第18話 制御限界



 夜明け前。

空はまだ、

群青色に

沈んでいた。


 荒神龍斗は、

廃ビルの

屋上で

息を整える。


 全身が、

重い。


 筋肉が

軋み、

骨の奥が

熱を持つ。


     ◆


「……出しすぎた」


 宝槍を

地に突く。


 穂先から

淡い蒼光が

滲み、

すぐに

消えた。


 制御が、

遅れている。


     ◆


 そのとき。

遠くで、

警報音。


 低く、

連続。


 都市防衛用の

非常警戒。


「……ダンジョン、

か」


     ◆


 次の瞬間、

空間が

歪んだ。


 黒い裂け目。


 強制出現型

ダンジョン。


 半径数百メートル。


 人の

生活圏だ。


     ◆


 地上から、

悲鳴。


 龍斗は、

即座に

跳ぶ。


 ビルを

蹴り、

滑空。


 地上に

降り立つ。


     ◆


 すでに、

魔物が

溢れていた。


 四足の

獣型。


 皮膚は

岩のよう。


 牙が

街灯を

噛み砕く。


「……数が、

多い」


     ◆


 探索者たちが

応戦している。


 だが、

押されている。


 連携が

崩れ、

一人、

吹き飛ばされた。


     ◆


「下がれ!」


 龍斗は、

前へ。


 宝槍を

振るう。


 一閃。


 蒼光が

弧を描き、

魔物の首を

断つ。


     ◆


 だが、

止まらない。


 次。

その次。


 三体が

同時に

跳躍。


 龍斗は、

迎え撃つ。


     ◆


 突き。

薙ぎ。

払い。


 確実。


 だが、

魔力消費が

激しい。


 胸が

焼ける。


     ◆


「……まだ、

足りない」


 奥。


 裂け目の

中心。


 巨大な

影。


     ◆


 ボス級。


 二足歩行。


 全高、

五メートル。


 腕が、

刃。


 目が、

赤く

光る。


     ◆


 周囲の

魔物が、

一斉に

退く。


 空気が

変わる。


 探索者たちが

固まった。


「……撤退を!」


     ◆


 だが、

逃げ切れない。


 ボスが

踏み出す。


 一歩で、

地面が

割れる。


     ◆


 龍斗は、

前に出た。


「……俺が

止める」


 宝槍を

構える。


     ◆


 ボスが

吠える。


 衝撃波。


 龍斗は、

耐えきれず、

数メートル

滑る。


 足が

沈む。


     ◆


「……重い」


 それでも、

踏み込む。


 突き。


 だが、

刃腕が

弾く。


 火花。


     ◆


 反撃。


 横薙ぎ。


 龍斗は、

跳ぶ。


 空中で、

体を

捻る。


 かすめる

風圧。


 背中が

裂ける。


     ◆


 着地。


 即、

次の攻撃。


 連撃。


 速度を

上げる。


 蒼光が

連なる。


     ◆


 だが――

届かない。


 装甲が

硬すぎる。


 竜の声が、

強く

響く。


「――解放しろ」


     ◆


「……だめだ」


 龍斗は、

歯を

食いしばる。


「まだ、

人で

いたい」


     ◆


 次の瞬間、

刃腕が

突き刺さる。


 肩。


 骨が

鳴る。


 激痛。


     ◆


 龍斗は、

叫ばない。


 宝槍を

握り直す。


 血が

滴る。


     ◆


「……一瞬だけ」


 呟き。


 足元に、

魔法陣。


 蒼と

金。


 混ざる。


     ◆


 空気が

震える。


 竜の影が、

完全に

立ち上がる。


 探索者たちが

息を

呑む。


     ◆


「――竜神、

第二解放」


 龍斗の

瞳が

金に

染まる。


     ◆


 一瞬。


 世界が

遅くなる。


 ボスの

動きが

見える。


 全て。


     ◆


 踏み込み。


 突き。


 薙ぎ。


 一連。


 刃腕が

飛び、

胴が

裂ける。


 蒼光が

爆発。


     ◆


 ボスは、

咆哮すら

上げられず、

崩れ落ちた。


     ◆


 静寂。


 裂け目が

縮む。


 ダンジョンが

消滅。


     ◆


 だが。


 龍斗は、

立って

いられなかった。


 膝を

つき、

倒れる。


     ◆


 竜の声が、

遠くなる。


「……次は、

完全に

持っていくぞ」


 笑い。


     ◆


 龍斗は、

薄れる意識の中で

理解した。


 もう、

限界が

近い。


 制御か。

喪失か。


 選択は、

迫っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る