第3話 迷宮の分岐と風竜の気配


霧の奥深く、リアンは足を止めた。

通路が二手に分かれている。左も右も霧に覆われ、

どちらに進むべきか全く見当がつかない。


「どちらを選べば……」

心の中でつぶやくリアンに、セリナが微笑みながら答えた。


「迷宮はあなたの心の方向を映すの。直感を信じて」

その言葉に、リアンは深く息を吸い、右の道を選んだ。

風が軽く頬を撫で、正しい選択であることを示すように

小さな旋風が通路を走った。


だが、安心も束の間だった。

道は踏み出すたびに微かに変化する。

床がわずかに傾き、壁がぐにゃりと揺れる。

霧はさらに濃くなり、前がほとんど見えない。


「これは……迷宮そのものが生きているってことか?」

リアンは考える。

迷宮は風と霧で形を変え、入る者を試すのだ。

一歩一歩が試練であり、心の強さが問われていた。


歩きながら、リアンは耳を澄ませた。

風の中に、微かなうなり声のようなものが混じる。

「何だ……?」

それはただの風の音ではない。どこか低く、威圧的な響き。


「気をつけて……風竜の気配よ」

セリナの声は緊張を帯びる。

「迷宮の中心には封印された古代の風竜がいる。

でも、まだ完全には目覚めていない」


リアンの胸が高鳴る。

風竜――伝説の生き物。人々はその姿を見た者はいないと

言う。だが、今、迷宮の奥で息を潜めている。


通路の分岐を進むと、壁に奇妙な模様が現れた。

渦を巻く風の絵柄が刻まれ、触れると冷たい空気が流れ込む。

「これは……風の迷宮の仕掛けか?」

リアンは手をかざし、模様の流れに沿って進む。


すると、霧が急に渦を巻き、通路の壁が揺れる。

その瞬間、背後から低いうなり声が響き、

霧の中から黒い影が浮かび上がった。


「影獣……? いや……」

リアンの視線が、霧の奥に広がる巨大な形に吸い寄せられる。

それは風竜の目、半透明に揺れる瞳。

見つめられた瞬間、心臓が跳ねるように脈打った。


「危険……!」

セリナが風の渦を起こし、竜の注意を逸らす。

リアンは瞬時に剣を構え、影を避けながら通路を進む。

風竜はまだ封印の中だが、存在感だけで迷宮の空間を支配していた。


迷宮の壁は再び動き始め、通路は分裂し、

霧の中に新たな道が現れる。

リアンは冷静に風の流れを読み、正しい道を選ぶしかなかった。


進むごとに、風竜のうなりは強くなり、

迷宮全体が反応していることがわかる。

だが、恐怖よりも、未知への好奇心がリアンを前に進ませた。


「俺は……必ず進む」

胸の奥で強く決意し、リアンは歩みを速める。

セリナが風の翼で背中を押し、二人は迷宮の中心へと

少しずつ迫っていった。


霧深き迷宮の奥に、風竜の眠る世界が広がる。

その秘密を解き明かすため、リアンの冒険はまだ始まったばかりだ。

だが、試練はこれからさらに厳しく、複雑になる――

迷宮は彼の心を試し続ける。


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