第16話 黒幕の輪郭



 地下駐車場の

照明は、

半分が

壊れていた。


 白い光と

影が、

まだらに

床を染める。


 荒神龍斗は、

柱の陰で

足を止めた。


 胸の奥が、

嫌な

静けさを

保っている。


「……ここだな」


     ◆


 空気が、

重い。


 魔物ではない。

だが、

明確な

殺意。


 拍手が

響いた。


 ゆっくり。

余裕の

ある音。


「素晴らしい」


 闇の奥から、

男が

姿を現す。


 白い

ロングコート。

整えられた

髪。


 年齢は、

三十前後。


 だが、

目が――

冷たい。


     ◆


「荒神龍斗。

いや……」


 男は

微笑み、

言葉を

選ぶ。


「竜の器、

と呼ぶべきかな」


 龍斗は、

宝槍を

構えた。


「……誰だ」


「名は

必要ない」


 男は、

肩を

すくめる。


「ただの

管理者だよ」


     ◆


 次の瞬間、

空気が

弾けた。


 男の姿が、

消える。


「――っ!」


 龍斗は、

反射で

身を

捻った。


 直後、

柱が

爆ぜる。


 背後。


 拳。


 龍斗は、

槍の柄で

受けた。


 衝撃。


 腕が

痺れる。


     ◆


「……速い」


 今までの

敵とは

違う。


 重さが、

桁違い。


 男は、

後退も

せず、

再び

踏み込む。


 連打。


 拳、

蹴り、

肘。


 龍斗は、

必死に

捌く。


 だが――

削られる。


     ◆


 床を

滑るように

後退。


 息が

荒い。


 男は、

微笑んだまま。


「抑えているな。

竜の力を」


「……だから

どうした」


「正しい判断だ」


 男の目が、

細く

なる。


「だが――

それでは

勝てない」


     ◆


 一瞬。


 男の

背後に、

影が

重なる。


 人の形。

だが、

輪郭が

揺らいでいる。


「……影装?」


 龍斗が

呟く。


「理解が

早い」


     ◆


 影が、

男の

動きを

増幅する。


 次の攻撃は、

見えなかった。


 龍斗は、

吹き飛び、

車に

叩きつけられる。


 ガラスが

砕け、

警報が

鳴り響く。


「……ぐっ」


     ◆


 男が

近づく。


 一歩、

一歩。


「竜神は、

災害だ」


「管理される

べき存在」


「だから、

君を

捕獲する」


 淡々と、

宣告。


     ◆


 龍斗は、

立ち上がった。


 膝が

笑う。


 視界が

揺れる。


 だが――

退かない。


「……断る」


 宝槍を

地に突き、

体を

支える。


     ◆


「なら、

壊すまでだ」


 男が

踏み込む。


 同時に、

影が

牙を剥く。


 龍斗は、

深く

息を吸った。


 胸の奥で、

竜が

暴れる。


     ◆


「……一瞬だけだ」


 理性が

許可する。


 宝槍が、

咆哮した。


 蒼光が

爆発的に

広がる。


 床が

割れ、

柱が

傾く。


     ◆


 龍斗は、

突進。


 速度が、

跳ね上がる。


 男の

拳を

弾き、

懐へ。


 柄で

鳩尾。


 だが、

男は

耐えた。


 反撃。


 拳が

龍斗の

頬を

打つ。


 血が

散る。


     ◆


 だが、

止まらない。


 龍斗は、

歯を

食いしばり、

突き。


 穂先が、

影ごと

貫く。


「……っ」


 男が、

初めて

顔を

歪めた。


     ◆


 影が

悲鳴を

上げ、

霧散する。


 男は、

後退。


 距離を

取る。


「……想定以上だ」


 だが、

恐怖は

ない。


 興味。


     ◆


 サイレンが、

近づく。


 男は、

コートを

整えた。


「今日は

ここまでに

しよう」


「次は、

準備を

整えて

来る」


     ◆


「逃げるのか」


 龍斗の

問いに、

男は

微笑んだ。


「生き延びる

だけだよ」


 次の瞬間、

男の姿は

影に

溶けた。


     ◆


 静寂。


 破壊された

駐車場に、

龍斗だけが

残る。


 宝槍の

光が、

ゆっくりと

収まる。


「……黒幕」


 竜が、

低く

唸る。


 敵は、

はっきりした。


 個では

ない。


 思想を

持った

組織。


     ◆


 龍斗は、

拳を

握り締めた。


 人として

生きる。


 だが、

竜の力を

捨ては

しない。


 次に

相まみえる時、

もっと

厳しい

戦いになる。


 それでも――

退かない。


 荒神龍斗は、

確かに

前を

向いていた。

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