第5話 文化祭準備2
「はい天音、これ台本」
次の日の放課後、脚本係が私に紙の束を渡すと、それらをパラパラと捲っていった。
「なるほどね、これは集客見込めるわ」
主な内容は、主人公である少年Aが路地裏に落ちていた銃を拾うとこから始まる。
「それで虐めてきた子たちを次々と制裁していくって話ね」
あまり正しい話ではないが、観客はこういう単純な物を求める。
「これ、最後ってどうなるの?」
両手に脚本を抱えながら、係に聞いた。
「止めに来た女の子が、主人公に殺されちゃうの」
「…じゃあこの女の子がーー」
私は頬に汗が流れた。
「そう、海斗の言ってた“撃たれ役”」
ゴクリと唾を飲んだ。
私の16年間の人生で一度も劇なんてやったことはない。ましてや役なんて。
「まあまあ、その辺は監督の海斗が調節してくれるさ」
そう言って脚本係は、私の元を去っていった。
今ーー私はクラスの教卓で偉そうに座っている。実行委員だから、と言って七海先生が勧めてきたのだ。
「皆忙しそうに作業してるのにいいのかなぁ」
辺りを見回すと、ダンボールに絵の具を塗って路地裏を作っている人達や、役の練習をしている人達、それを見ている監督達が居る。
「水瀬ー」
突然、海斗が持ち場を離れて私を呼んだ。
「この銃ってさ音有りでもいい?」
柔らかな髪が窓から吹き付けた風で揺れ、目を奪われた。
「おーい」
彼が私の顔を覗き込んできたため、私は飛び上がった。
「びっくりするじゃん!辞めてよ!」
「…音有り銃でイーイ?」
顔を赤らめながら私はコクコクと頷いた。
「事前に観客に注意しておけば大丈夫」
そして、今度は別の子が来た。
「水瀬さん、ダンボールの数足りなくなっちゃって…」
恐らく、背景を作っていた子だろう。
「任せてっ!数分で持ってくるよ」
やっと仕事が出来て、私は嬉々として教室の外へ出た。
「確か倉庫に…」
校舎の外れにある備品倉庫に、ダンボールの山があったはずだ。
暫く歩いて、倉庫の中へ入ると、沢山の埃を見つけた。
「汚なあい」
手で口元を覆いながら必要なものを取る。
十数枚抱えたところで私は倉庫の外へ出ようとした。
その瞬間ーー棚にかかっていた分厚いベニヤ板が、鈍い音を立て倒れ始め、私を押し倒そうとした。
「嘘っ!」
私の視界を茶色く染め上げ、板が迫って来た。
足がすくみ、尻もちを着いて、密かに怪我を確信した。
けれどその板は私を潰すことは無く、頭上で止まったーー。高く掛けてあった板が真横になるほど倉庫は広くなく、丁度ギリギリで突っかかった。
「びっ…くりした」
全身から吹き出る冷や汗がまだ止まらない。
急いで離れようと外へ出たら、一匹のカラスが止まっていた。
「カアッカア。カア」
「え?私は貴方を知らないよ?」
そのカラスは天照大神だとか、封印だとか喋っていたが、イマイチよく分からなかった。
なんだか、頭に空白が出来たみたいだ。
「カア…カアッ」
話が噛み合わなかったが、カラスは翼を器用に使って私に御札を手渡した。
「守るための御札って…何からよ」
そう尋ねても、カラスは諦めたような顔をして飛び立って行った。
少し奇妙に思って捨てようと思ったが、仕方なく受け取った御札をポケットに丸めて、ダンボールを教室へ持って行った。
一学期最終日。
「えー明日から夏休みに入りますが、くれぐれも羽目は外さないように。それと明けには文化祭もありますので、体調面にも気をつけるように。それからーー」
長々しい七海先生の言葉を聞いた後にクラスメイト達は騒いだ。
「終わった〜!!遊ぼう、遊ぼう!」
そんな声があちこちで飛び交った。
そしてノリコちゃんもまた、私の肩に抱きついた。
「遊ぼう!」
せっかくの誘いだったので断る理由も無かった。
「勿論!キャラオケ行こうっ」
荷物を持って、駅前にあるカラオケ店へダッシュした。
「夏が始まったねえ〜〜」
二人で調子に乗って笑い合った。
人も沢山居て、受付までに時間がかかりそうだなと思ったが、杞憂だった。
「予約済みでーす」
ノリコが堂々と長者の列を割って最前列へ行った。
「はーい佐々木ノリコでえす」
色っぽく腰をくびらせカウンターに行くと、受付の男性は注意をした。
「此方が予約の列となっていますので純番をお守りください」
なんとその長い列が予約列だったのだ。
皆考えてる事は一緒だった。
私達は顔を赤らめて俯きながら再び最後尾へと並んだ。羞恥心からか、案外待ち時間は無かった。
「さあああああ歌ってくぞおおお」
ノリコがタンバリンを持って盛り上げた。
「もお恥ずかしいわあああ」
そして彼女の言葉で私はまた思い出してしまい、ぽっと頬が赤く染った。
「歌うわよ、天音ええええー!!」
そしてマイクを持った私は、先日ポケットに入れていた御札の存在に気づいた。
黒い、靄が発生していたーー。
次は、君の番。 鹿の子 @Shikanokonokonoko
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