第3話 表現の自由と名誉毀損の境界

――「事実か」「評価か」「公共性はあるか」


## 1 事件の類型(何が問題になるのか)


表現の自由が問題になる事件には、典型的な構図がある。


* ある人物・団体についての表現が公表された

* 当事者が「名誉を侵害された」と主張した

* 書き手は「表現の自由」を理由に正当化する


ここで争われるのは、


> **どこまでが許される表現で、

> どこからが違法な名誉毀損か**


という一点である。


重要なのは、

裁判所は「不快かどうか」では判断しない、という点だ。




## 2 関係する条文


### 憲法21条(表現の自由)


> 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。


一方で、刑法には次の規定がある。


### 刑法230条(名誉毀損)


> 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、

> その事実の有無にかかわらず、これを罰する。


つまり、


* 表現の自由は強く保障される

* しかし、無制限ではない


という前提が置かれている。




## 3 裁判所が使う基本フレーム


名誉毀損が成立するかどうかについて、

裁判所は、ほぼ一貫して次の枠組みを使う。


### ① 事実の摘示か、意見・論評か


* 具体的な事実を示しているか

* 単なる評価・意見にとどまるか


事実の摘示であれば、名誉毀損になりやすい。

評価・論評であれば、表現の自由が広く認められる。




### ② 公共性・公益目的があるか


* 公的立場にある人物か

* 社会的に知る必要がある内容か


私生活の暴露は、ここで不利になる。




### ③ 真実性・真実相当性があるか


* 内容が真実か

* 少なくとも、真実と信じる合理的根拠があったか


この要件を満たせば、

**違法性が阻却される可能性**がある。




## 4 代表的な判例の整理


この枠組みを確立した代表例が、

**北方ジャーナル事件**

(最大判昭和61年6月11日)である。


### 判例の結論(要旨)


* 公的関心事に関する表現であり

* 公益目的があり

* 内容が真実、または真実と信じる合理的理由がある場合


名誉毀損は成立しない。


ここで重要なのは、

**「言い方」まで含めて判断される**という点である。




## 5 裁判所が引いた「線」


裁判所は、次のような線を引いている。


### 許されやすい表現


* 事実を淡々と示す

* 公共性のある問題提起

* 評価があっても、根拠となる事実が明示されている


### 問題になりやすい表現


* 事実と評価が混ざっている

* 人格攻撃に近い表現

* 不必要に断定的・断罪的な言い回し


ここでのポイントは、


> **「何を書いたか」だけでなく、

> 「どう書いたか」も判断対象になる**


という点である。




## 6 尊属殺・正当防衛との共通構造


ここまで見てきた三つのテーマには、共通点がある。


* 尊属殺

 → 身分で線を引かない

* 正当防衛

 → 感情で線を引かない

* 表現の自由

 → 印象や不快感で線を引かない


いずれも、


> **行為と、その必要性・相当性の対応関係**


で判断されている。




## 7 この線が持つ現実的な意味


この基準は、次の場面でそのまま使われる。


* SNSでの告発・批判

* ブログやnoteでの実名言及

* 職場・学校での情報共有


重要なのは、


> 言っていいか、ではない。

> **どこまでなら許される形で言えるか。**


という視点である。


---


## まとめ(試験・理解用)


* 表現の自由は強く保障されるが、無制限ではない

* 判断は「事実か評価か」「公共性」「真実性」で行われる

* 言い方次第で、結論は大きく変わる

* 問題は内容よりも、線を越えたかどうか

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