第2話 手紙が繋ぐ、兄妹の絆……のはずが!?兄の妄想、粉砕せよ!
その日、わたくしは遠方の港町シルフハーフェンに出かけた最愛の兄に、できるだけ丁寧な文字で、手紙を書きました。
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一通目・フレデリカの手紙
◇ 親愛なるメルツェルお兄様
(銀の百合の透かしの入った白い便箋)
拝啓、春暖の候 お兄様におかれましては旅先にて 華やかなご活躍のことと心よりお慶び申し上げます。
お兄様が旅立たれてから 二週間が経ちました。国のために学生でありながら、いつもご尽力されているお姿を拝見し、心から尊敬と感謝の念を抱いております。
ですが最近は少し、お疲れ気味のようでしたね。今回の休暇がお兄様にとって心身ともに リフレッシュのひとときとなりますように。
滞在先がフィルベルト様のご新居と聞いて 驚きました。海の見える美しい港街、フィルベルト様とのご交流、少し羨ましくも感じております。
領内は平穏に保たれております。日々お兄様がご献身くださっているおかげと存じます。どうか、心穏やかにお過ごしくださいませ。
最近は夏の気配も感じる日々です。 どうぞお身体をご自愛なさいますよう心よりお願いいたします。
敬具
あなたの愛しき妹 フレデリカより
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翌日、心待ちにしていた兄から、 綺麗な文字で書かれた手紙が届きました。
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一通目・メルツェルからの返信
◇ モルガナイトの妖精さんへ
(薄紅色の可愛い便箋)
拝復、フレデリカ 手紙をありがとう。
春の美しい海は本当に心が安らぐね。
今度は君にも見せたいよ。
此処、シルフハーフェンの街は、漁業以外にも交易の盛んな地域で 我が領地でも栽培できそうな果物や野菜の種が沢山あるんだよ。購入しようかと考えているんだが 土地の適性をはからなくてはね。もう少し視察をしてから判断するよ。
ところでこの港町、精霊と出会えるという伝説があるんだよ。私も一度、精霊を見てみたいと 思っていたのだけれど、とうとう精霊の化身を見つけたんだ。彼は一人 、切なそうな顔で海を見つめていてね。その姿は琥珀の瞳、光を受けて煌く髪、素肌は透き通るような白さで、目が離せなかった。
波が大きくはねて彼の首に飛んだけれど、滴る水滴が真珠のように見えたのは、私の錯覚だったのかな。
敬具
君を誰より愛する兄 メルツェルより
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は? ……お兄様? ……精霊の化身?
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ニ通目・フレデリカの手紙
◇ 親愛なるお兄様
(白い便箋。花の透かし入り)
前略、先日はご丁寧なご返信をいただき、 ありがとうございました。 またシルフハーフェンに 精霊の化身がいるなんて、 大変興味深いお話で、わたくしも一度、 精霊とお会いしたいものです。
でも、その精霊の化身とはもしかし てフィルベルト様の事ではないのでしょうか? もしそうなら驚きです。 美肌命の彼が太陽の照りつける海辺にいらっしゃるなんて。 でも人は日々進歩いたしますものね。
彼は、ディーナ様という妻を得て、 人生の楽しみ方を一つ学んだのでしょう。 古き友として、感無量です。 お兄様はそちらでも視察など、相変わらず働き者ですね。
くれぐれもご無理なさらないで ください。
草々
あなたの愛しき妹 フレデリカより
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ニ日後、お兄様から、楽しみにしていた返信が届きました。
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ニ通目・メルツェルからの返信
◇ 私のモルガナイトへ
(押し花付の淡いラベンダー色の便箋)
復啓、親愛なるフレデリカ。
君の洞察力には、驚かされるばかりだよ。 こちらでの調査活動は我が領地にとって 有益なものばかりだったから私の提案を書類に整えて、側近のジオに 持ち帰らせよう。
ところで昨日はディーナさん母娘が 不在だったため、私とフィルベルト殿は 二人っきりだったんだ。彼は最高級の子供用ぶどうワインを勧めてくれてね。
フィルベルト殿は大人用ワインを開けようかと悪戯っぽく言っていたけど(可愛い) 私達はまだ20歳未満だからお断りしたよ。 子供用ぶどうワインの芳醇な香りが 私の心をほぐしてくれて、彼の優しい眼差しに自分の心のままに彼の手を とろうとしたら、ギュンターが訪れてきたんだ。
(チッ!)
あのまま二人っきりであったなら、 どんな朝を迎えることができたのか。
敬具
君を誰より愛する兄 メルツェルより
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どこから突っ込めばいいのかしら?
葡萄ジュース? 法律を守るお兄様。さすがですネー。
あと 「チッ?」いちいち、書かなくていいです。
どんな朝って……。普通に顔洗って起きてください。
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三通目・フレデリカの手紙
◇ 大好きなお兄様
(グリーンの便箋。)
お元気でいらっしゃいますか?
ジオからの書類、確かに受け取りました。 書類は、全てチェックしましたが、 相変わらず冷静な分析、お兄様のアイデアには感服いたします。 手紙に葡萄ジュースの話がありましたので何かご提案があるのかと思ったら、アップルジュースの提案だったので少し驚きました。
最近、お母様は社交界の会合の準備でお忙しいようです。お兄様がいてくれたら、とお母様がこぼしておりました。
ところで、フィルベルト様と二人で過ごす夜があるのですか? よく考えますと、ディーナ様とフィル様はまだ新婚。お二人の愛の物語を間近で見ることができるのは、この上ない喜びかとは思いますが、あまりお二人の邪魔をしてはいけませんよ。
あなたの愛しき妹 フレデリカより
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三日後、お兄様から、返信が届きました。
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三通目・メルツェルからの返信
◇ 可愛いフレデリカへ
(高価な御香を焚きしめた良い香りのする白い便箋)
いつも手紙をありがとう。 君の言うことはわかるが、しかし、ディーナさんは僕に長期滞在を許してくれているよ。
「ぜひフィル様ともっと、もっと仲良くなるために出来るだけながーくご滞在くださいね。彼の笑顔、思わず抱きしめたくなるでしょう?」
という彼女は本当に理想的だ。 一つ訂正しておくが、フィルベルトはまだ結婚はしていないよ。婚約中なんだ。なぜ結婚しないのか聞いたら、ディーナ殿が拒否しているらしい。
「フィル様が23歳までは結婚しないの。彼には色々可能性がありますから」
だって。 愛する人の可能性を信じる彼女はなんて崇高な女性だろう。フレデリカ、一度ディーナさんと話してみるといいよ。きっと人生において何か発見があるかもしれない。 では、また書くよ。
君を愛する兄 メルツェルより
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出来るだけながーくご滞在? 冗談でしょう?
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四通目・フレデリカの手紙
◇ メルツェルお兄様へ
(ベージュの便箋。)
そうなのですね。フィルベルト様はまだ婚約中ですか……。色々経験?確かに経験は必要ですが、フィル様が妻帯者になると経験できない何か不都合があるのでしょうか?
フィル様の未来の奥様。 たしかに一度ディーナさんと話してみたいですわ。 なんとなくですが新しい世界が開けそうです。
そうそう、お兄様ご提案の『本当に青いリンゴのジュース』が爆発的人気となり忙しくなってまいりました。母も父もドタバタしております。
そろそろお帰りになってはいかがでしょうか。
あなたの愛しき妹 フレデリカより
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12日後、お兄様から返信が来ました。返信、遅くない?
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四通目・メルツェルからの返信
◇ 可愛いフレデリカへ
(ピンクベースに金箔のレースをふちどった、どう考えても特注の高価な便箋)
そうだね。僕も父上と母上の手伝いをしなくてはと思う日々だよ。しかしここを離れられない理由があるんだ。
先日、フィルベルトの新居にギュンター殿が訪れてきた事は話したね。 フィルベルトはギュンターの来訪にとても喜んでいて、とても幸せそうだったんだ。
それからはフィルベルトはギュンターにべったりだよ。 すこーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーし、妬けるね。
昔、ギュンターはフィル殿を避けていたのに。どうしたんだろうね。不思議だよ。
昨日、ディーナ殿に頼まれて、菜園を手入れしていたら、二人が庭の片隅で壁ドンの上、顎クイをしていてね。こんな場面を見てはとてもじゃないが二人を放って帰るなんて出来ない。
君を愛する兄より
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ー(音引き)×23 使うくらい妬けるのですね。
お兄様も昔はフィルベルト様をさけてましたよ。忘れたのですか?
----------------------------------------フレデリカの手紙・五通目
◇ 愛するお兄様
(薄っぺらいベージュの便箋。)
お疲れ様です。 お兄様、何を心配されているのか知りませんが、ギュンター様とフィルベルト様は御兄弟ですよね? ギュンター様が男の妻を望んだところでフィルベルト様は当然、候補にはりませんよ。
つまらない事を考えていないで、そろそろお戻りになられてはいかがでしょうか? 父上も母上も最近は寝る暇もないほどお忙しいご様子。 領地の視察、秋支度の準備、社交界の根回し……。
優秀なお兄様ならすぐに終わらせるでしょう? お兄様のご帰宅、心よりお願いいたします。
あなたの妹 フレデリカより
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14日後、お兄様から返信が来ました。 もしかして帰る気ない?
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五通目・メルツェルからの返信
◇ 可愛いフレデリカへ
(薄いブルーベースの紙のフチを鋭い刃物で繊細な花を切りだした、もはや芸術匂のする便箋)
そうなんだ。彼らは兄弟。なんの心配もいらないはずなんだけど、ディーナ殿が言うんだよ。
『兄弟だからこその背徳感。血の繋がりが二人に葛藤を与え、愛ゆえに苦しみ抜くの! それでも二人は止まらない!! 倫理観もかなぐり捨てて、どこまでも続く茨の愛。 でもそこがいい! なお、無自覚の弟を兄が狂って監禁する展開ならさらに最高。』
と私に話してくれてね。 もちろんギュンター殿がフィルにそんなことをするわけないけれど、監禁ルートは起こってしまうと二度とフィルを見つけられないらしいから、目を離すわけにはいかないんだよ。 それから相談なんだけどディーナどのから、壁ドン、顎クイの状況の二人を詳しく文章にしてほしいと頼まれたのだけど、
『フィルベルトは壁に追い詰められ、ギュンターの腕に囲まれた。ギュンターの指が彼の顎を持ち上げた。ギュンターは彼を見つめていた。フィルベルトは緊張した。髪が頬にかかり、ギュンターの指先が唇に触れた。静かだった。』
これでいいんだろうか?
君を愛する兄より
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ルートってなんぞや?
ギュンター様のこと……。信じてないから帰ってこないのでしょう?
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六通目・フレデリカの手紙
◇ お兄様
(色あせた古い紙の便箋)
お兄様にも欠点がございましたのね。そんな報告書を出したらディーナさん、激怒するかと思います。書くなら、
『フィルベルトは壁に追い詰められ、ギュンターの腕の中に閉じ込められた。フィルベルトはギュンターの長い指に強引に顎を持ち上げられる。戸惑いながらも反抗するように、彼の鋭い視線を見返した。しかし、お互いの視線が絡み合った瞬間、フィルベルトの体温は上昇し、思考が停止する。頬にかかる髪が揺れる中、ギュンターの指先がそっと唇に触れる。その瞬間、普段は隠している心の淋しさが、一瞬だけ顔をのぞかせた。』
このくらいは書いてくださいませ。 報告書ですからフォーマットに従ってお書きなさいませね!
あなたの妹より
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六通目・メルツェルからの返信
◇ 文才のある可愛いフレデリカへ
(金箔の厚み0.22mmの便箋というか金。高くて硬い)
驚いたな。 君にこんな文章を書く才能があったなんて。 まるで見てきたような文章だよ。 情景が瞼に鮮明に浮かんできて、私は読みながら息を呑んだよ。 できればギュンターの部分を私の名前に変えて、さらに書き直してくれないだろうか?私とフィル殿の熱く燃えるような一節を……。
君を愛する兄より
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何言ってんだ……。こいつ……。
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七通目・フレデリカの手紙
◇ 兄へ
(なんかの裏紙)
父上は過労寸前、母上も社交界や国の為に必死のご様子。私はお手伝いしたいのですが、体調が良くないのです。
ゴメンなさいね!絶対健康になってやる!
で、港町で人の恋路を観察しているお兄様! とにかく、あなたの力が必要です!!
妄想小説ならいくらでも書いて差し上げますから、とっとと 帰ってこい!!!
バカ兄!!!!
フレデリカより
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終
BL世界で兄を返してほしい侯爵令嬢です!婚約破棄された悪役令息なんて大嫌い @ikareru_futon
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