第19話 熱ダレの軍馬

俺は機械のように、約九キロの徹甲弾(Pzgr39)を閉鎖機へと叩き込み続けた。

 

 戦闘室の温度は、もはや計測不能なほどに上昇している。

 

 ガソリンの気化ガスと、発射ごとに逆流してくる硝煙。

 

 肺が焼ける。

 

 意識が遠のきそうになるたびに、俺は自分の太腿を拳で叩いて奮い立たせた。

 

「……次だ、ステファン! 徹甲弾だッ!」

 

 ルディの叫び。

 

 俺は汗で滑る手を必死にラックにかけ、弾丸を引き抜く。

 

 だが、その時だった。

 

 ――ガギィッ!!

 

 凄まじい発射音の後、いつもなら軽快に「キンッ」と吐き出されるはずの空薬莢が、閉鎖機の中に居座ったまま動かなくなった。

 

「……排莢不良(ジャム)!? クソ、熱で薬室が膨張してやがる!」

 

 ルディが焦燥の声を上げる。

 

 主砲(KwK40)が、三日間の連続射撃による熱で「悲鳴」を上げていた。

 

 砲身の熱膨張により、撃ちガラとなった薬莢が薬室にガッチリと食い込んでしまったのだ。

 

「ステファン! 薬莢受けからバールを出せッ! 強引に引き抜くんだ!」

 

 俺は火傷しそうなほど熱い薬莢受けに手を突っ込み、整備用のバールを掴んだ。

 

 前方からは、俺たちが足を止めたことに気づいたT-34のエンジン音が迫ってくる。

 

(……デリカのプラグが被った時みたいに、簡単にはいかないか!)

 

 俺は真っ赤に焼けた閉鎖機の隙間にバールを差し込み、全体重をかけてこじ開けた。

 

 ――ギギッ……、カランッ!!

 

 ようやく吐き出された空薬莢は、床に落ちて恐ろしいほどの熱気を放っている。

 

「抜けたッ! 装填します!」

 

 俺は間髪入れず、次の弾を滑り込ませる。

 

 だが、オットーさんが悲鳴のような声を上げた。

 

「……ダメだ! ステファン、左の三番転輪が死んだ! ベアリングが焼き付いたッ!」

 

 昨夜、強引に締め直したハブのボルトが、激しい機動に耐えきれず断裂したのだ。

 

 四号戦車(軍馬)が、がくりと左に傾く。

 

 動けない。

 

 主砲は熱ダレを起こし、足回りは砕けた。

 

 最悪のタイミングで、霧の中からソ連兵の「ウラーッ!」という雄叫びが重なり、対戦車銃を構えた歩兵たちが殺到してくるのが見えた。

 

「……各員、ハッチを閉鎖。……機銃で防戦だ!」

 

 ベルント曹長の決死の声が、無線機を通じて耳の奥に突き刺さった。

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