悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。

をち。

第1話 俺、悪役令息でした

お約束の「キキー!」「ドン!」の後に目を覚ませば異世界。



というわけでもなんでもなく。

いつも通り目を覚まし、侍従であるシリウスに髪を梳かしてもらっている最中、鏡に映る自分の顔を見ていきなり頭の中に前世の記憶が蘇った。


「あ。俺、悪役令息だ!」


怒涛のように前世の俺の記憶が溢れた。

うん、この顔、腐女子だった姉に頼まれて無理やりクリアさせられたBLゲーム「僕の王子さま」の悪役令息ことスノーデン公爵家の長男、ミルリースだ。

確か、プライドが高く、主役である人気者の次男レオリースを妬み虐げまくるザ・悪役。

ということになっている。


そう。実際に俺は何もしていない。

だがいかんせんミルリースは顔が良かった。

銀髪はまるで星の輝きのようにキラキラと煌めき(公式設定より)、切長の神秘的な紫の瞳はよくアメジストに例えられる。身長は普通より少し低いくらいなのに、その足の長さとスタイルの良さで普通以上に高く見える。伶俐な美貌を誇る美少年、それが俺だ。

美貌も過ぎれば仇となる。地位も顔もよすぎるせいか、何をしても孤高の人扱い。前世の言葉でいうのならば、いわゆる「ぼっち」ということになるのだろう。

これが人好きのするタイプの美貌ならよかったのだろうが、もともとの色合いが寒色なこともあり、人形のように冷たく見えてしまう。黙っているだけで不機嫌だと思われるし、妬まれすぎてどんな言動も悪役にされてしまうのである。

疲れてため息を吐けば「不機嫌そうに気だるい空気を滲ませ」ているように見え、「腹減ったなー」と考えていれば「何を思うのか、その瞳を忌々しげに燻らせていた」となるわけだ。

「お前もよくやっている」と弟に微笑みかけただけそのことを家人に「弟を見下し、蔑むような笑みを口元に浮かべていた」と言われた幼い頃の俺は、夜ベッドでこっそり泣いた。撫でようとしただけで弟にビクつかれ、「お兄様が僕をぶとうとした」と触れ回られたとき、俺は誓った。弟には関わらないでおこうと。

とにかく俺が何をしても全てが「悪役ムーブ」に変換されるのだ。

ゲームの時は気づいてやれず申し訳なかった。

ミルリースは悪くない。



全く!こんなの、やってられるか!

このままいけば、なにもしていないというのに悪役確定され、人気者主人公を虐げた冷酷な兄として断罪され、僻地にて貧困にあえいだ末に無念の死を遂げることになる。

いじめなどしていない。ひたすら努力を重ねて辛い日々に耐えて生きて来た俺にそんな仕打ちとは! いくらなんでもおかしいだろう!


俺は普通に勉強が好きだし成績だって学年トップを維持している。

元から頭がいいのもあるが、全て嫡男としての期待に応えようと必死にコツコツ頑張ってきた結果だ。なにしろ、遊ぶことも許されず、朝から晩まで勉強漬けにされてきたのだから。

なのに首席でも「公爵家の権力を利用して裏から手を回し成績を操作している」と思われている。

なんでだ! なんなら寝る間も惜しんで頑張っているだろう! 俺は普通に真面目ないい子だろう!




でも、分かってしまった。そのどれもこれも俺が「悪役令息」だからだった。

そういう役回りだからなのだ。


俺の心は折れた。

これまで皆に誤解され遠巻きにされてきた。

親にも「可愛げがない」と言われ、首席になろうが「長男なのだから当たり前」だと褒められたことはない。弟のことは何をしても褒めて可愛がるのに、だ。

それでも「頑張っていたらいつか褒めてくれる」「努力すれば愛してくれる」と自分を磨く努力を怠らなかった。

だが、必死に頑張る意味などあるのだろうか? 何をしたって「悪役令息」だから悪く受け止められるというのなら、無理をする意味などないだろう。


そもそも、不愛想で気だるげなのは、毎晩遅くまで勉強していて常に眠いからだ。

弟みたいに、みなにいい子いい子され、、好きなことをして好きなものを食べ、ぐっすり寝る健康的生活をしていれば、「元気」で「いつも幸せそう」になるに決まっているだろう。

一切の自由を与えられず、愛も与えられず冷遇され、まともに睡眠も食事もとれない俺と弟を比べる方がおかしいのだ。


そう、俺は両親に「表情のない子」だの「何を考えているのかわからない」「可愛げがない」だのと言われて育った。

さらに嫡男だからと何もかも「人並み以上に出来て当たり前」とされ、あらゆる知識や剣術を叩き込まれ、寝る間も惜しんで勉強して、眠すぎて食欲もないから適当な食事をして。

そんな生活を強いてたらクマだってできるし精神だって荒む。疲れて不機嫌にもなろうというもの。


おまけに何もせずとも「弟をいじめてる」などという悪評をたてられるんだぞ? 

その弟だって、目に涙を浮かべて「お兄様は悪くありません」と俺を庇って見せる、それがいかにも「お兄様を庇う優しい弟」という演出にしかなっていないのだ。

俺の横で自分で勝手に転んだのだから、はなから俺が悪いわけはない。そこでわざわざ俺を持ち出すから俺が転ばせたように思われるんだ! これがわざとではないとか、おかしいだろう?

弟は分かってやっている。そう思うくらい、あざとい。

弟が良い子?お前らの目は節穴なのか? 

前世を思いだした今の俺は、俺のおかれたこの状況の半分以上は、この無意識に人を貶める弟のせいだと思っている。



でももういい。どうせ悪役にされるのなら、いっそ好き勝手に生きてやろう。

長男だとか知らん! こんな家はレオリースにくれてやろうではないか! 

悪役上等! どうせなら本当に悪役になってやろう。言いたいことを言ってやってさっさと貴族社会から離脱し、俺は俺で独立して、いっそ裕福な平民として生きていこう。

うん。それがいい。

幸い前世の知識も思い出したから、生活能力はあるはずだ。平民暮らしもなんの問題もなかろう。







というわけで、俺は密かに投資をすることにした。

幸いなことに金だけはある。小遣いだけは公爵令息にふさわしい金額を与えられていたが、それを使う暇なんて無かったから、貯蓄はそれなりの額になっている。その一部を投資に回すことにしよう。


今現在、俺は15歳。この春休みが終われば高等部一年になる。学園を卒業するまでにあと三年。


ゲームでは、来年、俺が二年に進級し弟のレオリースが高等部に入学してから、俺の破滅へのカウントダウンがはじまる。

主人公である弟の攻略対象は四人。

俺の婚約者である側妃の息子、第三王子ルディアス・ゴールド。

俺のクラスメート、第一王子イージスの弟である第二王子のサージェス。イージスとサージェスは双子で、正妃様の子であり二人のうちどちらかが皇太子となると言われている。

宰相の息子であり、スターツ爵家嫡男のエリオット・スターツ。

それに弟の学年の、代々王国騎士団長を務めるブレイン侯爵家の次男アーチャー・ブレイン。

彼らによって俺の一つ違いの弟の奪い合いが始まり、俺は彼らにより勝手に「弟を虐げる兄」として完全なる悪役に祭り上げられていくのだ。

その結果、俺は卒業式のあと、第一、第三王子、宰相の息子の「卒業前のレオリースへのアピール」のために、捏造や誤解による断罪されることになる。



ということは、猶予は2年。断罪までは最大で3年とみていいだろう。

俺はこれから弟の入学までの1年で資金を貯め、そこから事業を立ち上げ、卒業までには高等部からも公爵家からも離脱せねば。

断罪される前に、自ら申し出て廃嫡となり家から解放される。その時が俺の新しいスタートだ。


ちなみに、資金集めの投資先には心当たりがある。

ゲームの流れは分かっているから、俺はこれから何が起こるか知っているのだ。


実は今年の冬、ある感染症が隣国からこの国に持ち込まれる。

隣国では特効薬を飲めば問題ない季節病といわれている病なのだが、もともとこの国には存在しない病のため、この国では特効薬の備蓄はしていない。

そのため、病の原因を突き止めてから薬を輸入するまでに、かなりの死者を出すことになる。


ここで第一王子と第二王子は母を、宰相の息子は弟を、騎士団長の息子は姉を失う。

明るく前向きなレオリースによって彼らはその悲しみから救われ、レオリースに傾倒していくのだ。


だから俺はその治療薬の材料を事前に大量に輸入しておくつもりだ。

治療薬自体にしなかったのは、怪しまれないため。俺の悪役ムーブだと、最悪、俺が病を流行らせたことにされかねないからな。

念には念を入れ、微塵も疑いを招かぬように、他の薬やら薬草やらも輸入しよう。

人々は救われ、俺は金を得る。一石二鳥だろう?


俺はもうこの世界にも家族にもなんの期待もしていない。

自分の道は自分で切り開くのだ。


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2026年1月17日 17:00
2026年1月17日 20:00
2026年1月18日 07:00

悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。 をち。 @wochinchi

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