風の如く進む者 ―桶狭間行軍録―【桶狭間シナリオ完成度20%】
喰寝丸太
第1話 風を裂く覇心、湯煙の静寂、覇心の胎動、雷鳴の街道、影を従えて
「殿、わしの馬、今日も元気にございます!」
軽口のような報告が、朝霧の街道に響いた。
信長はわずかに目を細める。馬の鼻息、兵の足音、湿った空気――すべてが戦の前触れを告げていた。
そのとき、伝令が駆け込んだ。
「敵軍、国境突破!」
信長の胸に、熱が灯る。
恐れではない。むしろ、待ち望んだ瞬間がついに訪れたという昂りだった。
「元気のまま突くぞ」
その声は静かだが、底に燃える炎は隠しようもない。
「出陣! 皆の者、ついてまいれ!」
「殿、どうかお待ちを!」
「待たん! 時が勝敗を決める!」
赤母衣が風を裂き、信長は常陸馬を一騎、風の如く駆け出した。
『武将 織田信長:命脈240/240:武威55』
――この胸の奥のざわめきは何だ。
戦の昂りか、それとも……。
◆
朝霧に包まれた街道を、信長軍の足音だけが規則正しく響く。
霧の向こうから、かすかな話し声が聞こえた。
「今川軍が国境を越えました」
近隣の娘の声だった。
信長は馬上で目を閉じ、短く息を吐いた。
――来たか。
ならば迎え撃つのみ。
霧の中から蹄音が近づく。
「殿、この成政、忠義を尽くしてご覧いれようぞ!」
佐々成政が馬を駆って合流した。
鎧は朝露に濡れ、肩で息をしているが、その眼光は鋭い。
『武将 佐々成政:命脈225/225:武威44』
信長は成政の姿を見て、わずかに目を細めた。
――この男は折れぬ。
死地にあっても、なお前へ進む。
「成政、よく来た。おぬしの槍、まだ折れてはおらぬな」
成政は深く頭を下げた。
「殿の覇道、必ずやこの槍で切り開いてみせまする!」
◆
茶屋の軒先では旅人たちが軍勢の噂を語り合っていた。
「今川軍が動いたらしいぞ」「尾張はどうなる」
そんな声が風に乗って流れてくる。
信長はその声を聞きながら、静かに馬を進めた。
――民は不安よ。
だが、我が勝てばすべては変わる。
追いすがるように配下が駆け寄り、鉄砲を差し出した。
「殿、堺筒でございます!」
成政が受け取り、軽く構えてみせる。
『堺筒(武威+120)』
信長はわずかに頷いた。
――武器が揃う。
ならば、勝ちはさらに近づく。
◆
雷鳴が遠くで低く唸った。
成政はその音にも眉ひとつ動かさず、馬上で姿勢を崩さない。
信長はその背を見つめながら、胸の奥にある影を見つめた。
――死は、すぐそこにある。
だが、恐れはない。
むしろ、死を踏み越えた者だけが持つ静かな狂気が、信長の心を満たしていた。
常陸馬の背で揺れながら、信長は自分がいま、確かに“覇道”の只中にいることを感じていた。
茶屋の軒先の縄が、風に揺れて軋む。
旅人たちが息を呑み、軍勢を見送る。
信長は馬の首を軽く叩き、前を見据えた。
山道を進むうち、風の匂いがふと変わった。湿り気を帯びた温い空気が、信長の頬を撫でる。
その瞬間、信長は馬の歩みを緩めた。
「……温泉の匂いか」
常陸馬が鼻を鳴らし、湯気の立つ岩場を見つめる。
戦の途上にあるとは思えぬほど、そこだけが静かで、世界から切り離されたようだった。
「かような場所に温泉がな……」
信長は馬を降り、湯へと歩み寄った。
湯面に映る自分の顔を見つめると、そこには疲れよりも、むしろ奇妙な冴えが宿っていた。
――死地へ向かう者の顔だ。
だが、恐れはない。
湯に浸かると、熱が皮膚を刺し、次いで心の奥まで染み込んでいく。
湯気の向こうで、成政が甲冑を外しながら声を上げた。
「いくさ前の清めと致そう。この成政、清めた体を此度の戦で真っ赤に染めてご覧にいれましょう」
信長は湯の中で目を閉じ、静かに答えた。
「帰りにも寄るぞ」
「ははっ!」
成政の声は湯気に溶け、岩場に反響した。
その声音には恐れがなく、ただ忠義と昂りだけがあった。
――この男は、死を恐れぬ。
だからこそ、強い。
湯から上がると、身体の芯まで熱が満ちていた。
命脈は満ち、心はさらに研ぎ澄まされていく。
◆
再び馬に跨がると、風が冷たく感じられた。
温泉の余韻が消えぬうちに、戦の空気が戻ってくる。
茶屋の軒先では、旅人たちが軍勢の噂を語り合っていた。
「今川軍が動いたらしいぞ……」
「尾張はどうなる……」
信長はその声を聞きながら、静かに馬を進めた。
――民は不安よ。
だが、我が勝てばすべては変わる。
成政は雷鳴にも眉ひとつ動かさず、馬上で姿勢を崩さない。
その背を見つめながら、信長は胸の奥にある影を見つめた。
――死は、すぐそこにある。
だが、恐れはない。
むしろ、死を踏み越えた者だけが持つ静かな狂気が、信長の心を満たしていた。
◆
信長は懐から一冊の書を取り出した。
孫子の兵法――戦の道を示す書。
「囲むこと三面にして一面を開く……」
声に出して読むと、その言葉が胸の奥に深く沈んでいく。
武威が静かに高まり、視界がさらに澄んでいく。
『信長:武威75』
『成政:武威55』
――戦とは、理であり、心であり、そして運である。
だが、運は掴みにいく者の手に宿る。
信長は馬の首を軽く叩き、速度を上げた。
成政が蹄音を響かせ、隊列を導く。
遠くの山城が、雲間から姿を見せた。
その姿は、まるで戦の行方を見守る巨人のようだった。
◆
「ひひひっ、死相が見えるよ。どれわしが消してやろう」
道端に怪しい商人が立っていた。
その笑い声は不気味だが、どこか芝居がかっている。
信長は馬を止め、商人を見下ろした。
「死相か。見えるなら見せてみよ」
商人は肩をすくめ、矢束を差し出した。
「ほれ、これで少しは長生きできるかもな」
矢が二十本増えた。
『矢:40本』
信長は短く頷き、再び馬を進めた。
――死相など、とうに越えている。
我は死を踏み越えた者よ。
◆
風が強まり、黒雲が空を覆い始めた。
雷鳴が遠くで低く唸り、空気が震える。
信長は馬上で風を切りつつ進撃した。
成政はその背を追い、雷鳴にも怯まず馬を操る。
茶屋の軒先の縄が、風に揺れて軋む。
旅人たちが息を呑み、軍勢を見送る。
風が強まり、黒雲が空を覆い始めていた。
信長は馬上でその気配を感じ取り、わずかに顎を引いた。
――嵐が来る。
だが、嵐こそ我が覇道を照らす灯火。
常陸馬の蹄が湿った街道を叩き、重い音が続く。
その音は、まるで戦場へ誘う太鼓のようだった。
◆
「この藤吉郎、機転なら負けませぬ!」
雷鳴を割るような声が響き、木下藤吉郎が馬を駆って合流した。
その顔には恐れよりも、むしろ昂りが宿っている。
『武将 木下藤吉郎:命脈270/270:武威36』
信長は藤吉郎の姿を見て、胸の奥に小さな熱が灯るのを感じた。
――この男は、我が覇道の“火”だ。
どれほどの嵐が来ようとも、消えることのない炎。
「藤吉郎、遅かったな」
「殿の背を追うのに必死でございまする!」
藤吉郎は馬の首を撫で、雷鳴にも怯まず前を見据えた。
◆
茶屋の軒先の縄が、風に揺れて軋む。
成政は雷鳴を受けても姿勢を崩さず、馬上で静かに前を見つめていた。
信長は二人の姿を見渡し、胸の奥にある影を見つめた。
――死は、すぐそこにある。
だが、恐れはない。
むしろ、死を踏み越えた者だけが持つ静かな狂気が、信長の心を満たしていた。
◆
そのとき、前方の草むらが揺れた。
黒い影が飛び出し、馬上で刀を構える。
『敵 騎乗の野武士:命脈180:武威40』
「先を急ぎ過ぎたか……野武士など蹴散らしてくれる!」
野武士の刃が閃き、信長の胸を浅く裂いた。
『信長:命脈187』
痛みが走る。
だが、信長は眉ひとつ動かさなかった。
――この程度、死の影に比べれば微風よ。
成政が槍を構え、馬を跳ねさせた。
だが、突きは浅く、野武士は怯まず迫る。
『敵:命脈153』
野武士が矢を放ち、信長の肩を撃ち抜いた。
『信長:命脈117』
藤吉郎が叫ぶ。
「殿ッ!」
信長は手を上げて制した。
「騒ぐな。まだ折れてはおらぬ」
◆
野武士が再び斬りかかる。
刃が信長の鎧を裂き、血が飛ぶ。
『信長:命脈64』
成政が大身槍を突き出し、野武士の胸を深く貫いた。
『敵:命脈35』
信長は根来筒を構えた。
雷光が銃身を照らし、轟音が谷に響く。
『敵:命脈0』
野武士は泥に沈み、動かなくなった。
「悪行の報いか……」
信長は短く呟き、前を見据えた。
藤吉郎が馬を寄せ、息を弾ませながら笑った。
「殿、さすがにございます!」
信長はわずかに笑みを浮かべた。
――この男は、戦の中でも笑える。
だからこそ、強い。
◆
野武士の遺品から、打ち刀や木曽馬、弓が見つかった。
信長はそれらを一瞥し、使わぬと判断した。
――武器は選ぶものではない。
勝つために必要なものだけを握ればよい。
藤吉郎は馬の首を撫で、気合を入れ直す。
成政は雷鳴にも怯まず、馬上で静かに前を見つめていた。
寺の僧が軍勢に向かって合掌し、祈りを捧げる。
その姿は、嵐の前の静けさをさらに際立たせた。
◆
「ひひひっ、死相が見えるよ。どれわしが消してやろう」
道端に怪しい商人が立っていた。
信長は馬を止め、商人を見下ろした。
「死相か。見えるなら見せてみよ」
商人は肩をすくめ、国友筒を差し出した。
『国友筒(武威+150)』
信長は短く頷き、再び馬を進めた。
――死相など、とうに越えている。
我は死を踏み越えた者よ。
◆
風がさらに強まり、黒雲が空を覆い尽くす。
雷鳴が地鳴りのように響き、空気が震える。
信長は馬上で風を切りつつ進撃した。
藤吉郎は馬の首を撫で、気合を入れ、雷鳴にも怯まず前を見据える。
成政はその背を追い、静かに馬を操る。
寺の僧が軍勢に向かって合掌し、祈りを捧げる。
その祈りは、嵐の中でかすかに揺れていた。
次の更新予定
2026年1月18日 12:06
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