第5話 私ってどんな竜?

 エマはどきりとした。


(そっか……そういう風に疑われることもあるんだ)


 トマスは尚も言う。


「現在、魔族との戦争が激化しています。何でも疑って損はありませんよ、ユリウス様」

「んー、そうかなぁ」

「得体が知れないですし、私は早めにこういうやつは〝竜獄ドラゴン・アビス〟に送ることを提案いたします」

「ふむ……確かにな」


 エマはぞっとする。


(ドラゴン・アビス……?何だかこわーい響き)


 せっかく見晴らしのいい牧場でユリウスと過ごせると思ったのに、アビス(深淵)に送られるなんてまっぴらごめんだ。エマはしゅんとした。


 その様子を見て、ユリウスがとりなした。


「心配するな。竜獄はすぐそこ……あの山の向こうにある。あっちに移動したとしても、いつでも会えるよ」


 エマは鉄格子の向こうにある山を見上げた。


(あの山の向こう……?)

「近いし、明日行ってみるか?」


 エマは頷いてみせた。


 ランベルトが問う。


「ところで、この竜はどこから生け捕って来た竜だ?癒しのブレスを吐く竜など、聞いたことがない」


 ユリウスも首をひねった。


「いつも戦闘用の赤い炎竜を捕獲しているゴドレス谷で拾った竜だよ。でも今回は珍しく青いのが罠にかかっていたんだ」

「竜は警戒心が強いから、普通は同じ種族の集団で行動するよな?」

「群れからはぐれたか、追い出されたのかもしれない」

「この種をもっと集めれば、ヴァルテルミ王国の竜騎士団は最強になれるかもしれないぞ」

「治癒魔法は伝説上でしか記録が残されていない。確か、この世界の混沌と戦った聖女伝説の中だ。聖女様はその後、混沌に打ち勝ち、この国を作ったとされているが……あくまでも伝説だからな」


 エマは内心、がっかりした。


(えー?何で私、治癒魔法が使えるのに聖女様にはなれなかったの?)


 確かに、彼女はそのような治癒の力を願っていた。


(聖女様じゃなくて、ドラゴンになっちゃったってのはどういうわけなのよ!)


 こういったファンタジー世界に迷い込むなら、魔法使いや聖女様なんかがよかった。


(ああっ。魔法使いや聖女様になって、竜騎士様にチヤホヤされたかったー!!)


 とはいえ、駄々をこねたところでこうなってしまったものはしかたがない。


 竜の乙女心などお構いなしで男性達は続ける。


「この世から消滅したとされていたが、竜族の中に使える種族がまだ眠っていたというわけか?」

「竜族は基本的には魔族だからな。見つかっていなかっただけで、実は治癒魔法を使う種族がいたんだろう」

「乗り物にする前に、もう少し治癒魔法の実験をしておくべきだ」


 何やら話が大きく進み出している。エマは怯えた。


(実験……?何をされるんだろう。嫌だなぁ)


 男たちは先の予定を話し込んでいたが、ふとランベルトがユリウスに尋ねた。


「そういや、お前の結婚の話はどうなった?」


 エマはピクリと耳を震わせる。ユリウスは「困ってます」とでも言うように首を横に振った。


「向こうの家から難色を示されたよ。竜の牧場は嫁がせるには危険過ぎるって」

「……確かに、猛獣のいる場所にあえて娘を差し出したい親はいないよなぁ。ユリウスの母君はどうしてここへ?」

「泣きながら無理矢理連れて来られたそうだ」

「……わーお」


 ランベルトは肩をすくめた。ユリウスはエマの顔をぺちぺちと叩きながら言う。


「何が嫌なんだ?竜はこんなに可愛いのに」

「……お前だけだぞ、そんなわけのわからんこと言ってる男は」

「女性には分からないかな。竜の荒々しい魅力が……なのにこの、目の優しさ……いわゆるギャップの素晴らしさが」

「分かるかっつーの!」


 ランベルトは芸人顔負けのツッコミをビシッと入れてから、へらっと笑った。


「まあいいよ、お前が元気なら……。ユリウス、最近そんなことばかりでちょっと落ち込んでるって聞いてたもんだから」

「あー、ね……」

「まあまだ若いし、チャンスは少しだけあるっ」

「少しかよ」

「とりあえず、これからの計画を練ろう。明日は会議が──」


 二人の男は話し込みながら、トマスを連れてエマの檻から去って行く。


(ふーん。ユリウス、お嫁さんが来なくて困ってるのね。ふーん……)


 エマは竜らしく体を尾っぽごと丸めると、つまらなそうにふて寝した。

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最強竜に転生したら竜騎士様に溺愛されています※ただしペットとして 殿水結子@「娼館の乙女」好評発売中! @tonomizu

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