第14話 都市に潜む影



 夜明け前の都市は、

不自然なほど

静かだった。


 街灯だけが

点々と

路地を照らし、

人影は

ほとんどない。


 荒神龍斗は、

ビルの屋上に立ち、

宝槍を

背に負っていた。


 胸の奥が、

ざわつく。


 竜の鼓動ではない。

人の直感。


「……来てる」


     ◆


 次の瞬間、

空気が

裂けた。


 屋上の縁が

砕け、

黒装束の

集団が

躍り出る。


 五人。


 全員が

仮面を

着けている。


「探索者でも、

ギルドでもない……」


 龍斗は、

槍を

構えた。


     ◆


 最初に

動いたのは、

左の男。


 短剣が

二本、

同時に

投げられる。


 龍斗は

半身になり、

一本を

柄で弾く。


 もう一本は、

首元を

掠めた。


 血が

一筋

流れる。


「……対人戦、

か」


     ◆


 間髪入れず、

残りが

一斉に

距離を詰める。


 速い。


 探索者とは

違う。


 無駄のない

殺しの動き。


 龍斗は、

後退しながら

穂先を

振る。


 牽制。


 だが、

避けられる。


     ◆


 背後。


 気配。


 龍斗は

振り向かず、

後方へ

蹴りを放つ。


 鈍い音。


 一人が

吹き飛び、

壁に

叩きつけられた。


 だが、

すぐに

立ち上がる。


「……人間、

なのに」


     ◆


 正面から、

大剣。


 横から、

槍。


 同時。


 龍斗は、

踏み込み、

槍を

縦に回す。


 大剣を

弾き、

そのまま

柄で

槍使いの

顎を打つ。


 骨の

砕ける音。


 だが、

止まらない。


     ◆


 背後から、

衝撃。


 魔力弾。


 直撃。


 龍斗は

屋上を

転がり、

縁で

止まった。


 下は、

十数階。


「……殺す気、

満々だな」


     ◆


 胸の奥が

熱くなる。


 だが、

解放しない。


 竜の力は

抑える。


 ――人として

戦う。


 龍斗は、

深く息を吸い、

地を蹴った。


     ◆


 一直線。


 槍を

低く構え、

突進。


 一人目の

腹部を

貫く。


 即座に

引き抜き、

反転。


 二人目の

足を

払う。


 倒れた瞬間、

穂先を

喉元へ。


 止め。


     ◆


 残り三人。


 距離を

取る。


「……情報通り、

化け物だ」


 誰かが

呟く。


 龍斗は

答えない。


 視線は、

動き、

呼吸、

重心。


 すべて

見ている。


     ◆


 一斉突撃。


 今度は、

完璧な

連携。


 龍斗は、

真正面から

迎えた。


 槍を

振る。


 受けられる。


 だが、

それが

狙い。


 柄を

滑らせ、

手元を

変える。


 至近距離。


 膝。


 肘。


 体当たり。


 純粋な

格闘。


     ◆


 一人が

倒れる。


 もう一人。


 最後の一人が、

距離を取り、

懐から

何かを

取り出した。


「……退くぞ」


 煙。


 視界が

白に

染まる。


     ◆


 龍斗は、

煙の中へ

踏み込まなかった。


 感情が

揺れている。


 怒り。


 違和感。


 敵は、

魔物ではない。


 人。


     ◆


 煙が

晴れた時、

誰も

いなかった。


 屋上には、

破壊の跡と、

倒れた

二人だけ。


 気絶。


 殺していない。


     ◆


「……組織か」


 宝槍が、

微かに

震える。


 竜が

警告する。


 これは、

始まりに

過ぎない。


 ダンジョンの

外側にも、

戦場は

ある。


     ◆


 龍斗は、

夜明けの

空を見上げた。


 人として

生きると

決めた。


 だが、

その選択が、

どれほど

過酷か。


 すでに、

理解し始めている。


 都市の影で、

新たな敵が

動き出していた。

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