第3話 空白の家族

長の八咫烏は、病院に送ると言って、行きと同じように私を浮かばせ、空を悠々と二人で飛んだ。

「あの…具体的にはどうするんですか?」

ずっと疑問だったことを吐露した。

『まずは天照大神を見つけなければなりません。地上界に干渉する為には地上に居なければならないので、どこかに居ます』

彼が毎日数千ものカラスの目で探していると聞いた時には驚愕した。

「私にそんなことが出来るのでしょうかね…」

先程は意気込んで言ったものの、果たして3ヶ月ものの間に見つけられるのか不安になった。

『きっと貴方様を潰すためには、やはり近しい者でないと無理でしょう』

遠回しに、私の家族や友達が憑いてると、疑われている気がした。

『その後、人の祈りが最も集まる場所、且つ天照大神が座す社ーーここ三重県、伊勢神宮で封印する必要があります』

丁度真下にあったのは赤い提灯で照らされた伊勢神宮だった。

「封印?」

『ええ。本来天照大神は天界に居なければならないので』

長は眼光を鋭くし、私を見た。

「…任せてください」

退く選択よりも、このまま進む方が幾分楽だと、思っていたから。

そしてしばらくして私は病院に着き、窓から病室に入った。

『では来るその日まで、また会いましょう』

カアッと鳴くと、長は飛び立って行った。

「天照大神…か」

地上に降り立つと、長らく体が覚えていた浮遊感を感じ、ふらついてしまう。

ゆっくりとベッドに倒れ込み、布団にくるまたった。急に非日常へ回り始めた歯車が、私を震えさせる。

「あら、帰ってたの?どこへ行ってたの?」

看護師の女性が私の存在に気づくと驚いて声を上げた。

「あー、ちょっと散歩へ…」

頬をかいて誤魔化すと彼女は私の体を触り始めた。

「どうやってその体で?えっ、嘘!傷が完治してる!?」

目を丸くされて私は少し申し訳なくなった。

「あの、明日から学校へ行きたいんですけれど…」

3ヶ月というのは思ったよりも時間が無いらしい。徹底的に天照大神を見つけるために、学校というコミュニティへは行きたい。

「驚くべき回復力!好きにしていいわ!親御さんの許可も貰ってね!」

看護師の人は頭を抱えながら、部屋を出ていった。

私も、特にここで留まる必要も無いので、足早に部屋を去った。

「姉ちゃんっ!無事なのかよっ」

廊下へ出るなり湊は指を指して叫んだ。

彼は確かに笑顔だった。

「心配かけたね、厨二病野郎っ」

くしゃくしゃっと彼の鳥の巣頭を撫でると湊は暴れた。

「触んな嘘つきっ!」

何だかんだいって心配してくれてたんだな。そう思うと私は胸が熱くなり、湊の手を握った。

「母さんは、父さんの墓参りに行ったよ。一周忌だから」

立て続けに起こる不幸は誰もが頭を悩ますだろう。

「そっか…ちゃんと謝らなきゃ。心配かけたよって」

私は湊と一緒に荷物を纏め、母に連絡した後に家へ帰った。

「1日であんなに治るのかね」

湊は道中そんなことを何度も呟いていたが、私には説明出来ないので、あまりその事については言及しなかった。

翌日、目が覚めてリビングに向かうと、いつも通り母は朝食を作っていた。

「…おはよう、ママ」

彼女が手を止めることは無かった。

「ごめんなさい、心配かけて」

それでも包丁の音は鳴り続けていた。

けれど、確かに嗚咽を漏らしていた。

「ほんとよ」

久々に、穏やかな声を聞いた気がした。

「父さんを失って、貴方まで居なくなったと思ったら…」

母は私を向いて涙を流した。

「…母さん、ただいま」

「おかえり」

駆け寄って、温かいハグを交わした。

「遅刻なんてしていいから…事故には合わないでね」

母は私に何回もそう言い聞かせた。

「さ…ご飯をお食べ」

ようやく離してもらえて、席に着くと、豪勢な食事を目のあたりにした。

「え、どうしたの?急に」

珍しくフルーツが盛りだくさんで、茶色のダイニングテーブルを彩り良く飾っていた。

「山田さんのとこが見舞い品として渡してくださったのよ」

海斗ーーそうだ、彼にも謝らなければ。貴方のせいでは無いということを。

「学校行ったら、ありがとうだけは言っておきなね」

母は不服そうにし、視線を逸らして話した。

「はーい」

マスクメロンに手をつけ、食べ始めた頃に私は湊が居ないことに気づいた。

「あれ?湊は?」

私が首を傾げて尋ねると、母はキョトンとした。

「だあれ?湊さんって」

太陽が照らす一室は、氷で覆われたように、寒くなったーー。




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