異世界マッチングサービスはじめました ~人間のオスってどうしてこんなにエッチなんですか?~
水鏡月 聖
プロローグ
「そうですね。そりゃあもう、若くてかわいい子であればそれに越したことはないです。種族には特にこだわりがありません。僕だって、正直言ってそれほどぜいたくを言える立場じゃないってことくらいはわかっていますから」
人間の男がそう言うと、向かいの椅子に座った鬼の女は桜色の長い髪をかき上げながら小さな角の先をネイルで彩った爪先でカリカリと掻いた。
「もしかして、それは謙遜しているつもりでしょうか?」
「え?」
「いや、なんて言うか……そのですね。相手の種族はなんでもいいっていうのは少し失礼なんじゃないかしら。それで、若くてかわいい子ですか?」
「いや、だって。そのほうが選択肢だって増えるし――」
白い肌の鬼の女は紅い口紅の隙間から鋭い牙向き、険しい表情で言う。
「種族を尊重しないという考えは、我々魔族的にはちょっと、侮蔑的に感じるんですよね。魔族のことを見下しているというか……モテない自分でも、魔族相手ならかわいい子と結婚できるだろ的な打算を感じるんですよ。そういう態度は、魔族の女性からは好ましくありませんわ」
高圧的な態度に出た鬼の女に対し、人間の男はしばらく怯えたように黙っていたが、やがて奥歯をかみしめながら言い返した。
「んだよ、せっかく下手に出てやってるっていうのによ。お前ら魔族からすりゃあ人間と結婚できるなんてチャンス、むしろ好都合だろ? いいからかわいい子から順番に紹介しろよ。手あたり次第行けば一人くらい見つかるだろ。こっちは戦争で勝った人間様なんだ」
「まったく。下手に出ていればだと? それはこっちのセリフだ。いいか、確かに前の戦争で人間の勇者は魔王様を倒して戦争は終わった。だが、結ばれた和平協定は人間と魔族は平等な権利を持つとなっているはずだ。それを、しかも勇者でもない人間のお前が魔族を下に見るなど言語道断。二度とこの場に来ることは許さん」
「な、なんだと! それが、人間に対する態度か! う、訴えてやる! 訴えてやるからな!」
「そんな訴えなどが通るものか。さっさとここを立ち去らぬというなら、刀の錆にしてくれるわ!」
鬼の女は立ち上がり、紅白の袴姿の脇に携えた曲刀を抜く。白桜色の刀身が窓から差す光に反射して男の顔面に光を落とす。男は慌ててのけぞり、逃げるようにその場を去っていった。
「まったく。戦後五年たった今でも、あのような思想を持った人間がこの町にいるとは、この仕事もなかなか大変ですわね」
鬼族の女――ラクチェ・オウカ・テネブラスは窓から外の街並みを眺める。町はいたって平和そのものである。町の中央通りには多種多様な魔族と人間が争うことなく平和に街を歩いている。数年前までには考えられなかった光景だ。
百年以上にわたる魔族と人間族の戦いに終止符が打たれ5年の月日が流れた。かつてはの戦時下においては魔族の最前線都市であったゾルタクス市街の住民の半数は人間が住み、共存共生の文化が根を下ろし始めている。
しかし、目立った争いはほとんどないものの、互いの種族間にはまだ幾ばくかの差別意識が残っていることも否めない。しかし、だからこそそこに商機があるとラクチェはこの仕事を始めたのだ。
人間族と魔族とのマッチングサービス。
特にこれからのこの町にはそれがブームになるであろうとラクチェは確信している。簡単な仕事ではないかもしれないが、そこに大きな希望も抱いているし、何よりも、この仕事は多くの人の幸福のための仕事だと思える。
戦時中、多くの人間族を切り捨て、『白桜鬼』とあだ名されたラクチェにとって、生き方を変えるチャンスでもあったのだ。
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