第4話 すごいやつ
しばらくすると、ユリウスは頭から爪先まで竜鱗の鎧をまとった姿でやって来た。
もう一人、隣に同じ鎧をまとった男が屋敷からやって来る。
「おお、これが新入りか」
彼は鎧の面貌を上げると、エマをしげしげと観察した。
男は、眼鏡をかけている。前髪の様子から金髪であろう。何やら重い革鞄を手にしている。
ユリウスがエマに紹介した。
「こいつはうちの従業員ランベルトだ。竜の研究者でもあり、俺の親友でもある」
エマは頷いてみせた。ランベルトはギョッとする。
ユリウスが言う。
「ランベルト。この竜、なかなか頭がいいんだよ」
「確かに、なんか人間っぽいな」
「人間の言葉がちょっと分かるみたい」
「……まあ、竜は犬並みの知能があるからな」
ランベルトは馬車の荷台から食材の入った籠を下ろした。
「まずはエサを食わせてみようぜ。どんなものを食べるかな?」
エマはちょっとげんなりした。
(エ……エサ?)
確かに腹は減っているが、おかしなものは食べたくない。
(退勤から飲まず食わずでお腹が空いてる私に……エサですって?)
きっとそれは、動物園の動物が食べているようなものだろう。
「よし。まずは、お前に識別番号をつけなくっちゃな」
エマはちょっと嫌な顔をした。
(番号ですって?まるで囚人じゃない)
ランベルトはかばんの中から金属製の足輪を取り出した。
「お前は、今日から101号だ」
エマの足に番号が取り付けられた。
「もう少し色々と調べさせてもらうよ。嫌だろうけど、ちょっと我慢して欲しい」
そしてエマの口から縄を外すと、食材入りバケツを差し出した。
「よし101号。食べろ」
エマはバケツの中身を見た。キャベツやトマトなどの野菜類、それから生肉のたぐいが入っている。
(うえっ……全部生なの?調理されたものが食べたいよ)
エマはとりあえず、バケツに口を突っ込み生野菜を咀嚼した。
まあまあ美味しい。
生肉は──抵抗があるのでペッと横に飛ばした。
すると、生肉の下から焼いた七面鳥らしきものが出て来たではないか。
(よかった!焼いた鶏だわ!!)
エマは両手でローストチキンを掴むと、器用に骨を残して肉部分を食べ始める。ユリウスとランベルトは驚いて顔を見合わせた。
「おいおい、見たか?あいつ、まるで人間みたいなチキンの食べ方をするなぁ」
「やっぱり変わってるよな」
ランベルトは眼鏡をきらりと光らせた。
「よし、次は検査だ」
ランベルトはそう言うと、革鞄を草の上に下ろした。
そしてがしゃがしゃと音を立て、何かを取り出した。
大きな鉄製の仮面である。
「おとなしくしてろよ」
ユリウスがそう言ったので、エマはグルグル喉を鳴らしながらも大人しくする。
鉄の檻が開き、中にユリウスが入って来た。
移動式の階段を使って、エマの背中にゆっくりと遠慮がちに乗る。
下側からランベルトが鉄仮面を渡し、ユリウスが竜の顔にそれを装着した。
エマの視界は遮られる。頭の後ろの方からキリキリと音がして、強制的に口が開いた。
「どうだ?ランベルト」
まるで医師の診察のように、エマの口の中に金属の棒が差し込まれた。
「あぁー……炎のブレスを吐く器官……水のブレスを吐く器官……はナシ」
「ほかに何か特徴はあるか?」
「ええっとねー。おおっ!?見たことないぞ、この器官は……」
「どうした?」
「何かね、変わった器官がついてるよ。ユリウス、こっちへ来て見てごらん」
ユリウスがするりと背中から滑り落ち、エマはどきどきした。
(変わった器官……?)
何せこの奇妙な異世界へ飛ばされてから、自分のことが一番よく分からないのだ。エマ自身も興味津々で聞き入る。
「な?これだよ」
「わっ!これは……近くで見ると、すごいな」
(ええー!何?……おかしな病気じゃありませんように)
宣告をされる前の患者のようにそう祈りながら、エマは二人の会話に聞き耳を立てた。
「この形状……面白い。何か霧状のブレスを出す器官のようだ」
「新種かもしれん。実はここに連れて来る前に、こいつは不思議な息を吐いたんだ」
「へー、どんな?」
(新種?)
地球の生物の半分は未知の生物という噂もある。この世界だって、未知の生物がうようよしていておかしくはないだろう。エマがその一種であるとしても不思議はない。
「それがさ、癒しの息を吐くんだよ」
「えっ!?」
「こいつの息は、傷を治せるんだ。事実、俺が負ったぐちゃぐちゃの骨折もこいつに治してもらったんだからな」
ランベルトはユリウスと年が近いようだが、子どものようにその場で喜びに足をジタバタさせた。
「それ、本当か!?ちょっと吐かせてみよう」
「うーん。どうやって吐かせる?」
「そうだなぁ。訓練されていない竜は、危険を察知すると何らかのブレスを吐くけど」
「……この竜は賢いからな。案外、言えば伝わるかもしれない」
ユリウスは、ぽんとエマの鼻先を叩いた。
「竜よ、聞こえているか?お前の力を見せて欲しい。ちょっとブレスを吐けたら吐いてみろ。こっちは竜鱗の鎧をつけているから、どんなブレスにも耐えられる」
エマは困惑した。
(ブレス……?って、どうやって吐くの?)
何せ先日竜になったばかりなので、どうやってそのブレスとやらを吐くのか不明だ。
(前はこんな感じだった、かな?)
エマは喉の奥から、ふわっと息を吐いた。
しばし、間がある。ランベルトが呟いた。
「何か吐いたようだが……何も感じないな」
再びユリウスがエマの背中に上って来て言った。
「怪我人がいないと治癒力の証明のしようがないな。屋敷の中で、誰か傷を負ってる奴を探して来るんだ」
「ま、こいつは大人しいってことは分かった。ちょっと待ってろ」
エマの顔面から、鉄仮面が外された。ランベルトは再び屋敷へと走る。
しばらくすると、彼は老いた使用人を連れて来た。
「彼はトマス。厩務員のひとりだ。先日足を捻挫してしまったようだが、治せるか?」
治せるかと言われても、エマは自分の力に無自覚である。
(えーっと……こうかな?)
エマは大きく口を開けると、ふわ~っと息を吐いた。
トマスは自らの足をこすると、驚嘆の声を上げる。
「すげえ!治りましたよユリウス様!」
「やはりか。痛みや痒みはあるか?」
「ないです!それに……肩こりまで治ってます!あっ、でも視力は回復してないな」
ユリウスはメモを取っている。
「傷やうちみに効果あり……か」
「老化には効かないようですね」
「ふむふむ」
エマもその結果を、固唾を飲んで聞いていた。
(怪我には効果あり、でも老化には効かない、か……)
ユリウスの骨折も治せたのだ。使いようによっては、炎を吐くより素晴らしい能力と言えよう。これは胸を張っていい能力なのかもしれない。
ユリウスが言った。
「これは戦場での救助に使えそうだな」
エマは頷いた。その様子を見てトマスが尋ねる。
「ユリウス様。この竜、人語を理解するんですか?」
「……俺もそれを不思議に思っている。反応が人間そのものなんだ」
すると、トマスは言った。
「気を付けた方がいいですよ……無害な竜と見せかけて、魔族が化けているかもしれませんよ」
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