第4話 文化祭準備

「だあれ?湊さんって」

この言葉は、今でも胸に刺さっている。

時間が経てばこの棘は取れるだろうと思っていたけれど、なかなか取れそうにない。

「(彼氏の名前?って聞かれた時は辛かったなあ)」

歩きながら今朝のことを思い返した。

大切なたった一人の弟が、他人扱いされるなんてーー。

「…よお、水瀬」

いつもの公園を抜けると、そこにはママチャリに乗った海斗が待ち構えていた。

「あ…海斗。フルーツありがとうね」

「いや礼を言われる筋合いは無い。俺が悪いから」

今度はちゃんと、海斗は彼の後ろのサドルを叩いた。

「乗れよ、安全運転で行ってしっかり遅刻するから」

八重歯を見せて笑っていた。

彼はもう吹っ切れようと頑張ってるんだ。

「もうー、海斗と話すと頭が晴れる!」

あれほど悩んでいたことがあるのに、すっかり忘れてしまった。

それが第三者による介入なのかーー分からない。

「今日文化祭何やるか決めるらしいーよ」

海斗が坂道を立ち漕ぎしながら登って言った。

「私はメイドカフェがいいな〜男子の女装姿見てみたい」

後ろ向きで座る私は、彼の顔は見えない。

「…そういう性癖なん?」

「違うしっただの興味本位!」

焦って体を揺らすと、車体も大きく揺れ、そのまま溝に落ちた。

「あ、ばか!」

海斗が叫んだ時には遅かった。

大きな物音を立てて、私達は見事に頭から塀に衝突した。

「痛あ…」

声にならない苦しみを口から出すと、海斗は怒った。

「お前のせいだろ!!」

笑みが見えたので、彼なりの注意喚起だろう。

「ごめんなさい…」

もしこれも天照大神のせいだとしたらーー。

私は胸の奥がひんやりとした。

「(そんなことは無いよね)」

自分に言い聞かせて唾を飲み込んだ。

「まあいいわ。早く行くぞ」

海斗が再び漕ぎ始め、始業と同時に校門に駆け込んだ。

「セーフ!!」

私が元気よく言うと、校門に立ってた体育科の教師は、

「セーフじゃねえ!!」

そう激怒して二人乗りしてる私達を捕まえようと走ってきた。

「海斗、急いで!」

そんなこんなで、私の残り2ヶ月と29日の生活が始動しました。


「なあなあ、最近話題になってる地球滅亡のニュース知ってる?」

クラスはその話で持ち切りだ。

ある子は、デマと主張したり、また別の子は、未来予知だとか。

私も会話に参加したかったが、それ以上に気になることがあった。

「(私大怪我して、1日で治ったのに、こんなに私に無関心なの?)」

あまりにも異様な光景で、思わず皆を疑ってしまう程だ。ドッキリでもしているのか、と。

「ねえね、海斗、私って昨日死にかけたんだよね?」

隣で静かに本を読む海斗にこっそり声を掛けると彼は目を点にした。

「え?昨日は普通に学校来てたじゃん」

突然、頭に甲高い金属音が走り、顔を歪めた。

「…えーそうだっけ」

駄目だ、また何かを忘れてしまう。そんな予感がした。

「うん、寝ぼけてたんじゃない?」

彼は微笑んで言った。

「そっか、そうだよね!」

私自身よく覚えておらず、特に心に止めず、朝読書を始めた。


「この6限は文化祭準備でーす」

担任の七海先生が教卓でそう宣言すると、クラスメイト達は立ち上がって大はしゃぎした。

「しゃーい!」

「うえーいっ!」

海斗も混じって盛り上がってた為、私も嬉しくなった。

「せんせーい、実行委員は誰ですかー?」

ある男子が先生に問うと、髭に手を当て考えた。

「んー、皆からはやりたい人居ないの?」

「はいはーい、推薦デスッ!水瀬さんがいいと思います」

私の友達のノリコちゃんが手を挙げて言った。

「俺も天音がいいと思う!」

別の男子達も挙手した。

「んじゃ満場一致で天音が実行委員で!」

先生が私を手招きして、そっから先の進行は頼むと伝えてきた。

「(そんなにすんなり決まるもん?)」

まるで始めから決まっていたかのように。

私は特にクラスの人気者って訳でもないし、頼れるリーダー気質でもないし。

「えーじゃあ、初めに何やりたいか決めます」

白いチョークを片手に握って、黒板に当てた。

「はい!カフェやりたい!」

1年D組で最も人気あるマドンナの子が高らかに提案した。

「だるいってそれ、俺は劇がいい!」

続いて発言力のある陽キャの身長高の子が言った。

数分経って、段々と手が上がらなくなった時を見計らって、私は口を開けた。

「それじゃあ、多数決を取ります」

黒板に書かれてある選択肢を順に読み上げていくと、劇の所でクラスメイトの殆どが手を挙げた。

「ええ?あんなにお化け屋敷やりたいって言ってたのに?」

私は驚いて眉間に皺を寄せると、メガネくんが右手を突き出した。

「劇は殺し合い系がいいー」

待って待って、まだ追いついてない。

私が教卓であたふたしていると、次々と賛成、という声が上がった。

「え、と、じゃあ次は、役を決めます!」

焦って黒板を消して綺麗にし、再び箇条書きにしていった。

「撃たれる役は水瀬で」

あれほど騒がしかった空間も、海斗が話すと恐ろしいくらいに静まり返ったーー。

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