風の如く進む者 ―桶狭間行軍録―【桶狭間シナリオ完成度20%】

喰寝丸太

第1話 風を裂く覇心、湯煙の静寂、覇心の胎動、雷鳴の街道、影を従えて

「殿、わしの馬、今日も元気にございます!」


 軽口のような報告が、朝霧の街道に響いた。

 信長はわずかに目を細める。馬の鼻息、兵の足音、湿った空気――すべてが戦の前触れを告げていた。


 そのとき、伝令が駆け込んだ。


「敵軍、国境突破!」


 信長の胸に、熱が灯る。

 恐れではない。むしろ、待ち望んだ瞬間がついに訪れたという昂りだった。


「元気のまま突くぞ」


 その声は静かだが、底に燃える炎は隠しようもない。


「出陣! 皆の者、ついてまいれ!」


「殿、どうかお待ちを!」


「待たん! 時が勝敗を決める!」


 赤母衣が風を裂き、信長は常陸馬を一騎、風の如く駆け出した。


 『武将 織田信長:命脈240/240:武威55』


 ――この胸の奥のざわめきは何だ。

 戦の昂りか、それとも……。



 朝霧に包まれた街道を、信長軍の足音だけが規則正しく響く。

 霧の向こうから、かすかな話し声が聞こえた。


「今川軍が国境を越えました」


 近隣の娘の声だった。

 信長は馬上で目を閉じ、短く息を吐いた。


 ――来たか。

 ならば迎え撃つのみ。


 霧の中から蹄音が近づく。


「殿、この成政、忠義を尽くしてご覧いれようぞ!」


 佐々成政が馬を駆って合流した。

 鎧は朝露に濡れ、肩で息をしているが、その眼光は鋭い。


 『武将 佐々成政:命脈225/225:武威44』


 信長は成政の姿を見て、わずかに目を細めた。


 ――この男は折れぬ。

 死地にあっても、なお前へ進む。


「成政、よく来た。おぬしの槍、まだ折れてはおらぬな」


 成政は深く頭を下げた。


「殿の覇道、必ずやこの槍で切り開いてみせまする!」



 茶屋の軒先では旅人たちが軍勢の噂を語り合っていた。

「今川軍が動いたらしいぞ」「尾張はどうなる」

 そんな声が風に乗って流れてくる。


 信長はその声を聞きながら、静かに馬を進めた。


 ――民は不安よ。

 だが、我が勝てばすべては変わる。


 追いすがるように配下が駆け寄り、鉄砲を差し出した。


「殿、堺筒でございます!」


 成政が受け取り、軽く構えてみせる。


 『堺筒(武威+120)』


 信長はわずかに頷いた。


 ――武器が揃う。

 ならば、勝ちはさらに近づく。



 雷鳴が遠くで低く唸った。

 成政はその音にも眉ひとつ動かさず、馬上で姿勢を崩さない。


 信長はその背を見つめながら、胸の奥にある影を見つめた。


 ――死は、すぐそこにある。

 だが、恐れはない。


 むしろ、死を踏み越えた者だけが持つ静かな狂気が、信長の心を満たしていた。

 常陸馬の背で揺れながら、信長は自分がいま、確かに“覇道”の只中にいることを感じていた。


 茶屋の軒先の縄が、風に揺れて軋む。

 旅人たちが息を呑み、軍勢を見送る。


 信長は馬の首を軽く叩き、前を見据えた。


 山道を進むうち、風の匂いがふと変わった。湿り気を帯びた温い空気が、信長の頬を撫でる。

 その瞬間、信長は馬の歩みを緩めた。


「……温泉の匂いか」


 常陸馬が鼻を鳴らし、湯気の立つ岩場を見つめる。

 戦の途上にあるとは思えぬほど、そこだけが静かで、世界から切り離されたようだった。


「かような場所に温泉がな……」


 信長は馬を降り、湯へと歩み寄った。

 湯面に映る自分の顔を見つめると、そこには疲れよりも、むしろ奇妙な冴えが宿っていた。


 ――死地へ向かう者の顔だ。

 だが、恐れはない。


 湯に浸かると、熱が皮膚を刺し、次いで心の奥まで染み込んでいく。

 湯気の向こうで、成政が甲冑を外しながら声を上げた。


「いくさ前の清めと致そう。この成政、清めた体を此度の戦で真っ赤に染めてご覧にいれましょう」


 信長は湯の中で目を閉じ、静かに答えた。


「帰りにも寄るぞ」


「ははっ!」


 成政の声は湯気に溶け、岩場に反響した。

 その声音には恐れがなく、ただ忠義と昂りだけがあった。


 ――この男は、死を恐れぬ。

 だからこそ、強い。


 湯から上がると、身体の芯まで熱が満ちていた。

 命脈は満ち、心はさらに研ぎ澄まされていく。



 再び馬に跨がると、風が冷たく感じられた。

 温泉の余韻が消えぬうちに、戦の空気が戻ってくる。


 茶屋の軒先では、旅人たちが軍勢の噂を語り合っていた。


「今川軍が動いたらしいぞ……」

「尾張はどうなる……」


 信長はその声を聞きながら、静かに馬を進めた。


 ――民は不安よ。

 だが、我が勝てばすべては変わる。


 成政は雷鳴にも眉ひとつ動かさず、馬上で姿勢を崩さない。

 その背を見つめながら、信長は胸の奥にある影を見つめた。


 ――死は、すぐそこにある。

 だが、恐れはない。


 むしろ、死を踏み越えた者だけが持つ静かな狂気が、信長の心を満たしていた。



 信長は懐から一冊の書を取り出した。

 孫子の兵法――戦の道を示す書。


「囲むこと三面にして一面を開く……」


 声に出して読むと、その言葉が胸の奥に深く沈んでいく。

 武威が静かに高まり、視界がさらに澄んでいく。


 『信長:武威75』

 『成政:武威55』


 ――戦とは、理であり、心であり、そして運である。

 だが、運は掴みにいく者の手に宿る。


 信長は馬の首を軽く叩き、速度を上げた。

 成政が蹄音を響かせ、隊列を導く。


 遠くの山城が、雲間から姿を見せた。

 その姿は、まるで戦の行方を見守る巨人のようだった。



「ひひひっ、死相が見えるよ。どれわしが消してやろう」


 道端に怪しい商人が立っていた。

 その笑い声は不気味だが、どこか芝居がかっている。


 信長は馬を止め、商人を見下ろした。


「死相か。見えるなら見せてみよ」


 商人は肩をすくめ、矢束を差し出した。


「ほれ、これで少しは長生きできるかもな」


 矢が二十本増えた。


 『矢:40本』


 信長は短く頷き、再び馬を進めた。


 ――死相など、とうに越えている。

 我は死を踏み越えた者よ。



 風が強まり、黒雲が空を覆い始めた。

 雷鳴が遠くで低く唸り、空気が震える。


 信長は馬上で風を切りつつ進撃した。

 成政はその背を追い、雷鳴にも怯まず馬を操る。


 茶屋の軒先の縄が、風に揺れて軋む。

 旅人たちが息を呑み、軍勢を見送る。


 風が強まり、黒雲が空を覆い始めていた。

 信長は馬上でその気配を感じ取り、わずかに顎を引いた。

 ――嵐が来る。

 だが、嵐こそ我が覇道を照らす灯火。


 常陸馬の蹄が湿った街道を叩き、重い音が続く。

 その音は、まるで戦場へ誘う太鼓のようだった。



「この藤吉郎、機転なら負けませぬ!」


 雷鳴を割るような声が響き、木下藤吉郎が馬を駆って合流した。

 その顔には恐れよりも、むしろ昂りが宿っている。


 『武将 木下藤吉郎:命脈270/270:武威36』


 信長は藤吉郎の姿を見て、胸の奥に小さな熱が灯るのを感じた。


 ――この男は、我が覇道の“火”だ。

 どれほどの嵐が来ようとも、消えることのない炎。


「藤吉郎、遅かったな」


「殿の背を追うのに必死でございまする!」


 藤吉郎は馬の首を撫で、雷鳴にも怯まず前を見据えた。



 茶屋の軒先の縄が、風に揺れて軋む。

 成政は雷鳴を受けても姿勢を崩さず、馬上で静かに前を見つめていた。


 信長は二人の姿を見渡し、胸の奥にある影を見つめた。


 ――死は、すぐそこにある。

 だが、恐れはない。


 むしろ、死を踏み越えた者だけが持つ静かな狂気が、信長の心を満たしていた。



 そのとき、前方の草むらが揺れた。

 黒い影が飛び出し、馬上で刀を構える。


 『敵 騎乗の野武士:命脈180:武威40』


「先を急ぎ過ぎたか……野武士など蹴散らしてくれる!」


 野武士の刃が閃き、信長の胸を浅く裂いた。


 『信長:命脈187』


 痛みが走る。

 だが、信長は眉ひとつ動かさなかった。


 ――この程度、死の影に比べれば微風よ。


 成政が槍を構え、馬を跳ねさせた。

 だが、突きは浅く、野武士は怯まず迫る。


 『敵:命脈153』


 野武士が矢を放ち、信長の肩を撃ち抜いた。


 『信長:命脈117』


 藤吉郎が叫ぶ。


「殿ッ!」


 信長は手を上げて制した。


「騒ぐな。まだ折れてはおらぬ」



 野武士が再び斬りかかる。

 刃が信長の鎧を裂き、血が飛ぶ。


 『信長:命脈64』


 成政が大身槍を突き出し、野武士の胸を深く貫いた。


 『敵:命脈35』


 信長は根来筒を構えた。

 雷光が銃身を照らし、轟音が谷に響く。


 『敵:命脈0』


 野武士は泥に沈み、動かなくなった。


「悪行の報いか……」


 信長は短く呟き、前を見据えた。


 藤吉郎が馬を寄せ、息を弾ませながら笑った。


「殿、さすがにございます!」


 信長はわずかに笑みを浮かべた。


 ――この男は、戦の中でも笑える。

 だからこそ、強い。



 野武士の遺品から、打ち刀や木曽馬、弓が見つかった。

 信長はそれらを一瞥し、使わぬと判断した。


 ――武器は選ぶものではない。

 勝つために必要なものだけを握ればよい。


 藤吉郎は馬の首を撫で、気合を入れ直す。

 成政は雷鳴にも怯まず、馬上で静かに前を見つめていた。


 寺の僧が軍勢に向かって合掌し、祈りを捧げる。

 その姿は、嵐の前の静けさをさらに際立たせた。



「ひひひっ、死相が見えるよ。どれわしが消してやろう」


 道端に怪しい商人が立っていた。

 信長は馬を止め、商人を見下ろした。


「死相か。見えるなら見せてみよ」


 商人は肩をすくめ、国友筒を差し出した。


 『国友筒(武威+150)』


 信長は短く頷き、再び馬を進めた。


 ――死相など、とうに越えている。

 我は死を踏み越えた者よ。



 風がさらに強まり、黒雲が空を覆い尽くす。

 雷鳴が地鳴りのように響き、空気が震える。


 信長は馬上で風を切りつつ進撃した。

 藤吉郎は馬の首を撫で、気合を入れ、雷鳴にも怯まず前を見据える。

 成政はその背を追い、静かに馬を操る。


 寺の僧が軍勢に向かって合掌し、祈りを捧げる。

 その祈りは、嵐の中でかすかに揺れていた。

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2026年1月18日 12:06

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