第2話 モフモフより愛を込めて2

「僕の初恋の相手は、獣人族でした。子供の頃、田舎の山奥に住んでいたのですが、ある冬の日裏庭のネットに子ぎつねが絡まってけがをしていたんです。その子狐を助けて、治療をしていたのですが、それがどうやら単なる子ぎつねではなく、狐の獣人だったんです。当時は人減と魔族は戦争していたので、父は慌てて殺そうとしたのですが、母は罪のない子狐に対してかわいそうだといい、少女の怪我が治るまでということで僕の家で治療をさせることにしたんです。子狐の獣人の娘、互いに言葉は通じなかったのですが、人間としてみれば同じ年の頃で、僕たちが仲良くなるのにそれほど問題はありませんでした。一緒に遊んで、一緒の布団で眠っていました。獣人の娘は寝るときに獣化して、布団の中で丸くなり、そのモフモフ加減が気持ちよくて、一晩中抱いていたのを覚えています。やがて怪我が治り、僕はその子にはずっと家にいてほしかったんだけど、それが町から来た人たちに見つかって、獣人族の女の子はあわや殺されそうになったんだ。僕たち家族は必死で抵抗して、彼女を森へ逃がした。それ以来会ってはいないのですが、僕にとってはおそらく彼女が初恋だったんだと思います。それから時を経て、戦争が終わった今でも、僕は彼女の毛皮のぬくもりを忘れたことがありません。むしろ、普通の人間相手では物足りなさを感じてしまうんです。僕はこの平和な時代を心から歓迎しています。この町でなら、もしかしたら獣人の女性と恋愛できるんじゃないかと思ってやってきたんです」


 長く熱弁する男性の言葉と聞き終わり、ラクチェはほっと胸をなでおろした。この人なら、きっと大丈夫だと確信した。


「素晴らしいお話ですね。こういう時代だからこそ、きっと素敵な出会いが待っていると思いますよ。それでは、もう少し具体的なお話を聞かせていただきますね。まずはお名前から」


「カスペン=レイドリックと言います」


「カスペンさん、お仕事はなにを?」


「行商人です。とはいっても、できればこの町に定住したいと思ってやってきました」


「行商人ですか。この町に定住するとして、お仕事のあてはあるんですか?」


「ええ、行商人を続けていたので同業者の知人は多くいます。この町は、魔族と人間の文化交流の最先端の街でもあります。それで、とある商会がこの町での貿易拠点、つまりは卸業をする人を捜していたのです。だから、この町に交易の拠点にして、行商を取りまとめるという仕事なら定住してやり続けることができると思うんです。そりゃあ、時には旅に出ることもあるとは思いますが、できることなら結婚して家庭を持ちたいですからね」


「なるほど、収入のほうも安定が期待できる、っと。それで、お相手の方なんですが、ご希望としては獣人族の方、ということでよろしいですか?」


「はい、もちろんです」


「何か他に希望等ございますか?」


「あー、えっとう、こんなことを言うと差別的になるかもしれないんですけど……」


「なんでしょう? お客様のプライバシーはお守りしますよ。後に齟齬があってはいけないので、言っておいてください」


「獣人族と言っても、相手の方はぜひモフモフ系でお願いします。その……爬虫類系の獣人族の方はあまり……」


「はい、かしこまりました。それは差別というよりは性癖みたいなものですからね。獣人族からしてもあまり差別だと感じることは少ないですよ。人間で言えば胸が大きい方が好きだとか、小さいほうが好きだとかその程度の話です」


「そうですか、それなら安心しました」


「該当される方の登録は数名ございます。まずはいただいたプロフィールを先方に確認いただき、先方があってみたいとおっしゃられた場合のみご連絡させていただく形になります。後に、わたしが同席したうえでお二人には面談していただくという流れになりまして、この際にはじめて料金が発生することになりますそちらで、問題ございませんか?」


「はい、だいじょうぶです。それではよろしくおねがいします」



♦  ♦  ♦  ♦  ♦  ♦  ♦  ♦  ♦  ♦  ♦  ♦  ♦  ♦  ♦  



街の喧騒を離れてすぐ、雑木林をかき分けた横穴の入り口にラクチェは立っていた。


「シャミイちゃーんいるー?」


 ラクチェの声が狭い横穴にこだまする。


「今の時間帯なら出かけているということはないと思うんだけどあ……」


つぶやきながら、ラクチェはランタンに火を灯して中へと進む。横穴をふさぐようにしつらえた扉には『起こさにゃいでください・シャミイ』と書かれた木札がぶら下がっている。ラクチェはドアをノックして何度かシャミイの名前を呼ぶ。


 ――しかし、相変わらず返事はない。


「いることはわかってるんだけどなあ……仕方ないかあ……」


 踵を返したラクチェはドアを背にして歩き始めた。そして十歩ほど歩いたところでランタンを地面において振り返る。


「悪いのはシャミイなんだからね」


ラクチェはそうつぶやくと再びドアへめがけて走り出し、「どおりゃ~」という叫び声と共に袴の裾から繰り出される、白く長い脚にシャミイの部屋のドアはいとも簡単に吹き飛んだ。ドアの板壁は部屋の中に飛ばされ、奥から「ふぎゃ~~~」という声が響く。


「にゃ、にゃ、にゃにものだ~!」


ベッドの上で四つ這いになり、臨戦態勢を整えているシャミイにラクチェは微笑む。


「シャミイちゃんおはよー」


「にゃ、にゃんだラクチェじゃにゃいか。普通にはいってこれにゃいのか」


「鍵しまってたんじゃない」


「だって鍵が閉まってたんだもの」


「あたりまえにゃ。こんな真昼間から起きてるわけにゃいにゃ」


「いつまでもそんなこと言ってられないでしょ。あんたも、人間と結婚したいとか言うなら、もう少しは人間族と同じ生活習慣というものを理解しなきゃ。人間のほとんどは昼行性なのよ」


「あー、そうだったにゃあ。でも、そう簡単に人間と結婚にゃんて出来る話じゃにゃいけどにゃあ」


「それがね、ちょっといい話があって来たんだ」


「え、まじにゃのかにゃ?」


「まじまじ。つか、アンタ何か服着なさいよ」


「ふえー、家のにゃかにいるときくらいは全裸が良いんだけどにゃあ」


「人間と結婚、したいんでしょ?」


「わかったにゃあ……」

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異世界マッチングサービスはじめました ~人間のオスってどうしてこんなにエッチなんですか?~ 水鏡月 聖 @mikazuki-hiziri

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