第五話
俺たちはスマホのライトを頼りに、山道を登っていった。細く蛇行した落ち葉に埋もれた道を登り続ける。まるで獣の背中を撫でるようにうねる坂道に、額に汗が浮かぶ。
十分ほど経ったくらいだろうか。前を歩いていた久保が突然、「なんだこれ」と叫んだ。ライトの先を視線で追う。
そこに。
巨大な木が俺たちに覆い被さりそうな格好で聳えていた。
枝は地面に着きそうな程垂れ下がり、四方に伸びる。幹はひび割れ、無秩序に蔦が絡まっている。その隙間から苔や粘菌類と思われる白い胞子がびっしりとこびりついていて、風にそよいでいる。見るだけでどこか不快な気持ちになった。
「へえ、こんな木あるんだなあ。気持ち悪う」
桜田が呑気にペタペタと幹に触れる。
「見てよ、人の手みたいじゃない?」
確かに、幹から突き出た瘤が人間の掌のように見える。それを見た桜田はぺたりと自分の手を重ねる。
「おい桜田よ。お前よくこんなの触れるなあ」
半ば呆れ顔の俺と久保をよそに、桜田は拳でこんこんと木を鳴らしながら「へへへ」と笑っている。
「にしてもさあ、このあたりじゃないの?」
久保が話題を戻した。
「そうなんだ、もう近いはずなんだけどさ」
アプリの位置情報は確かに今いるあたりを指している。俺は土が剥き出しになった山道からライトを左右に揺らして探した。
その先に、小さな倉庫のような小屋が見えた。スマホに表示された位置情報と見比べると、小屋の位置とぴたりと一致する。「ああ、あそこだ」と言って俺たちは小屋に向かった。
「人の気配は……しないよな」
恐る恐る小屋のドアを開ける。ぎいいと言う音と同時に真っ暗な室内が姿を現す。まるで全てを飲み込んでしまうような漆黒が支配する空間に圧倒される。
久保が「暗いなあ」と言いながら先頭に立って入っていく。「足元気をつけろよ」と声をかけ、俺と桜田が後に続いていく。
「おーい、黒田さん。ここにいませんか?」
声をかけてみても、暗闇からは何の反応もない。
ゆっくりと奥へ進んでいくと、うわっ、という声を上げて前を歩いていた久保の体がぐらりと揺れた。何かに躓いてバランスを崩したようだ。
「どうした?」と聞くと、尻餅をついたまま「何か踏んだ」と痛みに耐えている。
すぐに俺が久保のいたあたりにライトを向ける。
弱々しいライトに照らされて、足元に転がっていたものが目に飛び込んできた。
紺色の裾からだらしなく伸びた足。
壁に張り付いたかのようにもたれかかる体。
赤黒く変色した顔。垂れ下がった前髪。乾ききった肌。
そこには変わり果てた黒田の姿があった。
「うわああああ!」
俺たちは恐ろしさのあまり叫び声を上げた。
心のどこかでもしかしたら、と考えていた。それでも──こんな悍ましい姿なんて想像していなかった。
土気色に変色し、まるで泥を被ったような皮膚の色。そこから見える緑の斑点。ひび割れた皮膚の隙間から、まるで新芽が芽吹いたような鮮やかな青。母なる大地の生命を感じさせるような命の輝きが、死と生とのコントラストを演出している。
恐怖に包まれた俺たちは、半ばパニックになりながら這い回るようにして山を下った。
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