第2話 霧の試練


迷宮の入口を越えた瞬間、風が鋭く唸った。

霧はさらに濃くなり、視界はほとんどゼロに近い。

リアンは短剣を握りしめ、足元の地面を確かめながら

一歩一歩、霧の中を進んだ。


「怖がらなくていいわ。私がついている」

セリナの声は風に乗り、耳元でささやく。

小さな羽のような光が揺れ、霧を切り裂く。

リアンは心の奥底で、少しだけ安堵した。


迷宮の最初の試練は、「方向を見失うこと」だという。

壁も天井も霧で覆われ、進むべき道は一つに見えない。

踏み出すたびに通路が変わるため、迷う者は永遠に

出口にたどり着けない――村の伝説通りだ。


「風に耳を澄ませるの。迷宮はあなたの心を読む」

セリナは微笑みながら、手のひらで風を掴む仕草を見せた。

リアンは息を整え、目を閉じる。

風の微かな流れを感じ取り、次の方向を決めるのだ。


霧の中で微かに漂う音――それは遠くで何かが囁くような声。

リアンは注意深く耳を澄ませ、短剣を構える。

「落ち着け、焦るな……」

心の中で自分に言い聞かせながら、慎重に足を進めた。


しばらく歩くと、霧の中に淡い青い光が浮かび上がった。

それは小さな浮遊石で、風の精霊が形作る試練のひとつだった。

石に触れると、風が渦を巻き、通路の壁がわずかに揺れる。

どうやら次に進むためには、この石を順に踏まなければならないようだ。


リアンは慎重に石の間を進む。

一歩踏み外すと、風が強く吹きつけ、霧の中へ押し戻す。

何度か転びそうになりながらも、集中力を途切れさせない。

「よし……行ける」

一歩ごとに自信が芽生え、恐怖よりも挑戦心が勝った。


やがて、霧の中に巨大な壁が立ちはだかった。

壁には風の模様が刻まれ、触れると軽く振動する。

「これは……謎解きか?」

リアンは慎重に壁を観察する。

壁に刻まれた模様は、風の流れを示す暗号のようだった。


セリナが囁く。

「風の方向に従えば、壁は道を開くわ」

リアンは息を整え、壁の流れに手をかざした。

風が指先を撫でるように動き、模様が光を帯びる。

そして壁がゆっくりと左右に裂け、通路が現れた。


「やった……!」

リアンは小さくガッツポーズをし、前へ進む。

だが、喜びも束の間、霧の中から影のようなものが

ふわりと浮かび上がる。


「これは……霧の影獣?」

村の伝説に出てきた守護者のような存在だった。

影獣は形を変え、リアンを試すかのように目の前に立ちはだかる。


「私に任せて」

セリナは風に乗り、影獣の周囲を舞う。

微かな風が影獣の動きを鈍らせ、隙を作る。

リアンは短剣を握り直し、冷静に敵の動きを観察した。


影獣が次の瞬間、霧を裂いて攻撃を仕掛ける。

リアンは素早く身をかわし、影獣の体勢が崩れた隙に

斬りかかる。短剣が光を反射し、影獣の霧を切り裂いた。

すると、影獣は風に巻かれて霧の中に消えた。


「よくやったわ、リアン」

セリナが微笑む。

「最初の試練はこれで終わり。迷宮はあなたを認めたわ」


リアンは肩で息をつき、霧の奥を見つめる。

まだ迷宮の中心までは遠い。

だが、恐怖を乗り越えた達成感が胸を満たす。

「ここからが、本当の冒険だ……」


霧はさらに濃くなり、風が唸る。

迷宮は生き物のように動き、彼の挑戦を待っていた。

リアンとセリナの旅は、ここから一層深く、複雑に動き出す。


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