第2話 導き

『ようこそお越しくださいました』

台座に座るカラスはカアカアと鳴きながら言った。

「こんばんは、神の遣い様。傷を治して頂きありがとうございます」

あれから1匹のカラスに連れられて、私はある山奥の森に来た。廃れた祠や、人の気配が残る家屋がチラチラと見られ、古きを感じさせる。

『こちらこそ感謝します。我々の言葉を理解出来る御方は、神の子である記しです』

今朝、話しかけた2匹のカラスは台座に座るカラスの横にお利口に座っていた。

「神の子だなんて…ただ生まれつきなだけですよ」

私は慣れない正座をしていたため、早くも足が痺れ始めた。

『ふふ…謙遜でありますか、神の子よ。それに楽にして構わないですよ』

ここ一帯を収める長らしきカラスは、私の苦しみに気づいてくれ、正座から開放された。

「あの…説明して頂けますか?なぜここに連れてこられたのか」

山だからか、夏なのに寒さを感じる。

『ええもちろんです。今朝のニュースをご覧になられましたよね?』

「はい。隕石が降るだとか」

木々が風に吹かれて、ざわめき、1人取り残されたような気がして、私は不安に駆られた。

『ご存知で何よりです。そしてそれは真のことなのです』

「え!やっぱりっ?!」

突然大声を出してしまったためか、周りに居たカラスは鳴き始め、飛んでしまった。

『ふふ…カラスにとっては、今はまだ眠い明け方です。声を抑えていただけると』

長は微笑んで言ってくれたが、私は恥ずかしさで顔を赤らめてしまった。

「そっか…カラスは明け方から働き始めるんですね」

『そうなんです。…話を戻しまして、率直に申し上げるとですね』

突然改まって、一礼をした。

『ーー日本を救って欲しい』

心臓が大きく跳ねた。冗談だと思いたいのに、目の前の光景がそれを否定する。

あれほど騒いでいたカラスも、今では大人しくなって私を見つめている。

「…重すぎませんかね、私はただの人間ですよ」

『我らが主、天照大神の身に何かが起き、暴走している模様なのです。どうかお願い致します』

つまりそれは、神の異変が世界の終焉に直結しているーーそういうことだ。

『本来貴方は事故に合わずに、早朝に我々と会う予定でした』

しかし、透明な“何か”に轢かれ、予定が狂ったと言う。

「では、その事故も天照大神が引き起こしたと?」

知りたかった事が丁度転がってきて、好機だと思った。

『はい。人ならざる力が働いている様子です。このままではーー貴方様の血縁者や、大切な人が同様に奪われてしまうかもしれない』

「…何故私に固執するのですか?天照大神は」

『貴方様が、本意では無い天照大神の往く道を妨げる障害と分かっているからだと思います』

もしも、この声を無視したら、一生私は自分を恨むだろう。

子供の頃から、ずっと考えていた。

“私がカラスと喋れる理由”を。

『再び申し上げます。どうか我々と共に、世界、そして天照大神を救って頂きたい』

一斉にカラス達は合唱した。

共に戦おうと。

きっと、今この瞬間の為に私は生きてきたのだ。

断る運命なんて、私には見えなかった。

「勿論です」

大きく頷くと長は笑い、皆に呼びかけた。

『我らが天命を、今果たすときが来た!我らが八咫烏の信念を、この者と共に貫こうではないか!我らが創り出したこの美しき世界を!!』

彼らは翼を広げ飛び交った。まるで覚悟を決めているかのように。

地球に隕石が落ちるその日までに、天照大神を救い、世界を守る。

地球最後の日までに、必ず、私達が。

『守るんだっ!』「(守るんだっ!)」

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