、私の手の中に……」


リズの指が、背骨に沿ってゆっくりと滑り降り、私の腰のくびれをなぞる。


「ひゃ……っ! どこ触って……!」


「汚れは隅々まで落とさねばなりません。さあ、腕を上げて……次は前を」


リズが私の前に回り込む。


彼女の豊かな胸が、至近距離で私の顔に迫る。湯気と石鹸の香りに混じって、彼女自身の甘い、少しだけ野生味のある体臭が鼻を突く。


リズの手が、私の胸を下から包み込むように持ち上げた。


「なんと……重厚で、それでいて繊細な……。ユキ様、主君の宝珠を磨かせていただく光栄、このリズ、命に変えても……!」


「ちょ、磨かなくていいから! 揉まないで!」


「ずるいぞリズ! 余を差し置いて、何を独占しておるのだ!」


さらに扉が開き、魔王ミアが乱入してきた。


彼女はリズや私に比べれば小柄だが、その体つきはしなやかな猫のようで、まだ少女の面影を残す小ぶりながらも、ツンと上を向いた果実のような胸が、誇らしげに主張している。


「ユキ、余も洗ってやるぞ! これは『婚活・マニュアル』に書いてあった『ハネムーンの混浴』というやつだな!」


「それ、どこで仕入れてきた知識よ……!」


ミアが私の膝の間に割り込んできた。


彼女の小さな手が、私の太ももの内側を執拗に撫で回す。


「ユキ、貴様、ここが弱いのだろう? 昨夜、少し触れただけで声が漏れていたぞ」


「い、言わないで……っ!」


「ふふ、案ずるな。余の魔力は、貴様の感覚を研ぎ澄ませる効果もある。ほら、ここも……」


ミアの指先から、微かな、痺れるような魔力が伝わってくる。


リズに後ろから豊かな胸を押し当てられ、前から魔王に愛撫される。


処女の私にとって、それはもはや拷問に近い快楽だった。


「あ、ああ……っ、二人とも……やめ……っ」


私の声が、湯気の中に弱々しく溶けていく。


三十代独身、成婚率No.1の鉄の女が、今、浴室という名の戦場で、最強の女たちの情熱に飲み込まれようとしていた。


浴室に響くのは、水音と、女たちの重なり合う吐息。


私の貞操観念は、溢れ出るお湯と共に、排水溝へと流れ去っていこうとしていた。



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