赤月詩子は友達が欲しい3

 崇拝してる好きな漫画を勧めるような勢いのマリンに、慌てふためく詩にゃん。


 それを見て、マリンは詩にゃんから一歩引く。


「やっぱり迷惑だったかしら、ごめんなさい」


 笑っているようにも、申し訳なさそうにも見える笑顔は、天性の美少女にしか作れないだろう。

 詩にゃんは冷静さを取り戻したのか、いつもの万人受けの笑顔を作る。


「気にしないで、ちょっと、驚いただけだよ。あ、私、急ぎの用事があったんだ。八木君ごめんね。クラス会のお話はまた今度でいいかな?」

 

 詩にゃんは逃げるように、その場から去ろうとした。


「不思議なことを言うのね。どうして、そんなバレバレの嘘をつくのかしら? 興味があるわ」


 さっきまでの天真爛漫な天使の面影は消え、魔法でも使って、心の中を見透かしたような鋭い目つきの魔女がそこにいた。


「……?」

 

 頑張って継ぎ足していた、メッキが剥がれて、動揺を隠せていない。

 嘘をついた瞬間、一瞬で見破られ焦りを見せる。


「ど、どうして嘘だなんて――」

「――観察の結果よ? この教室には奏君と私と詩にゃんさんしかいないもの。急ぎの用事がある人が、どうして人がいなくなるまで、教室に残っていたのかしら?」

「えっと、急がないと間に合わない用事があったんだよ。ちょっと焦って言い間違えちゃった、あはは。私って結構ドジっ子なんだ」


 嘘つきだと宣言されても、怒ることなく、自分の失態だと笑って受け入れる。神の試練に耐える聖女のようだ。


「そうだったの? そんなに時間に余裕がないなら、戸締まりまで請け負う理由が分からないわ。放課後になっても帰ろうとせず、グダグダ時間を過ごす暇人に、戸締まりを任せることだってできたはずよ」


「えっと、それは……」


 マリンの刃は、鋭く速く、詩にゃんの言葉の矛盾を切り取っていく。  


 流石に見ていて可哀想になってきた。

 別に俺も、マリンも、詩にゃんを責めたいんじゃない。


「探偵ごっこもその辺にしたらどうだ? 本当に急ぎの用事だったら、どうする?」


 詩にゃんが、『どうして私の味方をするの?』って不思議そうに俺を見た。


「それもそうね、ごめんなさい。私たら最近、探偵ごっこにはまってたから、その時のクセが出たのかしら。いきなり嘘つき呼ばわりなんて失礼よね」


 冷めきった絶対零度から、陽だまりの陽光へ、ノータイムできり替わる。

 詩にゃんは、目の前の意味不明な存在に、口を震わせていた。

 

 これで、詩にゃんの心の防壁は崩れ去ったかもしれない。異常な事態に取り繕う暇を与えていない今が、最大のチャンスだ。


 昨日の会議で、俺が観察と情報収集、マリンは俺と詩にゃんの架け橋をすることになった。

 詩にゃんが自らの意思で、俺にフレンド申請するよう誘導するため、まずマリンが詩にゃんと友達になる作戦を立てた。

 マリンが友達になって、俺へと意識を誘導する手筈。そして、俺に特別な感情を抱かせる。


 昼休みに観察して、詩にゃんに対して、感じた内容をマリンにメールで伝えた後、マリンから返ってきたメールにはこう記されていた。


『今日も遅れるから、教室でうたにゃんさん観察しながら待ってて、良いこと、かなでがうたにゃんさんを観察してたとか意識してたとか疑惑を持たしちゃ駄目よ。

 ……わかった?』


 ここまで計算してたとしたら、椿真鈴は本物の化け物だ。

 だが、分からない。

 ここからどうやって、彼女は詩にゃんと友達になるんだ?

 

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