第二話 聞き込み

翌朝、少し雨が降っていた。陸は昨日のことを考えながら足早に学校へ向かっていた。


昨日の音はなんだったんだろう。たまたま子供達が下校中に歌っていたのと、吹奏楽部の演奏が重なったのか。いや、あんな音のする楽器あったか?高い音のチャイム、それより鐘の音に近かった。歌とチャイムだけじゃない。他にも不思議なことがあった。周りの空気だ。周囲の生徒の声、楽器や運動部のタイマーの音、掲示物が風に吹かれてめくれる音、カーテン、全てが止まっていた。普段より少し暑くて、汗が頬を伝う感触があった。心なしかあの時だけ、田中さんと自分の二人しかいなかったような、そんな感覚になった、ような。


こんな田舎の学校で過ごしていて今まで何も起こってこなかったから、少しの出来事に敏感になっているだけかもしれない、と言い聞かせる。


「あっっ」


水たまりに思い切り足を突っ込んでしまった。いつもなら、こんなありきたりなミスはしない。胸がざわつく。


「おー、派手にいったなー陸、あははっ」


「あー颯太お前か、一日ずっと濡れた制服のまんまなの、勘弁してほしいわマジで」


「お前、めっちゃ上の空でぼーっとしとったぞ。昨日の部活、途中で抜けたけど何しとったん?帰って来んの遅かったし。あっ、まさか彼女とイチャついとったんじゃねーの?」


颯太の発言で田中さんとした約束を思い出した。昨日のことを颯太に聞かなければいけない。


「彼女なんていねぇわ。てかさお前、昨日変なことあったの覚えてる?周りが妙に静かになって、変な鐘の音と歌、聞こえたじゃん」


「ほぉけぇ?忘れたわ。俺グラウンドおったし、聞こえんかったと思うけど」


「ほぉけぇってお前…いつの人だよ。まあ、それはともかく。本当に聞こえんかった?カランカランって結構でかい音で鐘が鳴ってさ、その後小学生みたいな歌声が聞こえたんだよ」


「何それ、お前夢でも見とったんじゃねーの」


颯太の顔が一瞬曇る。嘘をついて俺をからかおうとしているのか?だが、彼は嘘をついたら、あからさまに目が泳ぐからすぐにわかる。真っ直ぐに目を見て音がしなかったと言っているから、きっとこの発言は本当のことなんだろう。


「…まじかよ。本当に言ってる?じゃあさ、急に周りが静かになったりもせんかった?」


「おん、せんかったに。ストレッチしとったし、周りの音も普通に聞こえとったもんで。静かになったらさすがに一発で気づくって」


「まじか、…わかった」


「てか期末の勉強したずら?今回の範囲全くわからんもう終わったかもしれん…誰があの説明でりか」


「なあ、昨日の鐘と歌、聴いたやつ探すの手伝ってくれないか?あんなでかい音、聞こえんわけないと思うんだわ」


颯太の話を遮るように話しかけた。自分の頭だけでは整理できない気がしたから、とにかく誰かに頼りたい気持ちになった。


「りょーかい。昼休み、1組の前な」


もし、これでみんな颯太と同じ反応をしたら。


「…もしかして」





「えぇ、本当に?みんな知らないの…?」


「うん、うちらバスケで中練しとったけど、聞こえんかったなー。対人メニューちょうどやっとったから、それかも」


「私も楽器吹いとったもんで気づかんかったなぁ」


「あっそういえば、鐘がなる前に吹部の演奏が途中でいきなり止まったんだよね」


「ええ〜?昨日はコンクールの練習を通しで2回しとったもんで、途中で止まるなんてあり得んと思うけどなぁ〜」


「…え、」


頭が追いつかなかった。なら、昨日私はどこで何を聞いたのだろうか。思い返せば、バスケ部の声もドリブルの音も聞こえなかった気がする。


「じ、じゃあ私が聞いたのってなんだったの…?でも確かに、聞こえたんだよ。もう一人同じ教室にいた人も聞こえてた」


「もしかして〜、結ばれる二人にしか聞こえない運命の音とか!」


「雪が降るときみたいに、何か条件があって起こったのかもねぇ」


「…そうなのかも」


でも、この二人が聞こえないということは、もしかして。


「奏音が聞いた音のこと、詳しくはわからんけどさ。困ったら頼ってね。うちらはあんたのことわかっとる側の友達だもん。」


大きな目を細くし、こくこくとうなずく心。


「うん、ありがとう夏芽、心も」


夏目はニカっと笑った。その横で、心も少し心配そうに微笑んだ。

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