第三話

「なあ、黒田くろださん、なんでアクティー辞めちまったんだろうな」

 サークルの飲み会の帰り道、俺は隣を歩く久保くぼに目を向けた。

 俺の所属するアクティーは、スポーツを主体とする社会人サークルだ。サークルとはいえ、中身は緩いコミュニティのようなもので、気軽に参加できることもあって俺は居心地の良さを感じていた。

 サークルを立ち上げた代表の森岡もりおかの意向らしく、参加の垣根は低く誰でも迎え入れるというのが方針らしい。

 黒田もまたそんな中の一人だった。五つ年上の黒田はしっかり者で面倒見もいい。俺とは地元が同じだったことから色々と目をかけてもらっていた。

「ああ、そうだよな。お前仲良かったもんなあ」

 隣を歩いていた久保は俺に目を向けた。

「連絡とかなかった? 電話してみたんだけど全然出てくれなくって」

 面倒を見てもらっていただけに、何の連絡もなく黒田が辞めてしまったのはショックだったし、何かあったのではないかと心配だった。

 俺の問いかけに対し、久保は首を横に振ってから、「森岡さんに聞いてみたら?」と短く答えた。確かに代表に聞くのが手っ取り早いだろう。

「って言ってもさあ、森岡さんも最近姿見ないけどな」

 どうやら仕事が忙しいということらしく、森岡もここ最近サークルに顔を出していないし、今日の飲み会も不参加だった。

 そんなことを話しているとがしゃん、と背後から大きな音が響いた。驚いて振り返ると、何人かのサークル仲間が道の真ん中でざわざわと何かを言い合っている。

「ああ、サクのやつやりやがった」

 久保が呆れたように呟いた。どうせいつものように酔い潰れて転んだのだろう。

 サクこと桜田さくらだは俺たちと同い年だ。酒好きな癖に限界を知らないのでいつも周りに迷惑をかける。そんな時は必ず、同い年ということで俺や久保が面倒みることになるのだ。

 仕方なく様子を見に桜田の元へ駆け寄ると、数人の足の隙間から、だらしなく寝そべっている桜田が覗く。それを見て察したように久保が「こりゃ帰れねえなあ」とため息をついた。桜田の酔いが覚めるまで適当な店で朝まで時間を潰して、始発帰りするコースだ。

「あとは適当にやっときます」と声をかけると、真ん中で桜田を介抱していた女が「いつも悪いわね」と言った。森岡の彼女の美咲みさきだ。容姿端麗な上に人あたりがよく、気配りもできる女性で皆から慕われている。

 俺と久保で桜田を担ぎ、適当な店を探そうとしたとき。

「ほんとごめんね、私終電まで時間あるからお店探してくるわよ」

 森岡が不在なこともあって責任を感じているのだろうか、俺たちは大丈夫だからと断るのも聞かず、走っていってしまった。



 店に移動した俺たちは漸くひと息ついた。桜田はがあがあといびきをかいて眠っている。呑気なもんだぜ、と久保が呆れながら運ばれてきたウーロン茶を喉に流し込んだ。美咲は「一杯飲んだら帰るね」と言いながら注文を待っている。

 俺は、美咲に気になっていることを聞いた。

「黒田さんって、どうしてサークル辞めちゃったんですか?」

「ああ、悠真ゆうまくん仲良かったものね。私も突然だったからびっくりしたわよ。森岡くんに連絡があったみたいだけど、私も詳しいことは聞いてないの」

「俺、何回か連絡してみたんですけど、全然電話に出てくれなくって」

 美咲は、そっかあ、と視線を宙に浮かせると、俺と久保に視線を向けた。

「心配よね。でもね、人には色々事情があるでしょ。黒田くんだってそう。私たちの知らない彼の姿だってある」

 美咲は、諭すように優しい声で俺たちに言った。

「お互いいい大人なんだし、あんまり人の事情に踏み込むのは良くないと思うわ。電話に出ないってことはそれなりの理由があるはずよ。だから」

 そっとしておいてあげたら? と優しい笑顔を向けられ、俺はそれ以上何も言えなかった。

「あ、そんなことより、今週あなたたち三人で旅行行くんでしょ。楽しんできてよ」

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