第1話 モフモフより愛を込めて

EP.1  モフモフより愛を込めて


――カランカラン。


サクラ恋愛相談所のドアが開く。


「いらっしゃいませー」


ラクチェが入口に視線を向けると、そこには眉目秀麗な金髪の人間が立っている。白いロングコートに身を包み、その胸には警察隊であることを示す五角形の勲章を掲げている。肩には銀細工の施された狙撃中が担がれており、凛々しく端整な顔立ちは中性的で、表情筋をほとんど動かすことなく室内を眺める。


「ルーさーん。ここに来たってことは、ついに恋人をつくる決心をしたんですわね~」


 ラクチェが甘い声色でルゥと呼ばれた人間に駆け寄る。


「そんなわけないだろ。僕は、仕事でここに来たんだ」


「えー、そうなのー。つまんなーい。こんなとこに警備隊長さんが来る理由なんてないわよ。まあ、アタシに会いたいっていうならいつだって歓迎しちゃうんだけどね」


「ある人間が警備隊の詰め所に訴えに来たんだ。ここで鬼の女に切り殺されそうになったってな」


「あー、さっきのひとかー。ちょっと態度がしつれ—だったからからかっただけなのになあ」


「ま、それはそうだろうさ。あんな男がかの『白桜鬼』を怒らせたら、それこそ瞬で千に切り刻まれているだろう」


「もー、ルーさん。昔の呼び名はやめてくださいよぉ。ルーさんだっていまさら『銀狼』なんて呼ばれたくはないでしょう」


「まったくそうだな。それは謝っておくよ。だが、行動には少し慎みを持ちたまえよ。最近になって差別意識は薄くなってきたとはいえ、まだ根にそれを抱えているものは少なくない。だから、僕だってラクチェの仕事は応援しているが、同時にいつ犯罪に巻き込まれるかを心配しているんだ」


「あー、やっぱアタシのことが心配なんだ」


「君のことは心配していない。強いからね。心配しているのは市民のほうだ」


「ルーさーん、もっとアタシのことも見てくださいよー」


「わ、わかったわかった。だからそう引っ付いてこようとするのはやめてくれ」


「でもさ、伯爵様を見ているとやっぱり憧れちゃうわよね。あの仲睦まじい姿を見れば、誰だって結婚したくなるに決まっているわ」


「そうだな。だからラクチェもこの仕事を始めたんだろ?」


「そうよ。吸血姫である伯爵様と、人間である元警備隊長のご結婚。これは人魔結婚ブームが来るに決まっているわー」


 ラクチェは通りの向こうに見える伯爵の屋敷を眺めながら希望に胸を膨らませた。


「あ、そうだルーさん。伯爵夫妻に頼んで、うちのお店アピールしてもらえないかな」


「そんなのダメに決まっているだろう」


「えー、だって伯爵夫人はルーさんの元上司なんでしょ?」


「それはそうだが、領主夫妻が特定の商売だけを応援するわけにはいかないさ」


「そう固いこと言わずにさあ。アタシの商売って、要するに町の平和のためになる仕事でしょう?」


「確かにそうかもしれない。つまり僕とラクチェは町の平和のために今日も仕事に励むわけだ。それじゃあ、僕はもう行くから、君もくれぐれも問題など起こさないようにおとなしくしていてくれよ。町の平和のために」


「はあーい」



 ルゥがサクラ恋愛相談所を後にして、町を歩くその姿を眺めながら、ラクチェはつぶやく。


「はあ、やっぱりいつ見てもルーさんはかっこいいなあ」


 通りを超えて歩いていくルゥの姿をいつまでも眺めていようと誓ったラクチェだが、入り口のドアが『カランカラン』と音を立てて、人間の男が入って来た。後ろ髪を引かれながらもルゥは「いらっしゃいませー」と笑顔で微笑む。


「あ、あの……こ、ここで魔族の女の子を、そ、その……所、紹介してくれるって聞いたんです、ケド……」


 見るからに人のよさそうな、それでいて気の弱そうな若い人間の男性が照れくさそうにしている。


「もちろんですとも。お話、聞かせていただいてもいいですか?」


 ラクチェは名残惜しいと思いながらも、強い作なっていくルゥの姿を目で追いながらカーテンを閉める。男性が恥ずかしそうにしているので気を使ったのだ。


「それで、どんなお相手と仲良くなりたいとお考えですか」


 ラクチェは男と向かい合わせに座り、やさしく微笑む。まずは相手の緊張を取り払わなくてはならない。


「さあ、緊張なさらないで」


「は、はい。お、俺、獣魔族の女の子と仲良くなりたいんです。その、モフモフが大好きで、できたら、結婚! 結婚したいですっ!」


「まあ、それは素敵ですわね。それではまず、あなたについてお話聞かせていただいてよろしいですか? まずはあなたの考え方や思想をお伺いして、該当する方をご紹介してよいかどうかの判断をしたいと思います」


「はい。僕は獣人の少女を抱いた時の気持ちよさが、今でも脳裏に焼き付いて忘れることができないんです」

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