赤月詩子は友達が欲しい4
「私ね、ずっと、気になってたんだ。詩にゃんさんのこと。いつも独りの子を探しては、皆の輪に誘ってる、誰かの孤独を許さないその姿勢が気になった。最初はただのお人好しだと思った。特に深い入りするほどの興味もなかったから考えなかった。でも、飽きもせず、逃げていく奏君に声をかけ続けるのはなぜだろう。そう疑問に思ったの――」
――圧倒的カリスマ性を見せつけて、雄弁に語る。
今、目の前にいる語り部の言葉を遮ることが、誰にもできなかった。
「ただのお節介にしては、熱量が違う。そこに生きる意味を見いだしてる。人が良くて、誰にもでも優しい聖人を演じてると思った。でも、挨拶をする程度までの関係で止めている。その程度のものに必死になる理由はなにか考えた。詩にゃんさんは自分が繋いだ手を信じていないって答えにたどり着いた――」
――詩にゃんは、逃げることもできず、声に耳を傾ける以外できなかった。否定することすら肯定につながると、分かっているのだろう。
「――人と縁を繋ぐことに必死な人が、自ら繋いだ手に深入れしない。まるで、それはいつでも捨てられる不確かな物みたいに。思い入れが強くなれば強くなるほど、捨てられるダメージが大きくなる。それが怖いんだって――」
「ちが――「だから、切り捨てられても、擦り傷だと妥協できる関係しか築けない」
図星を疲れて、今にも泣き出しそうな感情は、逃げどころが分からずパンクしかけている。
「手元から離れることが前提だから、手広く
マリンの言葉は、宣告だった。
放課後の静寂の中で、詩にゃんが鈴の音を鳴らす。
「そ、それの、何が悪いの?」
泣くことを我慢しながら必死に音にした言葉に聞こえた。
「最高よ赤月詩子さん。いえ、詩にゃん。こんな逸材がいたなんて知らなかったもの」
先ほどまで攻め立てるように言葉を並べてた奴の言葉とは思えない。運命の相手に出会えたようなそんな歓喜に満ちあふれている声だった。
「ふぇ……」
詩にゃんの思考回路はこれで完全に壊れただろう。
もう大好きと言わんばかりの抱擁をかますマリンに、借りてきた猫のように動かなくなってしまった。
「それでね私、貴方に言いたいことがあるの」
まだ少し怯えた表情で詩にゃんは次の言葉を待つ。
「私と友達になって!」
脳に酸素を供給するために、深く呼吸する。思考回路がバグり始めてるな俺。
「な、何で、友達になりたいの?」
狂人の虚声と取れていい告白だ。
誰だって動揺は隠せない。
「至極真っ当な理由だ」
つい言葉が出てしまった。
「流石ね、奏君。至極真っ当よ。詩にゃんは誰でもいいから臆病な自分を隠したかった。誰でも良いってことは、手をつなぐ相手のステータスなんて気にしない!これほど友達としてふさわしい条件はないわ」
詩にゃんに抱きつきながら、頬と頬をスリスリしている。
事態を全く理解してない詩にゃんはされるがままだ。
「意味が分からないよ」
「赤月詩子さん、貴方とは大親友になれるってことよ」
マリンは世界中の幸せを噛みしめるようによだれを垂らしていた。
先ほどまで威圧的だった女の子が、一変して甘えてくるのだ。
意味を理解できない詩にゃんは首を斜めに傾けた。
詩にゃんの理解が追いついていない。このままだと話が進まないから俺が説明するしかない。
「マリンは美少女って外面を全く気にせず、誰とでも手を握ってくる詩にゃんをご馳走と思ったんだよ。
詩にゃんは失っても妥協できる繋がりが欲しいから、相手のステータスなんて気にしない。それはマリンを一人の人間として評価することになる」
「そう、私を正しく評価してくれる人なのよ!」
振り子のように右から左へ、首をかしげる詩にゃん。その素振りは庇護欲を沸き立たせるには十分な破壊力を感じた。
「………まさか、私と友達になりたいだけ、なの?」
真実を告げ、罪を白日の下に晒した裁判官が、今や熱狂的な信者になっている。
「うん!」
嬉しくて尻尾を振ってる犬みたいだな。
「それは……、えっと、いいよ?」
ほっと、息を撫で下ろす。
その安心さえ、絶対的美少女様の前では風前の灯だと彼女は知らない。
「駄目よ!」
マリンのドスの効いた声が世界を凍らせた。
安堵した矢先のこれだ。詩にゃんは震えていた。
もはや、自分の常識では測ることのできない怪物を目の前にして、俺へと救いのSOSを込めた視線を送ってきた。
「私は詩にゃんと大親友になりたいの、替えの利かない唯一無二の大親友。私を
「ひっ……」
俺は思わず頭に手を乗せる。
マリンの瞳は詩にゃんを捕らえて、俺の角度からじゃ見えない。でも、あの時と同じなのは分かる。
「契約を交わさない。私は貴方と友達になりたい。けど、貴方は私を信用できない。だから、ここにいる奏君と友達になるの」
狂気に次ぐ、狂気。マリンの言葉と言動に一貫性なんて感じない もはや、ビジネスというより恐喝だ。
「え、え……」
「貴方だって本当は『友達』が欲しいんでしょ? でも『友達』以上の関係は妥協できるリスクの範疇を超えている。貴方は『友達』が欲しい、寂しがり屋という依存性を悟られないように、ひとりぼっちを許さないように広く薄い関係で自分を守る、ひとりぼっちな自分すらも拒絶する。診断するなら、『ひとりぼっち拒絶症候群』かしら?」
椿真鈴の独特的な診断が下された。
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